トヨタ・クラウン3.0ロイヤルサルーン(6AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・クラウン3.0ロイヤルサルーン(6AT) 2004.02.05 試乗記 ……503.7万円 総合評価……★★★★ ゼロから開発しなおした12代目クラウン。議論かまびすしいトヨタのトップサルーンに、まもなく60に手が届く『webCG』エグゼクティブディレクター、大川悠が乗った。
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変節か正常進化か?
新型クラウンを巡る論議が、『webCG』でもかなり白熱化している。論点を個人的に解釈するなら、新しいクラウンを「変節」とみるか「正常進化」と考えるかということだと思う。その裏にはクラウンユーザー層、あるいはクラウン自体のイメージに対する理解の違いがある。興味深いのは若い世代ほど、クラウンに昔のイメージを追い求めている。ひょっとしたら若い方が保守的なのかな?
別にこの論議に決着をつけようというわけではないが、webCGの別の世代の人間として、アオキコンテンツエディターとは違った観点からクラウンを評価してみよう。
個人的なことから述べれば、私は“ゼロ”クラウンを基本的に支持する。ゼロに戻ったという大きな変化を好意的に受け取る。というよりクラウンというクルマは代々、このように挑戦的だったと思うから。これはごく普通の進化とも理解する。
今年の夏に60歳になる私自身は、すでにクラウンの平均ユーザー年齢よりやや高くなってしまった。今回のクラウン開発の責任者だった加藤光久チーフ・エンジニアより9歳も年上である。でも今のクラウンユーザーが何を求めるか、同時代の人間としてすこしは理解できると思う。
私たちは1970年代や80年代のクラウン・ユーザーとは違っている。つまり20年前、30年前に50代後半だった人たちと比べると、かなり異人種になっているということだ。私たちが学生の頃からVANもJUNもあったし、ビートルズも同時代のものだった。イデオロギー闘争も経験したし、バブルに躍らされたこともあれば、自動車電話から携帯電話に移行した時代も見ている。そして今は、何とかデジタル時代について行こうと、必死になっている、そういう50代後半の人間である。
つまりかつて「いつかはクラウン」と夢見た世代ではない。むしろ以前はクラウンを否定する代わりに、レクサスがアメリカで成功するのを、わがことのように喜んできた世代であり、かつては(今も)ドイツのクルマを経験してきた世代でもある。日本を代表する高級車なら、30〜40代に接してきたドイツのクルマに劣らないようなものであって欲しい。そのように願う人間が、多分、今のクラウンユーザーの大きな部分を占めていると思う。
この世代の一人としては、12代目のクラウンを前向きに受け止める。「徹底的な静かさと快適性、痒いところに手が届くようなおもてなし」、という旧い価値だけを私たちはクラウンに期待していない。機械としてきちんと仕上がり、運転していても手応えがあり、それに乗ることが純粋な楽しみであるクルマ、そんなことも私たちはクラウンに求めている。
新しいクラウンは、そうした要求にかなり応えてくれている。個人的にはアスリートの方がもっと筋が通っていて好きだが、ロイヤル系もかなりの力作だと感じた。
これだけ書けば、以下の★付けは付録のようなものだが、一つ、これだけは言っておきたい。確かに走る機能において、クラウンは新しい高年齢世代にも受け入れられるものに成長した。だが、そのスタイリングは失望である。全幅を可能な限り狭めるための切り立ったサイドセクションで独自のカタチを出しているとはいえ、細部の造形言語には明らかにメルセデス・コンプレックスが見えてしまう。走ると特にアスリートなどはメルセデスのようだ。そのうえ、ヘッドライトからグリルのイメージ、ルーフラインからCピラーへの造形までメルセデスのようでは、実は困る。というより恥ずかしい。
「日本独創」を目指すなら、絶対にドイツ車には似ていないという筋だけは通して欲しかった。このスタイリングで私たちの世代に通用すると思うなら、それはやや計算が甘いと、そう私は思う。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1955年以来約半世紀、11代に渡って「ニッポンの高級車」の座に座り続けてきたクルマ。良くも悪くも日本的階級社会の象徴であり、かつては「いつかはクラウン」という言葉どおり、人生の成功の記号とも結びついていた。
一般的には保守的で、豪華・快適志向、安楽な年配向けのクルマと思われがちだが、実はそれは一面にすぎない。代々、新しいボディ構造や技術に挑戦したり、先端的な装備を開発し、日本のリーダーのためのクルマはどうあるべきかを提案してきている。
今回、昨年12月に発表された12代目は、「ゼロ・クラウン」をキャッチフレーズに、「伝統は形骸を継ぐものではなく精神を継ぐもの」「静から躍動への変革」などの言葉に示されるように、思い切って新しい時代に即した日本の高級車像に挑んでいる。
車両の運動性能重視が最大の力点で、このためにプラットフォームは新開発されたし、エンジンも従来の直6から新設計の2.5、3.0のV6となり、モデルによっては6ATと組み合わされることになった。ダブルウィッシュボーン/マルチリンクの前後サスペンションも新開発、ラックと同軸にモーターを置いた電動パワーステアリングも新しい。予防安全から衝突安全まで新しい技術が盛り込まれるなど、文字どおりトヨタの全力を挙げたモデルチェンジが施されている。
(グレード概要)
ロイヤルサルーンとその上級版ロイヤルサルーンG、そして4WDのi-Fourからなる豪華系と、スポーツサルーンとして位置づけられるアスリートの2系列に大きく分けられ、それぞれに2.5と3.0の新しい直噴式V6エンジンが与えられる。出力/トルクはそれぞれ215ps/6400rpm、26.5kgm/3800rpmと256ps/6200rpm、32.0kgm/3600rpm。2.5には5段AT、3.0は6段ATが与えられる。
