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【スペック】全長×全幅×全高=4720×1904×1282mm/ホイールベース=2740mm/車重=1785kg/駆動方式=FR/6リッターV12DOHC48バルブ(517ps/6500rpm、63.2kgm/5500rpm)/価格=2199万5000円(テスト車=2580万3350円)

アストン・マーティンDB9(FR/6AT)【試乗記】

これぞ英国流スーパースポーツ 2013.04.22 試乗記 下野 康史 アストン・マーティンDB9(FR/6AT)
……2580万3350円

初登場からほぼ10年を迎える、スポーツカー「アストン・マーティンDB9」。さらなるパワーアップを果たした最新モデルを駆り、その魅力を探った。
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大女優の存在感

新しい「DB9」に乗っていて、あらためて痛感したのは「アストンの神通力」である。路上からも歩道からも、まあよく注目されること。高速道路の本線を走っていると、斜め後ろについてなかなか追い越していかないクルマがたまにいる。すぐ左でしばらく並走を続けた黒い「GT-R」もいた。キャップをかぶった若いドライバーは、こっちの顔をのぞき込むようにしてから猛然とフル加速していった。のるかよ、アストンだぜ。

いきつけの富士山撮影ポイントで写真を撮っていたら、富士山をやめてDB9にレンズを向けてくる人が何人もいた。そんなこと、初めてだった。たぶんこのクルマはだれの目にも大女優のように美しく映るのである。高級車は数あれど、そのため、向けられるのが「怨嗟(えんさ)の視線」ではないのだ。

アストンの中核、DBシリーズの最新型がDB9である。DB9としてデビューしたのは2003年秋のことだが、10周年にあたるこの2013年モデルでビッグマイナーチェンジを受けた。
一番大きな機構的変更点はエンジン。フロントミドシップされる6リッターV12はヘッドが刷新され、従来型から40psアップの517psを得て、このクラスのスーパースポーツの“常識”となった大台突破を果たした。カーボンセラミックのディスクローターと、ブレンボのキャリパーが標準装備され、バネ下が12.5kg軽量化された。手たたきで作られるアルミボディーにも、控えめなフェイスリフトが加えられている。

フルカーボンボディーの「ヴァンキッシュ」や、すでに完売御礼の「One-77」あたりに比べると、DB9は地味である。しかもV12アストンとしては登場年が最も古く、最も安い(笑)。そのためか、日本でのセールスは「苦戦している」そうだ。

マイナーチェンジ後の最新型「DB9」は、2012年9月のパリモーターショーでデビュー。パネルの7割以上を改めたというエクステリアには、これを機に同車に統合された兄弟車「ヴィラージュ」の名残りも見られる。
マイナーチェンジ後の最新型「DB9」は、2012年9月のパリモーターショーでデビュー。パネルの7割以上を改めたというエクステリアには、これを機に同車に統合された兄弟車「ヴィラージュ」の名残りも見られる。 拡大
パワーユニットは、新たな「AM11」型を搭載。2度の“底上げ”を経て、最高出力は初めて500psの壁を突破した。
パワーユニットは、新たな「AM11」型を搭載。2度の“底上げ”を経て、最高出力は初めて500psの壁を突破した。 拡大
テスト車は、オプションの20インチアルミホイールを履く。その奥に見えるカーボンセラミック製のブレーキディスクは全車標準。レスポンスと耐フェード性に優れるとされる。
テスト車は、オプションの20インチアルミホイールを履く。その奥に見えるカーボンセラミック製のブレーキディスクは全車標準。レスポンスと耐フェード性に優れるとされる。 拡大
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時と場合で変わる所作

0-100km/hを4.6秒でこなし、トップスピードは295km/h。DB9が速いのは当然だ。ワインディングロードでも517psの片りんを味わおうとすれば“大迫力”である。トランスアクスルのおかげで、前後重量配分はほぼイーブン。大トルクと強力なLSDでアウトにはらもうとする後輪を、ESPが瞬速で落ち着かせる。FRハンドリングの醍醐味(だいごみ)が味わえる切れ味の鋭いシャシーである。

だが、普通に走っていると、DB9は実にエレガントで快適な高級クーペである。まず乗り心地がいい。ボディーの高い剛性感も印象的だ。エンジンは、タウンスピードだと「音がしない」といっていいくらい静かである。高速道路でもしかり。100km/h時の回転数は6段ATのトップで1750rpm。パドルで2速まで落とし、逆時計回りのタコメーターが5200rpmまで跳ね上がると、やっと音がする。

それくらい静粛だが、ただし二面性もある。冷間始動時のマナーだ。6リッターV12が冷え切っていると、クランキング直後の第一声はまさに“雄たけび”だ。スーパースポーツとしての演出だけでなく、クリーンな排ガスのために速攻で触媒マフラーを暖めるという実利もあるだろう。ともあれ、お隣が決して至近距離にはない、やはり豪邸向きのクルマである。
今回、満タン法のデータはとれなかったが、約280kmの区間でトリップコンピューターが出した燃費は6.3km/リッターだった。

