スズキ・アルトA(FF/CVT)
スズキの神髄 ここにあり 2022.05.18 試乗記 スズキのベーシックな軽乗用車「アルト」のなかでも最廉価のエントリーグレード「A」に試乗。装備が簡素化され、マイルドハイブリッド機構も省かれた2ケタ万円の自動車からは、グローバルモデルの開発でも力を発揮するであろう“スズキの底力”が感じられた。 拡大 |
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初代「アルト」より安い!?
2021年12月の新型アルト発表会後に行われた記者会見で、鈴木俊宏社長がいくつか興味深い話を口にした。
「アルトといえば47万円という意識はあるし、その値段でつくれないのかとエンジニアと議論したこともある」「カーボンニュートラルへの対応を、発想を転換しながらもっとしっかりやっていくことで、ゲタ代わりとしての軽を極めたい」「軽のグローバル展開は視野に入っている。エンジンを替えなくても世界で売れる状況になってきたと思っている」
これらの内容については、当試乗記でも後々クルマの紹介とともに織り込んでいくが、その会見のやり取りに、鈴木 修氏が相談役に退いて以来スズキのかじ取りを担ってきた社長の本心が、いよいよ見え始めたかという印象を覚えた。
というわけで、今回試乗に借り出したのはアルトのベースグレードとなるA。価格は94万3800円だ。ちなみに、唯一無二のライバルとなる「ダイハツ・ミラ イース」は86万0200円からラインナップされるが、先進運転支援装備のパッケージを搭載すると最安でも92万6200円となる。一方、新型アルトは最安のAでも側突対応力を高める車体構造の見直しに加えて予防安全装置やサイド&カーテンエアバッグを標準装備。安全装備の充実でミラ イースに差をつけた格好だ。
さらにアルトは、バックカメラシステム付きの7インチディスプレイオーディオを5万5000円のオプションで加えることができる。スマートフォンをつなげばApple CarPlayやAndroid Autoが使えるそれを載せても、お値段は99万8800円。フル装備の新車ながら3ケタ切りを果たしている。
鈴木社長は先の会見で「47万円とはいかずとも、94万円余の価格は当時と同等の値ごろ感ではないか」と語ったが、初代アルトが登場した1979年の大卒初任給が10万9500円、新聞の購読料が2000円、ラーメン一杯が290円……という当時の物価を知れば、なるほどそのくらいの感覚になる。というか、商用登録とすることで当時の物品税を免れての47万円だった初代アルトに比べれば、新型アルトの税込み94万円余は断然安いと言えなくもない。
装備設定に表れるライバルとのつばぜり合い
そんな新型アルトのベースグレードに乗り込んでみると、安さの痕跡を露骨に感じるわけではない。樹脂感バリバリの内装は他のモデルでもそうだし、デニム調のシートファブリックもそうだ。FMがAMにしか聞こえないオーディオの音質はさすがに泣けるが、そんなことは後でどうにかしようがある。この価格でスマホ環境がそのまま使えるだけでも、万々歳だろう。
が、ドライビングポジションを合わせようとしてもシートにハイトアジャスターはなく、ステアリングにはチルト機能もない。これでは僕のような大男ならまだしも、小柄な人は理想的なポジションをとるのは難しそうだ。ちなみにシートハイトアジャスターは113万0800円の「Lアップグレードパッケージ装着車」と125万9500円の「ハイブリッドX」に、チルトステアリングはハイブリッドXのみに装備される。ちなみにミラ イースの側では、123万2000円の最上位グレード「G SAⅢ」のみにハイトアジャスターとチルトステアリングが用意されていた。ドラポジくらいは自由度持たせてよと思うところもあるが、そこはまさにゲタがゆえの割り切りなのだろう。ライバルを横にらみしながら、いかに少しでも優位な状況をつくり出そうかという価格&装備設定の苦労が垣間見える。
期待していなかった後席環境は、キャビン形状の改善などもあってか、意外や想像よりきちんとした着座姿勢のとれる普通の空間だった。ベルトラインもリア側のキックアップに前型の面影を残すも、ウィンドウそのものは広くて開放感は高い。
が、Aではその後席の窓ははめ殺しだ。最初は何かの間違いでは……と思ったが、運転席ドアコンソールのウィンドウスイッチも2つしかないのを見て、諦めがついた。要はこのAグレードは、前型で設定のあった4ナンバーのビジネス仕様の役割も、ある程度カバーするポジションにあるのだろう。さりとて、省かれているヘッドレストがオプションで入手できるようになっている(ひとつ9130円)だけでも、つくり手の安全に対する意識が前進したことが感じられる。
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ハイレベルでまとめられた“必要十分”
走りだしからの印象はすこぶるよい。アイドリングからの踏み始めでじわっと転がりだすや、すうっと軽やかに速度を乗せていく。そのGの高まりは柔らかく、乗員を不必要に揺することもない。スロットルのマップとCVTの制御が奇麗に合わせ込まれていて、エンジン回転数の無用な高まりもなく期待どおりに速度をコントロールできる。安全装備が増えたり開口部やBピラーまわりに環状構造を採り入れたりで、重量は前型比で30kg前後重くなっているが、それでも680kgのAにとって最高出力46PS、最大トルク55N・mの自然吸気エンジンは必要にして十分だ。
