トヨタ・ウィッシュX“Sパッケージ”(4WD/4AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ウィッシュX“Sパッケージ”(4WD/4AT) 2003.03.27 試乗記 ……257.4万円 総合評価……★底が浅すぎる
ホンダ「ストリーム」をあまりにも意識しすぎた、3列7人乗りミニバン。こういうクルマを「待っていました!」と探していた人なら止めないが、「こういうカタチでも7人乗れるんだ。へ〜、便利かもぉ」という、無党派浮動票タイプの人には勧めない。
なぜなら、3列目のシートは背もたれ、座面ともに狭く、クッションが薄いので大人が乗るには窮屈。おまけに、「シートを畳むと床がフラットになる」ことありきでクルマづくりが行われたせいか、3列目だけでなく2列目シートの乗り心地にも満足できない。たしかに、乗ろうと思えば7人乗ることはできる。でも、尻や背中が痛くなるようなシートにキッチキチに詰め込まれて、何が楽しいのだろう。
フラットになる床ならば、たしかに荷物は整然と積める。しかし、「プレミオ/アリオンのプラットフォームを利用して、ショールームでパッと眼を惹くような、とにかく目新しいミニバンをつくる」(開発担当者)ことが最優先されたためか、床はフラットだが、カンジンの床面が地面から高いところに位置しており、積載量は想像するほど多くない。たくさん荷物を積み込みたい人には、これでは不満なのではないか。
すべてがそんな調子である。“3列7人乗り”とか“フラットな床”が金科玉条となって、乗る人間の快適性やクルマの実質的な使い勝手を省みた痕跡がみられない。トヨタ流にそつなくまとまっていて、ツッコミを入れられるようなところは巧みにガードしているが、商品企画の底が浅すぎる。意味のない3列7人乗りをやめ、2列5人乗りに改めて、フルフラットにならなくてもいいから座り心地のいいシートに代えるなど、乗り心地を改善したウィッシュに乗ってみたい。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
ウィッシュは2003年1月20日にデビュー。中型セダン「プレミオ/アリオン」のプラットフォームに“スタイリッシュ”を謳うモノフォルムのボディを被せた、3列シート7人乗りのピープルムーバーである。
グレードは、132psと17.3kgm(4WDは125psと16.4kgm)を発する、1.8リッター直4DOHC(1ZZ-FE)を積む「1.8X」(2WD/4WD)のモノグレード。これに、収納やスピーカーなどの装備を省いた廉価版「Eパッケージ」(FFのみ)と、アルミホイールや本革巻ステアリングホイールなどを奢った豪華版、「Sパッケージ」(FF/4WD)が用意される。
(グレード概要)
1.8X、モノグレードのウィッシュ。装備は基本的に充実しており、オートエアコン、CDプレーヤー付きAM/FMラジオ+4スピーカーなどが標準で備わる。2WDと4WDが用意され、4WD車は、リアがディスクブレーキ、3列目シートにヒーターダクトが備わる(寒冷地仕様は、2WDも3列目ヒーターダクト付き)。上級パッケージオプション「Sパッケージ」装着車は、エアロバンパーやサイドマットガード、アルミホイールを装着。インテリアは、助手席シートバックテーブルや、本革巻ステアリングホイールとシフトノブが備わる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
黒一色で、雰囲気は暗い。“Sパッケージ”に装着される、カーボン調パネルは安っぽい。確かに本物はコストが高くとてもて使うことができないが、ほかにスポーティを演出するアイテムや方法はないのだろうか。
操作系は優れており、特にインパネシフトはとても使いやすい。小物入れが、センターコンソールや上下グローブボックス、助手席シートアンダートレイなど、10数カ所設けられるのも便利でいい。
(前席)……★★
ミニバンなのに、座面が低いのが意外だった。おかげで乗用車ライクな運転ポジションがとれるが、ワンモーションフォルムを採ったため、ノーズ先端が見えない。Aピラーは太く寝ていてフロントガラスの傾斜がキツく、運転の妨げになる。シートは、座面も背もたれも薄くて、長時間座っていると尻と背中が痛くなる。
(2列目シート)……★★
2列目は、見た目には普通のシート。だが、クッションが貧弱で尻が痛くなる。目一杯後ろにスライドさせれば、足元の空間は広大になるが、そうすると3列目に人が乗れなくなる。
(3列目シート)……★
3列目シートは冒頭に記した通り、エマージェンシー用と割り切って使う必要があるだろう。大人が快適に座れるシートではなく、スペースもない。ただし、2列目を折り畳めば、3列目には脚を伸ばして座ることができる。
(荷室)……★★
3列目シートを立ててしまうと、荷室容量は144リッターでミニマムだ。5名乗車時は470リッター、2列目と3列目を畳んでジマンの「ビッグキャビンモード」にすると、床面が高い荷室が登場する。
ところが、せっかく荷物をたくさん積めるのに、急ブレーキ時の前席への荷物の突入を防ぐラゲッジネットが備わらない。オプショナルでも選べないから、必然的に複数、多くの荷物は載せることができなくなる。たとえ、小さなものひとつであったとしても、乗員に当たったり、何かの拍子にブレーキペダルの裏側に飛び込んで急ブレーキをかけられないという、最悪の事態を招いてしまうことが避けられないからだ。だったら、このクルマに荷物をいくつも載せて長距離を走るのは御免被りたい。
ヨーロッパでは、どんな小さなワゴンでもラゲッジネットが備わるのに、なぜウィッシュにはオプショナルでも存在しないのか、プロジェクトリーダーに質問してみた。けれど、残念ながら“そうですねぇ……”という頼りない答えしか返ってこなかった。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
2003年春頃に2リッターの追加がウワサされるが、今のところエンジンは1.8リッター4気筒だけ。3名乗車しての山道では、トルク不足を感じた。7名乗せて走ったら、ずいぶんと回転を上げて走らなければならないだろう。4段ATのキックダウンが機敏に行われるのと、シフトレバーが操作しやすいので、トルク不足を感じてもシフトダウンが苦にならないのが幸いだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
前席の項でも述べたが、トヨタのミニバンとしては運転姿勢からして、“非ミニバン的”なウィッシュ。スポーティを意識してか、足まわりは硬めのセッティングで、ステアリングホイールに路面のインフォメーションをよく伝える。おかげで、タイヤの状況がつかみやすい。悪い路面での乗り心地や、山道での限界的なハンドリングなどは、限られた試乗時間のなかで試すことができなかった。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:金子浩久
テスト日:2002年1月20日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2003年型
テスト車の走行距離:--km
タイヤ:(前)195/65R15(後)同じ
オプション装備:SRSサイドエアバッグ(フロントシート)&SRSカーテンシールドエアバッグ(フロント・セカンドシート)+盗難防止システム(エンジンイモビライザーシステム)=9.5万円/DVDボイスナビゲーション付ワイドマルチAVステーション(6.5型液晶ワイドマルチディスプレイ+MD/CD一体AM/FMマルチ電子チューナー付ラジオ+6スピーカー)+ガラスアンテナ(ダイバシティ・TV用)+バックガイドモニター&ブラインドコーナーモニター+ステアリングスイッチ=33.1万円
走行状態:市街地(4):高速道路(4):山岳路(2)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。