パワーアップした「DB9」が0-100km/h加速に要する時間は、4.6秒。最高速度は295km/hとなっている。
パワーアップした「DB9」が0-100km/h加速に要する時間は、4.6秒。最高速度は295km/hとなっている。 拡大
インテリア。ふんだんに使われたレザーの感触と香りが、ドライバーを包み込む。シートポジションの調節スイッチは、センターコンソール側面に備わる。
インテリア。ふんだんに使われたレザーの感触と香りが、ドライバーを包み込む。シートポジションの調節スイッチは、センターコンソール側面に備わる。 拡大
メーターのアップ。下方から反時計回りに上昇するタコメーター(写真中央右側)は、他のアストン・マーティン車にも見られる特徴だ。
メーターのアップ。下方から反時計回りに上昇するタコメーター(写真中央右側)は、他のアストン・マーティン車にも見られる特徴だ。 拡大

すみからすみまでブリティッシュ

全幅は1.9m、ミラーを入れると2.1m近くになるファットなボディーだが、革の芳香が漂うコックピットはむしろタイトだ。そして、一度乗ったら降りたくなくなるほど居心地がいい。それは例えば1960年代の「ロータス・エラン」のコックピットにあった気持ちよさと同質だ。色気で陶然とさせるイタリア製スーパースポーツとはまた違ったブリティッシュな雰囲気がそこにはある。オーディオはバング&オルフセン。どうせならイギリスの真空管式アンプ機を搭載すればいいのにと思う。

運転席のサイドシル側にある駐車ブレーキはフライオフ式。かけた状態でもレバーは水平に寝ているため、一見さんが乗ったら、まちがいなく「サイドブレーキどこ!?」状態になるだろう。ジャガーがやめたこのブレーキを今なお残すガンコさも、イギリスっぽい。ちなみに、グローブボックスのサイズに合わせた細ながーいオーナーズ・マニュアルの最初の見開きは「アストンマーティン・オーナーズクラブへの御招待」と「アストンマーティン・ヘリテージトラストについて」である。

軽いアルミのエンジンフードを開けると、最終検査員のサインが入った6リッターV12が現れる。しかし、フードの裏側にはボンネット開閉メカのリンクやワイヤ類が露出している。こういうものは、ドイツ車なら隠す。これだけのハイテク高性能車なのに、人の手が入る、人の手が入れられる余地を残しているやに見えるのも英国車的だ。
最もベーシックなV12アストンは、だからこそ、最もシンプルにブリティッシュ・スーパースポーツの神髄を見せてくれるV12アストンだと思う。ワタシはDB9で十分です(笑)。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰昌宏)

トランクリッドに設けられたリアウイングは、マイナーチェンジでサイズがアップ。
トランクリッドに設けられたリアウイングは、マイナーチェンジでサイズがアップ。 拡大
右ハンドル車ながら、サイドブレーキは運転席の右側に置かれる。リアシートもあり、乗車定員は4名となっている。
右ハンドル車ながら、サイドブレーキは運転席の右側に置かれる。リアシートもあり、乗車定員は4名となっている。 拡大
トランクルーム。中央に見える傘は純正品。標準で備わるアイテムである。
トランクルーム。中央に見える傘は純正品。標準で備わるアイテムである。 拡大
【テスト車のオプション装備】
エクステリアカーボンパック=101万4300円/ペイント(スペシャルカラー)=60万2700円/10スポークシルバーダイヤモンドターンドアルミホイール=43万9950円/レザーカラー(コンテンポラリー)=17万9550円/ヘッドライニングアルカンターラ(コンテンポラリー)=11万7600円/カーペットカラー(コンテンポラリー)=11万7600円/リアビューカメラ=17万9550円/Bang&Olufsen BeoSoundオーディオ=93万300円/ハイスペックアラーム=5万400円/セカンダリーグラスキー=8万4000円/レザーECUポーチ=8400円/トリンケットストレージ=8万4000円
【テスト車のオプション装備】
エクステリアカーボンパック=101万4300円/ペイント(スペシャルカラー)=60万2700円/10スポークシルバーダイヤモンドターンドアルミホイール=43万9950円/レザーカラー(コンテンポラリー)=17万9550円/ヘッドライニングアルカンターラ(コンテンポラリー)=11万7600円/カーペットカラー(コンテンポラリー)=11万7600円/リアビューカメラ=17万9550円/Bang&Olufsen BeoSoundオーディオ=93万300円/ハイスペックアラーム=5万400円/セカンダリーグラスキー=8万4000円/レザーECUポーチ=8400円/トリンケットストレージ=8万4000円 拡大
下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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