スズキ・アルトX(4AT)/アルトG(3AT)【試乗記】
ちょうどいいスニーカー 2004.10.08 試乗記 スズキ・アルトX(4AT)/アルトG(3AT) ……106万6380円/87万7380円 1979年5月に初代が発売されて以来、累計届出台数で450万台を超えたスズキの看板モデル「アルト」が6代目に進化した。女性のためのクルマとして成長を続けてきたアルト、その仕上がりのほどは? 自動車ジャーナリスト、生方聡のインプレッション。広い、安い、カワイイ
“女性のための○○”といわれると、私など正直なところ2歩も3歩もひいてしまう。特にクルマの場合、女性をイメージしてつくられたモデルに自分が乗っても「似合わないよなぁ……」とわかっているから、仕事じゃなければ運転を遠慮したいところだ。
というわけで、新型「アルト」の試乗はあまり乗り気ではなかったのだが、いざ実物を目の前にすると、不思議と拒絶反応がなかった。
たしかに女性ウケしそうな優しいボディカラーは多いけれど、直線と円を組み合わせたシンプルなエクステリアに抵抗はなく、意外とすんなりクルマに乗り込むことができた。
全高を1500mmに抑え、立体駐車場でも困らないアルトだが、室内は十分広い。この優れたパッケージングこそ、日本の軽自動車の自慢だと思う。
全長3395mm、全幅1475mmという限られたスペースにもかかわらず、前席はもちろんのこと、後席に大人が座っても足もとの余裕は十分確保されているし、頭上の空間も広々としている。また、ラゲッジスペースも「A型ベビーカーが積める」と自慢するだけあって、外観から想像するよりもずっと広いのである。
さらに、インテリアデザインも、クロス型のシボを採用したプラスチックのトリムや、パズル柄のシート表皮、シンプルな造形、そして、明るい色使いなどのおかげで、安っぽい感じがせず、「上手くつくったなぁ」と感心させられる。
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運転してもフレンドリー
実際に運転した印象も悪くない。運転席に陣取ると、運転に必要なスイッチ類が扱いやすい大きさで、わかりやすい場所に配置されていることがわかる。初めて運転する場合でも迷うことがない。このとっつきやすさもうれしい。
いざ走り始めても、アルトの優しくフレンドリーな印象は変わらない。ソフトな乗り心地は街なか中心の利用であれば実に快適で、試乗した「G」に標準の155/65R13サイズのタイヤも、乗り心地のよさに貢献していた。電動パワーステアリングも自然な感触だ。コーナリング中のロールが大きめだったり、スピードを上げていくとややピッチングが気になることもあったが、このクルマの場合、さほど評価を下げるものではないだろう。
3ATか4ATか、それが問題だ!
一方、走りっぷりだが、搭載されるエンジンは用意される4グレード(「E」「G」「X」「Xセットオプション」)ともに、0.66リッター直列3気筒、54psと6.2kgmを発する「K6A」型1種類。3ATが組み合わされたメイングレード「G」の試乗車では、1速のギア比が高いため、出足でややのんびりするが、走り始めてしまえば、アクセルペダルに対するレスポンスもよく、一般道では扱いやすい。
試しに4ATが搭載される上級「X」も運転してみたが、こちらは発進の力強さがある反面、ある程度スピードが乗ったとき、加速しようとアクセルを踏み込んでも物足りない印象で、場合によってはシフトアップ/ダウンが頻繁に行われてしまうこともあった。高速道路をよく利用するなら4ATもいいが、普段乗るには3ATのほうが使いやすいだろう。
案外いいのが5MTとの組み合わせで、これなら発進のもたつきがなく、流れに乗って走るにも不満はなかった。
いずれの組み合わせをとっても、普段の足として使うには十分な性能である。外見は小さく、小回りもきくが、窮屈な感じはない。いわば、ちょうどいいサイズのスニーカーといった印象。ドライバーにも、かっこよく軽快に履きこなしてほしいものだ。
(文=生方聡/写真=峰昌宏/2004年10月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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