メルセデス・ベンツE280(FR/7AT)【試乗記】
ジワリジワリと磨かれている 2005.12.23 試乗記 メルセデス・ベンツE280(FR/7AT) ……710万8500円 メルセデス・ベンツ「Eクラス」に新開発3リッターV型エンジンを搭載する「E280」が追加設定された。「E240」に代わるエントリーモデルに試乗した。新しい3リッターの「E280」
PCの世界ほどではないけれど、時間が経てば経つほどドンドン改良されていくのは自動車も同じ。特に比較的モデルライフの長いヨーロッパ車は“買い時”を見極めるのが難しい、という定説(?)にはやはり一理ある。
たとえば、アッパーミディアムクラスセダンの定番たるメルセデスEクラス。日本仕様もいつの間にか全車ギアボックスが7速の7Gトロニックに換装され(4マチックとAMG除く)、エンジンも大きくなって、E280とE350、E500とE55AMGというラインナップになっていた。このうちE280は、従来のE240に代わるベーシックモデルだが、E280といってもエンジン排気量は3リッター、DOHC24バルブヘッドに可変バルブタイミングなどを加えた新世代V6ユニットだ。新型SクラスもS500と言いつつ実は5.5リッターのV8、またややこしくなってきた。
それはさておき、E280の新しい3リッターV6エンジンは231ps/6000rpmと30.6kgm/2500〜6000rpmを発生、さらに前述の通り電子制御7速オートマチックトランスミッションの7Gトロニックが組み合わされているおかげで、走りっぷりは従来のE240(2.6リッターV6で177ps)とは比較にならない。3年近く乗った経験から言うと、中型セダンのお手本と誉めてもいいE240の数少ない弱点のひとつは、街中でのストップ&ゴー、あるいは低回転域からのピックアップだった。踏み始めがやや鈍い電子制御スロットルのせいもあって、微妙な加減速がやり難かったことは否めない。
それが新しいE280では、3リッターエンジンのパワーだけでも従来の中核車種E320(224ps)以上なのだから、まったく文句なし。俊敏な加速がいつでも手に入る。つけ加えると、★4つ(75%低減)の低排出ガス車認定を取得しているという。
安全面はプラス、装備面は省略
パワートレーンの進化に加えて、追突時に前席ヘッドレストを前上方に押し出す「NECK PROアクティブヘッドレスト」や、ステアリングの操舵に合わせてバイキセノンヘッドライトの照射角を変える、アクティブライトシステムといった安全装備も新たに盛り込まれている。それで価格は682万5000円(消費税込み。税抜きだと650万円)。ちょうど3年前に発売された当時のE240の税抜き車両本体価格は605万円だったから、およそ40万円の上昇だが、中身を考えるとやはりお買い得と言えよう。ただし、細かいところを見ると、初期型に比べて装備類では省略、またはグレードダウンされたものもある。そのあたりが一概に「クルマは後で買え」とはいえない理由だ。
E280では、たとえば前後左右席独立調整式の4ゾーンオートエアコンが左右独立の2ゾーンエアコンに替えられているし、Aピラーに備わっていた後席用の吹き出し口も省かれている。また、分割可倒式だった後席バックレストもトランクスルーではない普通の固定式に変更されている(E500アバンギャルドにはオプション設定あり)。おそらく日本ではその装備をありがたがるユーザーが少なかったのだろう。そうそう、右ハンドル仕様でとりわけ耳についた、例のSBC(センソトロニック・ブレーキ・コントロール)のポンプのチャージ音も、依然として聞こえるが、ごく小さくなっていることが確認できた。これならほとんど気にならないだろう。二度に及ぶリコール騒動の怪我の功名と言うべきか、以前よりはブレーキペダルのタッチもずいぶんとしっかりしたものになっている。
デビューから3年が過ぎたEクラスは古臭くなるどころか、依然としてこのクラスのスタンダードだ。彼らにとっては当たり前のことだろうが、売らんかなの「てこ入れ」とは対照的に名前も変えず、フェイスリフトもせず、宣伝すらほとんどしないまま、いつもジワリジワリと磨かれている。昔とは違うと言われるのは、メルセデスらしさのごく一部だけなのである。
(文=NAVI高平高輝/写真=郡大二郎/2005年12月)

高平 高輝
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