トヨタ WiLLサイファ1.3(4AT)【ブリーフテスト】
トヨタ WiLLサイファ1.3(4AT) 2003.01.10 試乗記 ……131.1万円 総合評価……★★![]() |
奥深い狙い
奇妙キテレツなルックスと、車載端末「G-BOOK」の標準搭載が話題の「WiLLサイファ」。「ヴィッツ」ベースの“変型ボディ”に、「従来の通信ナビや情報サービスとは異なり、携帯電話の接続やそれによる追加通信費を負担することなく、最大144kbpsの高速通信による情報提供サービスを受けられる」(有料、または携帯電話が必用なコンテンツあり)というG-BOOKを搭載。G-BOOKのサービスメニューでは、カラオケやホラースポット案内など、若者をターゲットとした娯楽系コンテンツが目立つ。
しかし、G-BOOKが狙うところは、実はユーザーの自社(トヨタ)への囲い込み。「他社はまだ手がけていないはず」の、車両側からの情報発信は、いまのところ位置情報のみだが、将来的には走行距離や故障内容など、さまざまな情報を自動発信することも可能。それを受信したメーカー側は、たとえば、そのままディーラーへの入庫を促進するメッセージを送り返すなど、専属のセールスマンを“車載”するのと同様の効果を狙えるというワケ。定額制の上、月額換算でわずか550円からの安価な使用料ゆえ、それだけでは利益を生むとは思えないG-BOOK。その狙いは、こうした奥深いところにある。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2002年10月21日にデビューした、ヴィッツベースの5ドアモデル。トヨタ、近畿日本ツーリスト、江崎グリコ、コクヨ、松下電器産業の5社が進める異業種合同プロジェクト「WiLL」のブランド名を冠する第3弾である。エンジンはヴィッツでも使われる、1.3リッター直4と1.5リッター直4の2種類。前者が前輪駆動、後者は4WDになる。トランスミッションはいずれも4段AT。
サイファの特徴はなんといっても、車載情報端末「G-BOOK」の搭載。「DCM(Data Communication Module)」と呼ばれる通信モジュールの採用により、携帯電話を必要とせずに、最大144kbpsの通信を可能とする。月々550円(年払で6600円の場合)からの定額制。オペレーターサービスやカラオケなど、別途料金が発生するコンテンツもある。i-MODEなどの有料コンテンツと、同じ仕組みだ。「DCM」そのものが通信機能を備えるが、オペレーターを介してのナビゲーション設定など、音声通信では携帯電話を利用する。
(グレード概要)
サイファ1.3は前輪駆動。1.5リッターを積む4WDモデルと、装備の差はない。標準で、電動格納リモコンドアミラーやオートエアコンなどを装着。オーディオはラジオレスの4スピーカー。車載端末「G-BOOK」は、全車標準装備。ナビゲーションシステムも、G-BOOKに含まれる。安全装備として、EBD付きABSや前席SRSエアバッグ、リア3点式シートベルトなどが付く。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
サイファのインパネは、まさに「G-BOOK」がメインのデザイン。大きな円形のセンターパネルをはじめ、ドアグリップやステアリングパッドにも円形モチーフが多用されるが、これはG-BOOKのデザインキーワード、「つながる」をイメージしたものでもあるという。ところで、サイファの目玉であるG-BOOKの使い勝手は、手放しで「素晴らしい」とはいえない。なぜなら、従来からの音声認識ナビの使い勝手を、一歩も超えたものではないからだ。G-BOOKの基本操作は旧態然とした画面タッチ方式に頼るし、既存のナビゲーションシステム同様、走行中に使用できるメニューも限られる。システムそのものは大いに未来的であるにもかかわらず、操作方法が前時代的なのが不満のポイント。オペレーターに目的地を設定してもらう時、音声のやりとりだけは携帯電話を利用するのだが、“ケータイ”をセンターコンソールから生えるコードとつなぐプロセスも、未来的なサイファだからこそ、妙に前時代的な印象を受ける。
(前席)……★★★
FF(前輪駆動)モデルの車両本体価格は、わずか126.0万円というサイファだが、シート構造は凝っている。シートバックには、上級モデル同様のSバネ(S字型の金属バネ)が用いられるし、ショルダー部分は「異硬度仕上げ」でサポート性向上を図る。後突時の頸部傷害を低減させる“WIL”コンセプトが用いられたのも特徴。シートバックフレーム上部を人間から遠ざけ、万一の衝突時に、頭部をヘッドレストに理想的な状態で当てる工夫が採られた。ドライバー席には、ダイヤル式のリフターも装備。着座感はなかなかだ。
(後席)……★★★
フロントシートとコーディネイトされたリアシートは、シートバックのみ6:4の分割可倒式。両サイドのシートベルトをチャイルドシート固定機能付きとしたうえ、「ISOFIXバー」も標準装備。外観とは裏腹に(?)、積極的な安全対策に取り組んでいる。ヴィッツ譲りのホイールベースゆえ、タンデムディスタンスはさほど大きくはない。だが、アップライトな姿勢で座るため、レッグスペースは大人にも余裕のあるものだ
(荷室)……★★
テールゲートを開くと「空間形状がヘン」と感じるのは、ヴィッツとはまったく異なるデザインのボディに、同じパッケージングを採用したからだろう。一見すると、リアのオーバーハングが大きく、そのぶん荷物をたくさん積めそうに思える。実はリアフェンダーアーチを大ボリュームで演出すべく、バンパーの突出量が妙に大きいだけなのだ。というわけで、ラゲッジスペースは外観から期待したほど大きくない。もっとも、日常的な日本の買い物程度には十分であろう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
サイファのバリエーションは、1ボディ2エンジンに2種類の駆動系。駆動方式を選ぶと自動的に搭載エンジンが決定する。FFモデルは1.3リッター、重量のかさむ4WDモデルは1.5リッターユニットが組み合わされるというワケだ。
基本的な動力性能に関しては、同ユニットを搭載する“兄弟車”と同じフィール。エンジン透過音は、高回転域を多用したくなる1.3リッターモデルの方が目立つ。ちなみに、排気量の「大きさ」ゆえか、はたまた駆動システムに起因するものか、4WDモデルの方がエンジンノイズのこもり感が強めで、アイドリング時の微震レベルも大きく感じられた。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
サイファの走りは、「実用本位で考えれば文句はないが、“スペシャルティカー”と認識すると、ちょっと安っぽい」というのが、ぼくの印象だ。足まわりは、「基本的には、かつて存在したヴィッツ“ユーロスポーツエディション”に近い」という。しかし重量増のためか、率直なところそのフットワークテイストは、“スポーティ”が感じられない。高速走行では、想像したよりもずっとフラットな走りをしてくれたのは見事だが、それ以外はよくも悪くも「印象に残らない」のだ。サイファの本領を発揮するシーンはむしろ、「渋滞にはまってG-BOOKを操作している時」なのかもしれない。果たしてそれを、クルマ好きとして喜ぶべきか、憂えるべきか……。
(写真=郡大二郎、清水健太)
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【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2002年11月6日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:--
タイヤ:(前)175/65R14 82S(後)同じ
オプション装備:CD/MD付きラジオ+6スピーカー(5.1万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(3):山岳路(2)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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