ポルシェ・カイエンS/カイエンターボ(6AT/6AT)【短評(前編)】
日常のポルシェ(前編) 2003.06.21 試乗記 ポルシェ・カイエンS/カイエンターボ(6AT/6AT) ……955.0/1360.5万円 日本上陸を果たしたポルシェのSUV「カイエン」。340ps!の“S”と、450ps!!の“ターボ”を、モータージャーナリストの生方 聡が乗り較べる。やや高い位置にあるドライバーズシートに座り、キーを左手に持ちかえてエンジンをかけると……。
![]() |
![]() |
第3のポルシェ
「911」「ボクスター」に次ぐ“第3のポルシェ”として期待される「カイエン」が、ついに日本上陸を果たした。いうまでもなく、北米や西ヨーロッパ市場で、いまだ成長を続けているSUV(スポーツユーティリティビークル)カテゴリーに撃って出るため、ポルシェが開発したニューモデルである。新しい挑戦だけに、その仕上がり具合が興味深い。日本でのラインナップは、自然吸気V8搭載の「カイエンS」と、同じパワープラントをツインターボで過給する「カイエンターボ」の2モデル。さっそくこの2台を試乗に連れ出した。
カイエンとフォルクスワーゲンの「トゥアレグ」が兄弟関係にあるのはご存知だろう。ポルシェとVWにとってラクシャリーSUVは未踏のカテゴリーだっただけに、基本部分を共同で開発することで開発やパーツ供給のコストを低減したのだ。とはいうものの、カイエンとトゥアレグはまったく違うキャラクターを持っている。それはエクステリアを見ただけでもわかる。カイエンのフロントマスクは、一目でポルシェとわかるデザインで、ナンバープレートから下を隠せば、スポーツカーに見えるはずだ。ちなみに、Sとターボでは、フロントバンパーのエアインテークが大きいほうがターボだ。
実物を目の当たりにすると、そのボディの大きさに驚く。全長4782mm、全幅1928mm(ミラーを入れると2216mm)は、5人乗りにしておくのが惜しいほど巨大で、道の狭い東京を動き回るには気疲れするサイズだった。
緊張しないインテリア
カイエンSの大きなドアを開け、やや高い位置にあるシートに乗り込むと、伝統のアナログ5連丸形メーターがポルシェの一員であることを主張する。レブカウンターが左側に押し出されたかわりに、中央には水温計、燃料計、そして各種情報を表示する液晶ディスプレイが配置されている。そのせいか、メーターパネルからは911やボクスターのような緊張感というか気迫が伝わってこない。なお、中央のディスプレイはカイエンSとターボでは異なり、ターボのほうがより精細な表示になる。また、一番右は、カイエンSが電圧計であるのに対し、ターボにはブースト計が備わる。
ステアリングホイールやシートは、革で覆われる。、ターボは、さらにダッシュボートまでもがレザーで覆われたゴージャスなインテリアとなる。アルミのパネルもスポーティな雰囲気を盛り上げるのに大いに役立っている。ただ、空調の吹き出し口や温度調整のツマミに使われているシルバー塗装のプラスチックパーツなどは質感がいまひとつで、価格相応のクオリティがほしいところだ。
![]() |
![]() |
![]() |
余裕のパワーユニット
シートクッション横のスイッチでポジションを合わせ、ステアリングのチルト、テレスコピックを調節(ターボは電動調節式になる)して準備万端、ブレーキペダルを踏みながら例によって左手でイグニッションキーを捻ると、最高出力340ps/6000rpm、最大トルク42.8kgm/2500-5500rpmの実力を秘めるカイエンSのV8エンジンは、静かにアイドリングを始めた。
シフトレバーを「D」レンジに入れて軽くアクセルを踏むと、2速発進であることを忘れさせるくらい軽々と、標準で2245kg、リアにタイヤキャリアを積んだ試乗車では2460kgに及ぶヘヴィー級ボディをスタートさせた。さすが4.5リッターの大排気量エンジン、低回転でも力強い。それは回転を上げるにつれてさらに明確になり、2500rpmを超えてからはわずかなアクセルペダルの操作にも間髪入れずに応えてくれる頼もしさがうれしい。しかもエンジンはウルトラスムーズで、巡航時にはその存在を忘れるほど静粛性は高い。
一方、アクセルペダルを踏み込むと、シートバックに身を押しつけられるような加速……とまではいかないが、スピードメーターの針はあっというまに制限速度に到達しているという状況だ。高速巡航時は直進安定性が極めて高く、ブリヂストンのオンロードタイヤ「トランザER30」(前後とも255/55R18 109Y)の高い静粛性も手伝って、体感速度は実際のスピードよりも低く感じられるから、リラックスして走行することができた。
これに対してターボの加速は圧倒的だ。街なかでアクセルペダルを軽く踏んでいるときでも、その実力を感じ取ることができる。わずか1500rpmからでも、アクセルペダルを踏む右足にすこし力をこめれば明らかに自然吸気版のV8を上回るトルクでクルマは前に押し出される。もちろんお楽しみはこれからで、アクセルペダルを大きく踏み込めば、予想をはるかに超えるスポーツカー並みの加速が待っているのだ。450ps/6000rpm、63.2kgm/2250-4750rpmの実力を見せつけられた瞬間である。
組み合わされるオートマチックは、ターボラグの小さいエンジンとの相性もよく、自然な反応でストレスを感じる場面はなかった。なお、ターボには前後とも「275/45ZR19 108Y」のピレリ Pゼロロッソが装着されていた。こちらもオンロードでのグリップ、静粛性など申し分ない。(後編につづく)
(文=生方 聡/写真=峰 昌宏/2003年6月)
・ ポルシェ・カイエンS/カイエンターボ(6AT/6AT)【短評(後編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000013447.html

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
NEW
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。