アウディTTクーペ2.0 TFSI(FF/2ペダル6MT)【試乗記】
正常進化の光と影 2006.12.13 試乗記 アウディTTクーペ2.0 TFSI(FF/2ペダル6MT) ……508.0万円 8年を経て2代目に進化した、アウディの新型「TTクーペ」。自動車雑誌『CAR GRAPHIC』長期テストで初代モデルを担当したリポーターが新型を試す。デザイン、走りはどう進化したのか。心惹かれた初代「TTクーペ」
「まずカタチありき」。1998年秋にデビューした「アウディTTクーペ」の魅力はなんといってもこれに尽きた。
もちろん、スポーツカーとは言えないまでも充分スポーティな味付けが施された実用性の高いクーペだったから、カタチだけのクルマというわけではないのだが、やはり見た目のインパクトはすごかった。
バウハウス・デザインの流れを汲むそのスタイリングは、個性的かつ新鮮。人によって好き嫌いは分かれたはずだが、累計26万台以上が販売された実績を見るかぎり、けっして一部の好事家だけに支持されたわけではなさそうだ。私自身、TTクーペを初めて目にした瞬間、心惹かれたひとりである。
あれから約8年を経て登場した2代目は、先代に比べてずいぶんと進化を遂げた。クルマというもの、モデルチェンジを重ねるごとに洗練されていくものだから当然といえば当然なのだが、先代のネガティブな要素をひとつひとつ潰していくことによって、2代目はハードウェアとして成長する。このTTクーペもそんな例に漏れない。
新型TTクーペには3.2リッターV6搭載のクワトロと2リッター直4ターボの前輪駆動モデルの2種(日本仕様ではいずれも2ペダルMTが標準)が用意されるが、今回乗ったのは後者である。
全体的にスムーズな走りへ
走り出してすぐに感じる先代との違いは、パワートレイン、サスペンションをはじめとしてすべての点においてスムーズさが増したことだろう。
直噴ガソリン・ターボエンジンは先代のような、いかにも“ターボでござい”といったメリハリはない。しかし、パワーの盛り上がる様はじつに滑らかで自然だ。200psというパワーは先代の1.8リッターモデルより少なめとはいえ、充分以上の加速性能を味わえる。
これはアルミスペースフレームが採用された、サイズのわりに軽量なボディも奏功しているに違いない。たしかにもっとパワフルでもいいけれど、日常使うにはなんの不足があろうか。
しかもトルク重視型のパワーユニットだけに、トランスミッションとの相性もよく非常に扱いやすい。先代のV6モデルから採用された「DSG」、いまは「Sトロニック」と呼ばれるツインクラッチ・システムのトランスミッションはさらに洗練度を増し、ステアリングホイールに備わるパドル(あるいはシフトレバー)による変速が瞬時に行われるのもマルだ。
ハンドリングは徹頭徹尾、安定志向に躾けられている。前マクファーソン・ストラット、後4リンク式マルチリンクという形式のサスペンションは、懐の深いところを見せる。
ワンディングロードでのフットワークのよさはドライバーに安心感を与えてくれ、誰もが速いペースで飛ばすことが可能。あまりにも安定したコーナリングゆえに一部の“戦闘的な”ドライバーは物足りなさを感じるかもしれないが、万人向けのスポーティクーペと割り切れば、まったく不満はない。
高速道での直進性は高く、右へ左へとコーナーの連続する山坂のステージでも、狙ったとおりのラインを難なくトレースできるし、トラクションの高さも申し分ない。
エンジンよりも明らかにシャシー性能が上回っているクルマなのである。
仕上がりの完成度は高いけれど
乗り心地は先代よりもずっと向上しており、とくにピッチング方向の姿勢変化が顕著だった旧型に比べるとかなりフラット感が増している。
ただひとつ気になったのは、路面からの突き上げがけっして弱くないことだ。とくに低速域で突起を通過する際のハーシュネスはもう少し軽くしてほしいところだ。
ボディが大きくなったことによる実用上のメリットは高い。とりわけ全幅の拡大は室内スペースに余裕をもたらした。
リアシートは相変わらず単なる物置き場所にすぎないものの、フロントシートに関しては先代よりもゆったりとした気分に浸れるばかりか、サイドウィンドウが広がったことで、高速道路や駐車場の料金所でのチケットや金銭の受け渡しが楽になったのは朗報である。
総じて新型TTクーペは完成度の高いクルマに仕上がっている。いわば旧型の正常進化モデルが新型である。スタイリングにしても一目でTTとわかる。
けれど、残念ながら先代TTクーペが登場したときの強烈なオーラを感じないのも事実だ。
インテリアのデザインにしても、質感は高いままだが、どちらかといえばフツーのアウディになってしまった。
従来モデル以上にスポーティで使い勝手のよいクルマに仕立てられていることは歓迎したいが、他車とは一味もふた味も違うデザイン・コンシャスのクーペと呼ぶには、全体に角がとれて個性が薄れた感なきにしもあらず。先代モデルほど開発陣の思想がストレートに伝わってこないのだ。
とてもよくできたクルマだが、もはや驚きはない。
(文=自動車部門編集局長 阪和明/写真=荒川正幸/2006年12月)

阪 和明
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