が、それはさすがに80km/hくらいまでの速度域での話。そこから向こうは徐々に重荷を背負わされている感が強まり、100km/hを超える高速巡航域になってくると、速度保持のためにエンジンがうんうんうなる頻度が増す。それでもシャシー側のスタビリティーに不安はないが、気持ち的に落ち着いて走れるのは100km/hまでと考えたほうがいいだろう。
個人なら「高速道路なんか乗らないしETCもいらない」というユーザーはゴマンといるだろうし、法人なら「遠出の際には大きいクルマを使うんで」というところもあるかもしれない。アルトの役割をきっちり見定めて、過剰なものは与えないぶん燃費性能を高めて価格は抑える。それはもう泥臭い引き算の世界だ。そういうアナログ的作業を重ねてビタッと狂いなく成果を引き出せているところに、鈴木社長の「ゲタを極める」という言葉が重なってくる。
そういう視点で言えばまったく余興めいた話とはいえ、アルトは曲がっても意外と頑張れるクルマだった。サスペンション自身は特筆するような技巧もスタビライザーもないシンブルなものだが、路面への追従性はまずまずだ。なにより剛性が向上した車台と相変わらずの軽さが効いている。棚ぼた的なポイントとしては、ステアリングが固定式なことが奏功してか、コラムまわりの支持感もカチッとしていた。「ワークス」とはいわずとも、もう少し高回転域の伸びるエンジンを載っけてMTで走れれば「ダイハツ・エッセ」的に遊べそうだとも思うが、そんなたわごとを言うやからに限って、そういうものを用意しても買いもしないことは、スズキも百も承知だろう。
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最小の資源で最大の幸せを
イラン革命に端を発する第2次オイルショック、それが契機となっての資源価格の上昇やエネルギーマネジメントの危機、世界的なインフレ加速……と、初代アルトが登場した1979年当時の世相をみると、なんとなく今日と重なってみえる。異なるのは、現在はそこに国際的な共通課題としてのCO2削減が乗っかっていることだ。資源や燃料をバンバン投じて経済活動を活発化させ……という物量投入での現状改善が難しいことが、話をさらにややこしいものにしている。
そんななか、スズキは大胆な取捨選択で自律的なモビリティーを日本の隅々にいき渡らせた。省エネルックは大スベリだったが、初代アルトは大きな功績を残したわけだ。では、現代のアルトには何が求められるのか。それは最小の物量で最大の豊かさを享受できることではないだろうか。
量的、質的な豊かさにすっかりならされた日本のユーザーにとっては、アルトのようなクルマにそれを求めるのは難しいかもしれない。多くの人にとって、それを選ぶ理由は便利で経済的という以上のものではないだろう。でも、ちょっと意識を変えて、個人の移動のミニマル化に豊かさを見いだすとすれば、アルトを上回るLCA(ライフサイクルアセスメント)的最小値を見つけることは難しいのも確かだ。
一方で、これから家族のモビリティーを得ようという国の人々にとっては、安全で快適な空間でかなえられる移動の自由は代わりのないものだろう。それを安く、広く提供することもアルトに課されたミッションのひとつだ。すでにインドやパキスタンなどでその実績を積み重ねてきたことが、冒頭の鈴木社長の発言につながっている。
今後、電気自動車の普及も伴いながら世界的にクルマの速度的価値の見直しが論ぜられるようになれば、軽の商品性は新興国での日本車の競争力を、より高いものにするかもしれない。燃費はもとより材料も工数も……と、いかに省資源でまとめるかという領域にクルマづくりが入ってくると、スズキのパフォーマンスはやっぱりハンパないということを、アルトのAはあらためて気づかせてくれる。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
スズキ・アルトA
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1525mm
ホイールベース:2460mm
車重:680kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:46PS(34kW)/6500rpm
最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:25.2km/リッター(WLTCモード)
価格:94万3800円/テスト車=107万3765円
オプション装備:バックアイカメラ付きディスプレイオーディオ装着車(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(1万6115円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1269km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(3)/山岳路(0)
テスト距離:185.0km
使用燃料:10.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.6km/リッター(満タン法)/18.5km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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