アストンマーティンDB9(6AT)【海外試乗記(中編)】
優しいハイパフォーマー(中編) 2004.03.28 試乗記 アストンマーティンDB9(6AT) ガラスのボタン。竹のパネル。最新アストンは、伝統をなぞるだけのクルマではない。『webCG』コンテンツエディターのアオキによる、「DB9」試乗報告。モダーンなスーパースポーツ
いまや旧工場となったニューポートパグネルでハンドフィニッシュされる「アストンマーティン・ヴァンキッシュ」と比較すると、「DB9」は生産過程において、工業製品の度合いが(相対的に)高まった。いいかえると、英国ウォリックシャー州ゲイドンにまったく新しい工場を建設することで、コスト、生産に必要な時間とも、大幅に抑えることが可能となった。
とはいえ、いうまでもなく、一般的な大量生産車では考えられない手間暇をかけて、1台のDB9は組み立てられる。デザイナーのヘンリク・フィスカーによると、ヘッドランプカバーのフェンダーパネルに対するパーフェクトな合わせ方、太さを変えながら一筆書きのようにサイドウィンドウを囲むメッキトリムなどに、高級品たる手づくりの味が残されるという。
そんな説明を受けなくとも、新しいアストンマーティンは、十二分に美しい。車両寸法は、全長×全幅×全高=4710×1875×1318mmだから、「DB7」とほとんど変わらない。フェラーリの2+2スポーツ「456M」と比較すると、すこし小柄。つまり、456Mの後を襲った「612スカリエッティ」よりは、ひとまわり小さいということだ。
やや上方に開くドアを開けてドライバーズシートに座る。着座位置は低い。脚は、レーシィに前方に投げ出すカタチ。フロントバルクヘッドにめり込むように12気筒が搭載されるため、ギアボックスを後ろに置く「トランスアクスル」ながら、足もとはやや狭い。腰の横を走る、センタートンネルが頼もしい。
ステアリングホイールはチルト(上下)テレスコピック(前後)できる。シートはパワー。メーターパネル、センターコンソールに広く使われるアルミパネルが先進のスポーツカーであることを主張する。
さらにテスト車は、ウッドパネルがバンブー(竹)なので(ウォルナット、マホガニーも選べる)、室内の趣向がますます新しく感じられる。自然な素材を、単なる修飾としてではなく、あたかも構造材の一部であるかのように用いるアプローチが斬新だ。
シートはもとより、ダッシュボードのレザーも、パンッと張ったキッチリしたもの。革使いに関しては、イタリアンスーパースポーツの、手縫いの風合いが残った仕上がりを好む方、最新アストンのそれはあまりに冷たいと感じるヒトもいらっしゃいましょうが、それはともかく、DB9の室内は伝統をうまく現代調に昇華させており、その潔さに開発陣の大いなる自信を感じた。インテリアを手がけたのは、元ファッションデザイナーのサラ・メイナードである。
なお、「2+2」たるDB9のリアシートは、これはむしろ懲罰向きの場所で、大人では背を丸め、頭をかがめないと座れない(それでもリアガラスに触る)。膝前の空間も絶望的なので、後席は荷物置きとわりきるしかない。
ボタン式のポジション選択
キーを捻り、センターコンソール上部中央の一等地に設置された、ガラスのスターターボタンを押す。
排気量5935ccのオールアルミのV型12気筒エンジンは、バンク角60度、フォーカム48バルブのヘッドメカニズムをもつ。基本的にDB7ヴァンティッジのそれと同じ構造で、10.3:1の圧縮比から生み出される最高出力は、DB7の420psを上まわる450ps/6000rpm、最大トルクは55.1kgmから58.1kgm/5000rpmとなった。パワープラントからのアウトプットは、センタートンネル内のカーボンシャフトを介して、リアデフの前に置かれる6段ATに伝えられ、後輪を駆動する。
ZFの6段ATは、電気的にギアを制御する「シフト・バイ・ワイヤ」のため、シャフトやワイヤーの取りまわしといった物理的制約を受けない。その特徴を活かして、DB9のフロアにATセレクターはなく、コンソール上に、エンジン始動ボタンの向かって左に「P」「R」、右に「N」「D」とポジションボタンが並ぶ。「D」を押すと、いわゆる「AUTO」モードに入る。
フライオフ式のパーキングブレーキをはずし、スロットルペダルを踏むと、予想外に猛々しい出足に驚く。走行中も、タイトコーナーで不用意にスロットルを開けると、強靱な後ろ脚が力強く地面を蹴って、ドライバーを警戒させる。
……といっても、もちろん、新しいデイヴィッド・ブラウンは、気まぐれなじゃじゃ馬ではない。手合わせにあたって、「どんなものか?」とリポーターが敢えて行ったラフな操作に、正直に応えただけだ。こちらが丁寧に接すれば、DB9は爪を隠して、優雅に走り始める。(続く)
(文=webCGアオキ/写真=野間智(IMC)/2004年3月)
・アストンマーティンDB9(6AT)【海外試乗記(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015023.html
・アストンマーティンDB9(6AT)【海外試乗記(後編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015025.html
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか?