アウディTTクーペ 2.0 TFSIクワトロ(4WD/6AT)
優等生の限界 2015.10.30 試乗記 アウディのコンパクトクーペ&ロードスター「TT」が、フォルクスワーゲングループの「MQB」プラットフォームを用いた3代目にフルモデルチェンジ。クーペの4WDモデルに試乗し、その実力を確かめた。【総評】速さは「文句ナシ」だが……★★★★☆<4>
3代目となるアウディTTにとって、そのキャラクターが「おしゃれなスポーティーカー」という言葉で紹介されるのは、もはや看過できないことであるはずだ。
「『価格を抑えた若者狙いのクーペ』という視点から開発をスタートさせた」と国際試乗会の場で開発担当者が口にした初代モデルでは、そうしたフレーズもひとつの“褒め言葉”として受け入れることができたはず。
また、過半の部分にアルミ材を用いたスペースフレーム構造を採り入れ、軽量化と共にボディーのポテンシャルを大幅にアップグレードさせた2代目も、基本的には見ても乗っても、「初代モデルの進化版」というキャラクターが色濃く感じられる仕上がりの持ち主だった。
だからこそ、初代モデルの誕生から17年を経て、
そんな“本格スポーツカーへの憧れ”は、電気的なデバイスの助けも借りて耳に届けられる、「R8」をほうふつとさせるV10ばりのサウンドと共に、強烈な加速力が味わえる「TTS」で最も顕著に実感できる。しかし、今回はオープンのロードスターでもクーペにほとんど見劣りしない、走り始めた瞬間からその強靱(きょうじん)さがイメージできる、すこぶる高い剛性感が味わえるボディーを実現させたことなどからも読み取ることが可能だ。
確かに新型TTシリーズの走りは、そんなしっかりとしたボディーの仕上がりを根底に、歴代モデルの中でも最も骨太感が強いもの。0-100km/h加速をわずか4.7秒でこなすTTSグレードの速さには目を見張るが、それ以外のグレードでも、そのスピードに関しては、もはや「文句ナシ」の水準だ。
が、それではこの3代目TTシリーズが、ついに“生粋のスポーツカー”と誰もが認め得るものへと昇華されたかといえば、そこにはやはり引っかかりが残る。端的に言ってしまえば、スポーツカーには「このモデルのためだけに用意された」というストーリーを語れる、何らかの記号性が欲しい。3代目となったTTシリーズには、やはりそこの“スプーン1杯の隠し味”が足りないのだ。
仮にのハナシ、それは2WD仕様の駆動輪を、現状の前輪から後輪へと移すだけでもある程度は成し得る内容であると思う。
無論、理屈からすれば、せっかく横置きパワーパックから取り出される出力軸の方向を、90度向きを変えて後輪へと伝えるなどというのは不条理そのもの。けれども、そもそもスポーツカーというのは、さまざまな不条理の上にこそ成り立つものだろう。
というわけで、モデルチェンジを繰り返すたびに洗練度が増していくTTシリーズは、むしろ「徐々にいわゆる“スポーツカー”からは一線を画しつつある」ようにも思える。もちろん、それは決して悪いことではないのだが、同時に、パワーパック横置きレイアウトをその根源に持つ、TTであるがゆえの限界点を示したといってもいいのかもしれない。
<編集部注>各項目の採点は5点(★★★★★)が満点です。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2014年春に開催されたジュネーブモーターショーで披露された現行3代目。その場で発表されたのはTTとTTSのクーペに限られたが、半年後に開催されたパリモーターショーで、ロードスターもアンベールされた。
日本では、その双方が2015年8月に発表・発売された。ただし、FF仕様が設定されるのはクーペのみで、ほかはすべて“クワトロ”をうたう4WD仕様。またTTSはクーペのみでロードスターには設定されずと、やや変則的なバリエーション展開とされている。
ボディーは「適切な材料を、適切な分量だけ、適切な場所に用いる」というコンセプトのもと、フォルクスワーゲングループが推進するモジュラー構造のMQBをベースとしたもので、アッパー部分にはアルミ材を多用。搭載されるエンジンは、いずれも2リッターの4気筒直噴ターボ付きガソリンユニットで、TT用が最高出力230ps、TTS用が286psと、過給圧や使用パーツの違いなどによって2種類のチューニングレベルが用意されている。
(グレード概要)
今回テストを行った「2.0 TFSIクワトロ」は、下にFF仕様の「2.0 TFSI」が、上にはTTSが設定され、クーペ3モデルの中間に位置付けられる。
230psを発するエンジンと6段DCTの組み合わせによるパワーパックはFF仕様と同一だが、クワトロ仕様は車重が50kg重く、価格では47万円上回る。ただし、そんな価格差はフロントシートの電動調整機構や、1インチ増しの18インチタイヤなど、クワトロのみの装備も含んだものだ。
ヘッドライトはLED式が標準で、対向車や前走車部分を避けたハイビーム照射など、アダプティブ制御が可能なマトリクスLED式がオプション設定される。また、新型TTシリーズの売り物でもある、メータークラスター内へのフルスクリーン表示を行う12.3インチディスプレイを用いた「バーチャルコックピット」は、このグレードを含めてすべてのモデルに標準採用される。
TTSに標準採用される電子制御式の可変減衰力ダンパー「マグネティックライド」は、その他のモデルにはオプション設定。ただし、今回テストしたモデルには装着されていなかった。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★<5>
新型TTシリーズのハイライトのひとつは、何といってもバーチャルコックピット。それは、本当に実用上で役立つアイテムなのかと、使ってみるまではいささか懐疑的だったが、画面切り替えの操作も意外にシンプルで、画面タッチを必要としないこともあり、慣れればなかなか便利に使える。見た目上は「ドライバーの独占」とも思われそうなディスプレイ位置も、実はパッセンジャー側からも大半の部分が目視可能。このアイテムの採用によってセンターパネルからディスプレイが姿を消し、ダッシュボードのデザイン自由度が大きく高まった功績も見逃せない。
(前席)……★★★☆☆<3>
スペース上ではもちろん何らの不足もないものの、どことなく閉塞(へいそく)感が強いのは、着座位置に対してフロントカウルやサイドのベルトラインが相対的に高く、周囲の視界の広がり感に乏しいゆえ。センターコンソール前端のフタ付きポケットが思いのほか大容量で、もちろん後席部分にも小物類を置くことが可能なので、2人で乗り込んだ際の収納性に優れるのは、純粋な2シーター車にはまねのできないポイントだ。
(後席)……★☆☆☆☆<1>
外観から察せられるとおり、大人が乗れば当然ヘッドスペースもニースペースも“マイナス”で、取りあえず「法規上は乗ることが可能」というスペース以外の何ものでもない。
(荷室)……★★★★☆<4>
低く閉じるテールゲートによって高さ方向には制約が強いものの、“床面積”はかなりのもの。荷物の積み下ろしは大変だが、リアのシートバックを前倒しすれば、ちょっとしたミニワゴンのようにも使える。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★☆☆<3>
TTSほどの過激なパワフルさやサウンドの演出はないものの、走りのシチュエーションを問わず「十分速い!」と実感させてくれる。特に、1000rpm台でアクセルペダルに触れた際の“トルクのつき”に優れるのが好印象。一方で、やはり常用域である1600rpm付近で、エンジン起因のバイブレーションが「気にすれば気になる」というレベルで認められる。
アイドリングストップ状態からの復帰はなかなか素早く行われるが、それから遅れて始まるクリープ現象の発生時にわずかなショックが感じられるのが残念。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★☆☆<3>
フロントヘビーを意識させないスポーツカーらしい走りを演じるためか、街乗りシーンでもステアリング操作に対して「かなり舵(だ)が速い」印象がある。静粛性は思いのほか高く、クワトロシステムの採用もあって路面状況の変化に強い快適なクルージングを味わえるが、時に揺すられ感がやや目立つのが惜しい。16万円オプションのマグネティックライドを選択すれば、あと1つ星は獲得できそう。
(燃費)……★★★★☆<4>
都内を基点に富士山方面へと往復した際の燃費は、ボードコンピューター表示/満タン法計測共に、ぴたり同一の13.2km/リッターというデータ。ちなみに、これとは別の機会に高速クルージング主体で計測した際には、ボードコンピューター上の数字は軽々と16km/リッター台にのった。
空気抵抗こそが大きな問題となる高速クルージングでは、「背が低くてCd値も小さいスポーツモデル」は、思いのほか低燃費。その動力性能や4WDシステムの持ち主であることを考えれば、もちろん今回のこのモデルの走行データも、差し当たり「文句ナシ」という表現を使ってよいはずだ。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
アウディTTクーペ 2.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4180×1830×1380mm
ホイールベース:2505mm
車重:1370kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:230ps(169kW)/4500-6200rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1600-4300rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:14.7km/リッター(JC08モード)
価格:589万円/テスト車=644万5000円
オプション装備:ボディーカラー<モンスーングレーメタリック>(8万5000円)/S lineパッケージ(47万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1821km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:293.8km
使用燃料:22.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.2km/リッター(満タン法)/13.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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