テスト車はロイヤルサルーン2WDの3.0で、6ATと組み合わされて400.0万円ちょうど。テスト車の、レーザーレーダー式クルーズコントロール、メモリー/前後シートヒーター付き本革シート、リアエアコンなどの各種オプションが付いた状態で503.7万円。
室内&荷室空間 乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インド製メルセデスのように、なんだか妙に赤みがかったウッドパネルはちょっとケバイが、トヨタ的な文法をきちんと取り入れたインストルメントパネル。作りはいいし、使い勝手もよく考えられている。スカットルは低めで、このために前の視界がいい。スイッチ類の位置や大きさも考え抜かれている。ただし大きく中央が盛り上がったセンターコンソールの反対側に位置するオーディオ関係のスイッチ類は遠い(でもその代わり、大半がステアリングスポーク上のスイッチでまかなえる)。ともかく使う人間のことを充分知り尽くし、作り慣れた感じだ。
(前席)……★★★★★
オプションの3メモリー付き革シートは適度なサイズとちょうどいいだけの柔らかさ、そして充分なホールド性を備えている。ひょっとしたら国産車で最上の乗用車用ドライバーズシートではないかと思いながら、昔何かこれに似たシートに接したことがあると考えていた。そうだった。80年代後期のルノーの中型車、ルノー21のそれにとても似ていた。あのクルマは、ドライバーズシートが最大の価値だったのだ。
(後席)……★★★★
本来は後席の住人が最も大切な顧客であるはずだが、フロントに比べると居住性はわずかに劣る。リアから前パセンジャーズシートの前後とバックレスト傾斜をコントロールできるのはクラウンならではの伝統だ。空気清浄機付きエアコンやシートヒーター(ともにオプション)、オーディオ類はすべてリアシートの人間の自由になるし、ショルダー部分を一番膨らませたボディ形状ゆえに、1.8mに満たない全幅なのに、室内幅はよく取られている。贅沢を言えば、もうすこし後席前後長が欲しい。それにこの種のクルマの大半がそうだが(BMWを除く)、リアのシートベルトが締めにくいのは難点。
(荷室)……★★★
トランクは左右にとても広い。明らかに長尺用ゴルフバッグの収納を第一に考えているからで、最近こそはやらなくなったが、46インチ以上のドライバー入りキャディバッグも多分4個収納できるはずである。しかも床下のスペアタイアや工具などの収納部も、とてもきれいに作られている。さすがはトヨタ、手抜きはしていない。
ドライブフィール 運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
新設計の3GR-FSEこと直噴の3リッターV6のできはとてもいい。これまでのストレート6特有のノスタルジックな回転感覚こそないが、全般的に非常にスムーズだし、連続バルブタイミング制御システムたるデュアルVVT-iが効いて、トルクも均一に力強い。回すと多少のうなりは伴うものの、どんどん磨けば光るエンジンで、常に理想空燃比で回すというストイキD-4ゆえに、燃費のためにパワーを犠牲にしたような感じがしないのがいい。
これに与えられた6ATは、ショックも少ないし、ギアの配分もいい。DからSに入れるとシーケンシャル操作が可能になっているが、むろん通常はほとんど不要である。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
実は新型クラウンで一番失望したのが乗り心地だった。むろん他と比べるなら第一級の乗り心地と静けさを演出しているが、クラウンの新型に対する期待値までは行かない。特にリアシートで感じるのは、路面の細かな凹凸(僅かな起伏)でサスペンションが細かく動いて、しかも完全にはそれを吸収しないという感覚で、それが多少の音も伴うから完全な洗練性に達さない。むしろハンドリングと乗り心地に関しては、全般的に締め上げたアスリートの方が好ましいコンビネーションを示した。
ただしロイヤルでも新開発の電動パワーステアリングの感触はいいし、適度にロールしつつそれでも素直に回るその挙動も好ましい。新しいクラウンユーザー層が期待する運動能力をきちんと備えていた。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:大川悠
テスト日:2004年1月28日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:1875km
タイヤ:(前) 215/60R16 95H(後)同じ(いずれもTOYO PROXES J33)
オプション装備:スペアタイヤ(4.6万円)/音声ガイダンス機能付カラーバックガイドモニター(8.7万円)/マイコンプリセットドライビングポジションシステム(電動リヤサンシェード/リヤ分割パワーシート/リヤオートエアコン/本革シート/シートヒーター)(43.0万円)/マルチインフォメーションディスプレイ+レーダークルーズコントロール(7.0万円)/クラウン“マークレビンソン”プレミアムサウンドシステム(G-BOOK対応DVDボイスナビゲーション付EMV/MDプレイヤー一体AM/FMマルチ電子チューナーラジオ&インダッシュ6連奏DVDオートチェンジャー+14スピーカー+TVショートポール式アンテナ)(35.6万円)/有料道路自動料金システムETCユニット(1.8万円)/ホワイトパールクリスタルシャインボディーカラー(3.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1):高速道路(6):山岳路(3)
テスト距離:314.8km
使用燃料:35リッター
参考燃費:8.9km/リッター

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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