アウディTTSクーペ(4WD/6AT)/TTクーペ 2.0 TFSIクワトロ(4WD/6AT)/TTロードスター 2.0 TFSIクワトロ(4WD/6AT)
全天候型スポーツカー 2015.08.20 試乗記 3代目となる「アウディTT」シリーズが国内でデビュー。初代をほうふつさせるデザインと先進的なインテリアが目を引く、新型コンパクトスポーツの仕上がりは? 正式発表を前に、北海道・十勝スピードウェイで試乗した。TTオーナーになる夢
「TT」――それが、マン島で開催される「ツーリスト・トロフィー」という由緒あるイベントに由来するネーミングであるのは、実は後に知った事柄。当時の本心を言ってしまえば、別にそうした名前などは「どうでもよかった」のだ。
クルマはやっぱり走りでしょ! と、ルックスなどは二の次で初代の「MR2」やら初代の「ボクスター」やらといったモデルに手を出した自分にとって、まさに“ひと目ぼれ”の末に購入の決心をした初めてのモデルが初代「TTクーペ」だった。
どんなクルマにも似ていない……どころか、「まだこんなアイデアがあったのか!」と、エクステリアにもインテリアにもそんな感動を覚えた、まさにコンセプトカーそのものと思えるデザインから受けたインパクトは、自分でも驚いてしまうくらいに強烈なものだった。
が、ボディーや内装のカラーまでを決めたにも関わらず、結局そんなモデルを手に入れるには至らなかった。
あろうことか、当時の日本のインポーターは「MT仕様は左ハンドルのみでしか導入しない」と決定。左側通行の国で、わざわざ“不便で危ない”左ハンドル車を、それも大枚はたいて新車で乗ろうという気には、さすがになれなかったためである。
こうして、一時は大いに盛り上がった“TTオーナーになる夢”は、はかなく消え去ることに。そんなほろ苦い思い出からはや17年。TTは今、第3世代のモデルへと進化を遂げて、再び姿を現した。
“確実に新しい”スタイリング
試乗会の舞台は、北海道・帯広の十勝スピードウェイ。「実はメディア向けのイベントの前には、2週間にわたってセールストレーニングが行われていた」というその場には、豪勢にも歴代3代のTTクーペすべてがディスプレイされていた。
まずは個性あふれるスタイリングのアピールにフォーカスした初代。そこにピュアなスポーツカーとしてのテイストも加味した2代目。さらに、最新のドライバーアシストシステムやコネクティビティー、バーチャルメーターなどのテクノロジーも満載した3代目……と、走行前のプレゼンテーションでは、歴代モデルのキャラクターがそのように紹介された。
なるほど、デビュー当時には圧倒的な斬新さが感じられた初代モデルのルックスも、さすがに今となってはそれなりに古いイメージであることは否めない。一方で、「どこから見てもTTそのもの」という雰囲気はしっかりとキープしながらも、直線的にシャープなラインが目を引く新型のスタイリングが、まずは“確実に新しい”雰囲気を放っているのは、なかなか見事なデザイン手腕という印象だ。
正直に言えば、そこにはもはや、初代モデルが登場した当時のような衝撃はない。が、「どのモデルが一番美しいか?」と問われれば、最新モデルを指す人が多そうな洗練度の高さは認められる。そんな新しさの演出には、最新アウディ車が好んで採用する「マトリクスLEDヘッドライト」がひと役かっていることも間違いない。
フルウエットでも扱いやすい
プレゼンテーションが終了し、いざ国際規格のサーキットでホットバージョンの「TTSクーペ」からテスト走行……という段になると、朝から厚い雲に覆われていたサーキットは、ついに本降りとなった雨のために完全なウエット状態となってしまった。
けれども、それはむしろクルマの評価という観点からは好都合であったかもしれない。なぜなら、そんなシチュエーションで乗るTTSは想像していたよりもはるかに扱いやすく、中でもフォルクスワーゲングループが推し進める最新のモジュラープラットフォーム戦略「MQB」を活用しながらアルミ部材を多用して完成されたコンポジット構造のボディーが、単に軽いだけでなくいかにも強靱(きょうじん)な仕上がりをみせていることを容易に連想できる走りのテイストを、存分に堪能することができたからだ。
最高出力は286ps、38.3kgmの最大トルクを1800-5700rpmという幅広い範囲で発するというTTS用の2リッター4気筒直噴ターボエンジンは、なるほどそんな額面どおり、ごく低回転から太いトルク感に富んで、全長が4.2mに満たないコンパクトなボディーを強力に加速してくれる。もちろん、ヘビーウエットという条件下でそれが危なげなく実現されるのは、アウディ得意の4WDシステム「クワトロ」の威力もあってこそだ。
一方で、前輪駆動ベースの4WDモデルでありつつも、コーナーでことさらの“プッシュアンダー”に悩まされたりすることがなかったのも、今度のTTのスポーツカー度が、さらに向上したと実感できる一因。「電子油圧制御を採用した最新世代のクワトロシステムは、運動性能に関わるさまざまなデータを制御の判断材料に用い、アンダーステアを誘発することなくスムーズにコーナーをクリア」と、資料上ではそんなフレーズを見ることもできる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
音が速さを演出している
いったんピットインを余儀なくされるほどの“豪雨”になったかと思えば薄日も差すなど、目まぐるしく変化する天候の下、与えられた50分の中でさまざまな路面状況を経験したTTSでのドライブを無事終了。同じ2リッターながら最高出力が230psに抑えられ、サスペンションもTTSが標準採用とする電子制御式の可変減衰力ダンパー「マグネティックライド」からコンベンショナルなユニットへと改められた、TTクーペ 2.0 TFSIクワトロで再度のコースイン。
さすがに、TTSと比べるとアクセルペダルを深く踏み込んだ際の加速は、こちらの方がおとなしい。しかし、それでも客観的には“十分以上にパワフル”だし、“音の演出”が実際のスピード性能以上の速さの感覚の違いをもたらしている印象も受けることになった。
