日産セレナ20RS(FF/CVT)【試乗記】
“すべて”がある、しかし“何か”がない 2005.09.23 試乗記 日産セレナ20RS(FF/CVT) ……332万8700円 ミニバンとしての王道的進化を遂げた「日産セレナ」。いわゆるミニバン然としたスタイリング、パッケージング、ユーティリティの持ち主に、サプライズやスペシャルはないが……。運転席も邪魔(?)な広さ
率直に言って、目をひくようなトピックがあるわけではない。けれど、パッケージングもシートアレンジも装備も、すべてにわたって今のミニバンに求められる要素を徹底的に研究し、そして盛り込んだ存在。セレナを評するならば、そういうクルマということになる。
もっとも重視されているのは室内の快適性そして使い勝手だろう。それもとりわけ2列目そして3列目についてである。2列目シートに乗り込んで、まず感じるのは抜群の開放感だ。それは着座位置が前席より思いきりよく高めなおかげ。さらに助手席に誰も乗っていない場合には、薄型のヘッドレストを下げてしまえば前方視界はスコーンとヌケがよくなる。それでも足りなければ、2列目に居ながら背面のレバーで助手席バックレストを前倒しすることまで可能だ。このままでは運転席のオトーサンまで邪魔者扱いされてしまいそうだが……いや、すでにされているのか? ……とにかく2列目以降に陣取る人たちにとって、この開放感は嬉しい。
実際の広さも申し分ない。身長177cmの筆者が2列目シートスライドを足を組めるほど下げても、3列目にはなお、足をぶらぶらさせられるだけの余裕がある。後端まできっちりスクエアなボディ形状のおかげもあって、頭上にも左右方向にも圧迫してくるものは何もない。大きなサイドウィンドウも開放感の高さに繋がっている。
至れり尽くせり
その広い空間を隅々まで使いきれるシートというか室内のアレンジの多彩さも、セレナの大きな見所である。そのキモは、前席と2列目の間をスライドさせて行き来できるよう設定された2列目中央席兼センターアームレストだ。
まず2列目中央席を折り畳んで前席の間にスライドさせると、そこには3列目へと悠々アクセスできる通路が生まれる。つまり3列目に移動するのに、いったん車外に出なくてもいいのである。さらに2列目シートには横方向のスライド機構も備わっていて、この通路のぶん横にずらすと、スライドドアから3列目へのアクセスがとても容易になる。2列目、3列目の前後スライド量も大きいし、その動き自体も滑らかで余計な力がいらない。左右に跳ね上げて格納する3列目シートには、操作力を低減するアシストスプリングまで備わり、女性でも簡単に扱うことができる。
3列目まで各席にドリンクホルダーだけでなく折り畳みテーブルも用意。きわめつけは、1列目と3列目の間で声を張り上げなくとも会話を楽しめるよう、マイクとスピーカーを仕込んだインカーホンを装備するなど、とにかく到れり尽くせりなのである。
2リッターのみでも……
なるほど機能は素晴らしい。では快適性はと言えば、これも高い点数をつけることができる。サスペンションはしなやかというよりソフトという言葉がふさわしい設定だが、車重がそれなりにあり、またシャシーがいかにも骨太な印象を伝えてくるおかげで、乗り心地はとても落ち着いている。運転席はいいけど後席は……ということもなく、逆に2列目がもっとも快適なのは、よく練られているなと感じた。
1.6トンの車重に対してエンジンは最高出力137psの2リッターのみとなるが、4人乗り+機材で高速道路から市街地を走っても、動力性能に不満は感じなかった。これは潔く実用域に振ったエンジン特性、そして組み合わされるCVTの恩恵だろう。グッと背中を押されるような力強さとは無縁ながら、スルスルと、しかも加速の継ぎ目なく速度を上げてくれるのでストレスがない。さすがにエンジン音はすごく静かということもないので、特に高速走行時には、前述のインカーホンが結構役に立った。
乗用車としては満足
こうして見ると、やはり突出した何かがあるというわけではないものの、逆にミニバンに期待するものは、すべて揃っているのがセレナだと言えそうだ。特に運転が楽しいというようなものではないけれど、非常に素直な走りっぷりには心地よさが漲っているし、楽しい会話に積極的に加わっていける、イイ意味で常に真剣にステアリングを握る必要のない走りっぷりは、それはそれで立派な性能だろう。
乗員全員が心地よく過ごせることというミニバン本来の目的を、セレナは実に高い次元でクリアしており、ユーザーはきっと深い満足を得られるはずである。しかしあえて言うならば、皆の望みをしっかり叶えてはくれるけれど、想像もしなかった楽しみ方を示してくれるわけではないのも事実。今のカタチの乗用車としてならコレでいいけれど、ミニバンにはもっとワクワク感を喚起してほしい。なまじデキがよいだけに、ついそんなことを思ってしまうのだ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏/2005年9月)
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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