ダイハツ・ブーンX4 ハイグレードパック(4WD/5MT)【ブリーフテスト】
ダイハツ・ブーンX4 ハイグレードパック(4WD/5MT) 2006.04.28 試乗記 ……206万8500円 総合評価……★★★★★ ファミリーコンパクトカーの「ブーン」にターボを装着し、足まわりを固めたモータースポーツ参加用ベース車両「X4(クロスフォー)」が追加。スパルタンなイメージだが、レースに出ない人にも魅力的なクルマなのだろうか?
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いい汗かける、痛快な1台
コーナーを抜けてアクセルを全開にし、ガツンとブレーキングして、回転計を睨みつつギアを上げ下げして、また次のコーナーに神経を集中する。「ダイハツ・ブーンX4」は、最近忘れかけていたクルマを走らせる原初的ともいえる楽しみを、久々に存分に堪能できるクルマだ。それは、もちろん絶対的な速さが知れていること、そしてボディサイズが小さいことのおかげでもある。そうやって本人は頑張っているつもりでも、周囲が眉をひそめるようなことにはならないというわけだ。
だから、本来は競技用ベース車両とはいえ、日常の足として通勤などに使うというのも大いにアリではないかと思う。外からはおとなしいコンパクトカーに見えて、実は乗っているほうは、毎朝晩アクセル全開で楽しんでいるだなんて、とても痛快。ノーマルのままなら乗り心地も良いし、ボディの小ささゆえの機動性を含めて、最高の通勤快速となるだろう。車内騒音さえ我慢すれば、ファミリーカーとしても使えるはずである。
もちろん、たまにはワインディングロードにも顔を出したいなんて場合は、シートやタイヤ、サスペンションなどを交換して楽しむのもいい。そうしたくなる素材としての魅力も、そこにはある。
いずれにせよ、いい汗かいて走る嬉しさ楽しさをたっぷり味わえる痛快な1台であることは間違いない。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「ブーン」は2004年6月に発売されたトヨタとダイハツの共同開発車で、「ストーリア」の後継モデル。トヨタエンブレムを装着すると「パッソ」になる。ともに生産はダイハツの工場で行われる。
エンジンは、1リッター直3と、1.3リッター直4の2種。トランスミッションは全車4段オートマチックで、前輪を駆動。1リッターモデルにのみ4WDが用意される。さらに、2006年3月にモータースポーツ参加用ベース車両として、1リッターターボエンジン搭載の「ブーンX4(クロスフォー)」を追加。なお「パッソ」にX4は設定されない。
(グレード概要)
「ブーンX4」に搭載されるエンジンは、ラリーやダートラなどの1600cc以下クラスに参戦可能な、新開発の0.936リッター直4DOHCターボユニット。最高出力133ps/7200rpm、最大トルク13.5kgm/3600rpmを発生する。変速機はクロスレシオの5段MT、駆動方式はフルタイム4WD。前後スタビライザーやスポーツサスペンション、フロント機械式LSDなどでコンペティションに備える。さらにインタークーラーのフィンを冷却する「インタークーラーウォータースプレー」も装備する。
モータースポーツ参加用ベース車両であるため、快適装備は簡素。オーディオもエアコンも無い。試乗車の「ハイグレードパック」になると、MOMO製の革巻きステアリングホイール、14インチアルミホイール、キーレスエントリー、エアコン、電動格納式カラードドアミラーなどの快適装備が追加される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
競技用として使われるクルマと聞くと乗る前には身構えてしまうが、考えてみれば、これはあくまでベース車。吊るしの室内にはコンペティションの匂いは無い。しいていえば、後付け感たっぷりのタコメーターがそれっぽい雰囲気を醸すくらいだ。オプションのハイグレードパックを装着した試乗車は、MOMO製の革巻きステアリングやエアコン、さらにはキーレスエントリーも装備していて、あとはオーディオなりナビがあれば日常使用でも不便は無いだろう。けれど、それよりまず欲しいのはフットレスト。ゲートが曖昧なギアシフトのタッチもカッチリさせたい。
(前席)……★★★
シートの形状はブーンの他のグレードと共通。乗り心地は結構いいのだが、サポート性はまったく期待できない。ハイグレードパックにはシートリフターが備わるが、一番下まで下げても、着座位置は高め。クルマの性格を考えると良過ぎるぐらい乗り心地の良いサスペンションが比較的ロールを許す設定ということもあって、攻める走りをするとなおのこと物足りなさがつのる。このあたりは、やはりベース車。交換されるのが前提ということだろうから、コストを考えても、これはこれでいいのだが。
(後席)……★★
ドア開口部がスクエアでアクセスしやすいのは好印象。しかし、やはり他グレードと同形状の後席は、広さは期待以上とはいえ、形状は平板だし背もたれの高さも不足気味で、あまり快適な空間とは言えない。それでもハイグレードパック装着車はまだいいほうで、ベース車では左右席のヘッドレストやアシストグリップも省かれてしまう。とはいえ、ベース車では後席に人を乗せることはまず無いだろうから、まあ良い。しかしハイグレードパックには、他のブーンもそうだが、中央席のヘッドレストと3点式シートベルト装着を強く望む。
(荷室)……★★★★
後席には他のグレードと同様にリクライニングと6:4分割可倒機構が備わり、荷物の量や大きさに応じて、必要とあらば荷室を大きく拡大することができる。クルマの性格からすれば、別にここまで凝ってなくていいのにとも思うが、敢えてX4だけのために簡素なシートを起こすほうが無駄だということなのだろう。ラゲージルームランプも備わるので、使い勝手は他グレードと変わらない。夜の林道あたりで工具やスペアタイヤを取り出すのにも困ることはない、といったところか。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
排気量936ccのターボエンジンは最高出力133psとハイチューンゆえに、4000rpmあたりから急激にトルクが立ち上がり、モーレツな勢いで7800rpmからのレッドゾーンへと突入するピーキーな特性。それをカバーするべく5段MTは、1速でレブリミットまで回して50km/h、2速でも75km/h、3速でようやく100km/hに達するほどのクロスレシオとされていて、普通に流れに乗っていくだけでも頻繁なシフトが必要だ。
しかし、それは苦痛なんかじゃなく、むしろ頭を真っ白にして没頭してしまうほど楽しい。回転を上げるにつれて高まる、ギアボックスからと思しきヒューンというノイズも、競技車っぽい気分を盛り上げてくれる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
前後スタビライザー付きのスポーツサスペンションを備えながら、意外にも乗り心地はむしろ積極的に良いと評せるほど。ステアリングも、ロック・トゥ・ロック3.5回転もするほどスローだが、その効き自体は正確で、回頭性も実は結構素直だ。さらに、フロントに機械式LSDを入れているだけに、そこからアクセルを踏み込めば、思った方向に力強く立ち上がることができる。一方で4WDらしさはあまり感じられないが、スポーツ指向ではない175サイズのエコ系タイヤで、これだけのパワーを取りあえず破綻無く路面に伝えられているのだから、きっとそれなりに恩恵はあるのだろう。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2006年4月18日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:2838km
タイヤ:(前) 175/65R14(後)同じ(いずれも、ダンロップSP10)
オプション装備:大径フロントディスクブレーキ(14インチ)=2万1000円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(6)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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