メルセデスベンツ・バネオ 1.9アンビエンテ【試乗記】
バネオを買うヒト 2004.01.17 試乗記 メルセデスベンツ・バネオ 1.9アンビエンテ ……320.0万円 スリーポインテッドスターが、Aクラスのシャシーを流用してつくったミニバン風(?)モデル「バネオ」。スライドドアをもつ5人乗りベンツに、自動車ジャーナリストの渡辺慎太郎が乗った。日本で売るの?
そもそも「メルセデスベンツ・バネオ」が登場したのはいまから約3年も前のこと。2001年2月にフォトデビュー、その年のフランクフルトショーで実車が公開された。いまどき、日本導入までにどうしてこんなに時間がかかるのか。
そんなことを聞かれたら、いちいち説明するのが面倒臭いなぁと「DCJ(ダイムラークライスラー日本)」が思ったのか、バネオは昨2003年の東京モーターショーのメルセデスブースの片隅に「できればそっとしておいて下さい」とばかりに、ひっそりと置かれていた。
「バネオが日本で販売されることはない」と頭の中のノートにそう記して引き出しにしまっておいた私は、正直なところとっても驚いた。7人も乗れて100万円台で買えるクルマがごろごろしているニッポンで、いくら「ベンツ」だからといったって、そんなに数が出るわけがない。数が出ないクルマにわざわざ手間と時間とお金をかけて日本仕様を仕立てるとは思わなかったからだ。
メルセデス史上最速のクルマ
上の小見出しを見て「コイツはアホか」と思った人。そう言わずにもうすこしだけお付き合い下さい。「メルセデス史上最速のクルマ」という呼び方は、ホラでもでまかせでもない。「最速」というのは「最高速度」でも「加速」のことでもなく、「開発期間」のことである。バネオの開発がスタートしたのは1997年8月だから、およそ44カ月で発表にこぎ着けたことになる。
44カ月。3年と8カ月。「やっぱりアホだコイツは」と言うのはもうちょっと待って欲しい。そりゃたしかにトヨタなんかはいまや約2年で新型車を開発している。それに比べればちっとも早くない。威張るほどのことじゃない。ところが、メルセデスベンツにとって44カ月という期間は、それはもう大変な記録なのである。いままでの約半分の時間しかかかっていないのだから。
そんなことができたのは、バネオはゼロから開発をスタートしたクルマではなく、Aクラスをベースに開発したクルマだからである。既存の車種をベースに開発したとメルセデスが公に公表したのは、おそらくこのバネオが初めてだろう。いままでもサスペンションやシャシーの一部を流用したことはあったが、メルセデスは「流用」という言葉を決して使わなかった。発表会や試乗会でエンジニアにそういう質問をすると怪訝そうな顔をされたものである。でも今回はプレスキットにちゃんと書いてある。「Aクラスのコンポーネントを流用しました」と。
おそらく、メルセデスはこういうことをやってみたかったのだと思う。こういうこととはつまり、既存のクルマをベースに新しいクルマをこさえるという、どこのメーカーでも正々堂々とやっていること。でもメルセデスのエンジニアには並々ならぬ意地やプライドがあるから「手抜き商品」とは思われたくなかったろうし、何分にも初めてのことだったから、一生懸命がんばっても44カ月もの歳月を有してしまったのだ。
室内空間はAクラス以上
日本に導入されるバネオは「1.9アンビエンテ」というワングレードのみ。その名の通り、1.9リッターの直列4気筒エンジンと5段ATを組み合わせた、Aクラスでお馴染みのパワートレインを搭載する。フロアはAクラスで話題になったサンドイッチ構造であり、サスペンションはAクラスと同型式であり、インパネやメーターパネルもAクラスと同種である。
Aクラスのようにリアシートは取り外し可能だし、安全装備・快適装備もAクラスに準ずる。このように、バネオの至る所にAクラスの面影をうかがい知ることになるのだが、Aクラスと大きく異なるのは、両側にスライドドアを備えている点と、背が高いこと。特に後者は注目すべき事実である。
燃料電池をフロア下に収めることで革新的パッケージが成立するはずだったAクラスの泣き所は、フロアが高いことによる室内の天地方向の圧迫感だった。ところが、Aクラスより270mmも高い全高が与えられたバネオの場合、そんな心配は無用である。ヒップポイントはAクラスより上がり、足を投げ出すようなドライビングポジションが改善された点も望ましい。
また、ラゲッジスペースも拡大。乗車定員分の荷物をすっぽりと飲み込む容量を確保する。最近の日本製小型車は乗車定員の増大を声高に謳うものが多いが、7人乗りに7人乗ったら彼らの荷物やコートを置く場所がないものがほとんど。人がたくさん乗れりゃいいってもんじゃない。バネオを日本に入れるにあたって5人乗りを選んだのは、だから正解だと思う。
動力性能はAクラス以下
バネオを運転してみた印象は、まさにAクラスそのものだった。Aクラスベースなのだから当たり前だと思われるかもしれないが、実はそうでもない。背は高くホイールベースは伸びて、重量は270kgも重くなっている。それでもAクラス同等の「操縦性」を備えている点はむしろ評価に値する。
走っていると背の高さはまったく感じない。ワインディングロードで右に左にステアリングを切っても、ロールは量/速度ともに適切で、ドライバーを不安にさせるような挙動は見せなかった。速度を上げるほど直進安定性は向上する。高速道路ではステアリングに軽く手を添えているだけ。疲労は最小限に食い止められるだろう。総じてメルセデスらしい操縦性だった。
ただし、エンジンパワーは1.9リッターとはいえ最高出力125ps、最大トルク18.4kgm。A190はかなり機敏な「動力性能」を示したが、同等の動力性能をこのバネオも有しているとは言い難い。「定員乗車+その荷物」を積んでいる時は、走行車線をおとなしく走っていたほうが無難である。
バネオは室内空間に関していえば、Aクラスを上まわるでき映えである。操縦性はほぼ同等、動力性能はイマイチ。これで価格は320.0万円也。「ベンツ」じゃなきゃイヤだ、という人以外は、きっと3リッターのエスティマを買うだろう。つまりこのクルマは、メルセデス信奉者に向けたミニバンなんだと思う。彼らを満足させるだけのテイストは、たしかに持ち合わせていた。
(文=渡辺慎太郎/写真=荒川正幸/2004年1月)
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渡辺 慎太郎
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