実は、そもそもより排気音が大きいTTSでは、走行モードの選択システム「ドライブセレクト」で「ダイナミック」のモードを選ぶと、「R8」のV10エンジンもかくや、という迫力のサウンドがキャビン内に充満する。が、恐らくは、スピーカーからの出力によるエンハンス効果も用いているであろうそこまでの演出は、こちらTTでは感じられないのだ。
典型的な“ストップ&ゴー”サーキットであるここのコースをちょっとアップテンポで走ると、ブレーキのタフネスぶりもより大容量のシステムを用いるTTSに分があるのは確か。かくして、絶対的なスピード性能、あるいはスポーツカー度という印象ではやはりTTSが確実に上回る。一方で、基本的な走りの扱いやすさという点ではこちらも遜色はない。
はるばる北海道まで飛んで来ての悪天候にはがっかりさせられたが、同時にそれは新型TTの、「全天候型スポーツモデル」というキャラクターを鮮明にもしてくれたのだ。
強靭なボディーがあってこそ
最後のバリエーションである「TTロードスター」をテストドライブという段階では、幸いにも雨は完全に上がってくれた。
ほんの10秒ほどで開閉可能。しかも50km/h以下であれば走行中も操作が可、と、もはや電動サンルーフのごとき気楽さでオープンエアが楽しめるルーフを、早速オープン状態にしてコースイン。と、まずそこで実感できたのは、開けても閉めてもクーペとほとんど変わらない、ボディーの高い剛性感だった。
これまで2代のTTに対し、個人的には「これはピュアなスポーツカーではなく、やっぱりルックス優先のスポーティーカーでしょ」とそんな思いを抱いてきた大きな理由は、実はそれを純粋なスポーツカーと認めるためには、ボディーのしっかり感が今ひとつ物足りないことだった。
優れた加速など、今やパワフルなエンジンさえ搭載してしまえば何とでもなるもの。が、ドライバーの意思を限りなく忠実に伝えるハンドリングや、荒れた路面でも馬脚をあらわすことのないトレース性の高さなどは、やはり“強靱なボディーがあってこそ”なのだ。
というわけで、そうした点では最もハンディキャップを背負っているであろうロードスターをして、オープン状態でも満足のいくボディーのしっかり感を味わわせてくれた点に、新しいTTシリーズ全体の“スポーツカーとしてのポテンシャル”が大きく上がっていることをあらためて実感できたのである。
ちなみに、左右シート間にウインドストッパーの類いが装備されていなかったこのテスト車の場合、90km/hを超えるあたりから後方からの風の巻き込みがかなり盛大になる。それゆえ、コースをゆっくりと周回しながら各種の操作系を試していると、鳴り物入りで採用された「アウディバーチャルコックピット」とその操作性が、思った以上に優れていることにも気が付いた。
むろん、軽いコックピットドリルは必要になる。が、基本的な操作パターンはほんの数種類。これにより、ダッシュボード上から大きなディスプレイが消え去り、個性的なデザインの採用が可能になったことを思えば、その意義はなかなか大きいといえるだろう。
そうした部分を含め、“走りながら開発した”感が随所に漂うのが、今度のTTというモデル。公道上でのテストドライブがますます楽しみになってきた。
(文=河村康彦/写真=アウディ ジャパン)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
アウディTTSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1830×1370mm
ホイールベース:2505mm
車重:1410kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:286ps(210kW)/5300-6200rpm
最大トルク:38.8kgm(380Nm)/1800-5200rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:14.9km/リッター(JC08モード)
価格:768万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2098km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
アウディTTクーペ 2.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4180×1830×1380mm
ホイールベース:2505mm
車重:1370kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:230ps(169kW)/4500-6200rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1600-4300rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:14.7km/リッター(JC08モード)
価格:589万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1821km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
アウディTTロードスター 2.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4180×1830×1360mm
ホイールベース:2505mm
車重:1470kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:230ps(169kW)/4500-6200rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1600-4300rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:605万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:80km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。