トヨタ・ヴォルツZ(4AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・ヴォルツZ(4AT) 2002.09.26 試乗記 ……227.7万円 総合評価……★★★日本よりアメリカ
トヨタの新しい“クロスオーバー”モデルが「ヴォルツ」。アメリカで「ポンティアック・バイブ」の名で売られるクルマは、実質的な双子車。つまり「ヴォルツ」は、トヨタと、世界最大の自動車メーカー「GM」とのジョイントベンチャーによる賜物だ。もっとも、「名古屋の本社で行われた」というデザイン面を含め、実際の開発を担当したのはトヨタ・サイド。ただし、販売面ではアメリカで売られる「バイブ」の方が過半数を占めることもあり、生産は、これまたGMとトヨタのジョイントベンチャーによる合弁工場、北米はカリフォルニア州の「NUMMI(New United Motor Manufacturing)」で行われる。
カローラを母体とするヴォルツではあるが、レジャービークル風のデザインを意識したボディをまとったり、ファットなシューズを履くことになった結果、「全幅」「全高」はカローラのそれらを大きく上まわる。多くのタワーパーキングから締め出しを食らう1.6m超にハイトが設定をされたことをはじめ、このあたりのディメンションに、ヴォルツが、明らかに「日本よりアメリカ」に顔を向けて開発されたことが窺える。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
ヴォルツは、2002年8月20日に発売が開始されたトヨタとGMの共同開発車。カローラをベースに、「SUV」「ステーションワゴン」「ミニバン」の長所を取り入れたクロスオーバーな“新ジャンル”モデルと説明される。「アクティブなライフスタイルを志向する若者」(プレスリリース)がメインターゲットだ。
トヨタとGMが共同で企画、トヨタが設計、評価を担当し、GMとの合弁会社である北米はカリフォルニアの「NUMMI(New United Motor Manufacturing)」で生産される。つまり、ヴォルツは輸入車である。北米では、「ポンティアック・バイブ」「トヨタ・マトリックス」(後者はカナダ産)として販売される。
エンジンは、ノーマルの1.8リッター(132ps/4WDは125ps)と、ハイチューンの1.8リッター(190ps)が用意される。トランスミッションは4段ATほか、190psモデルは6段MTも選択可能だ。標準エンジン搭載車は、FF(前輪駆動)のみならず、ビスカスカプリングを用いた4WDモデルもラインナップされる。
(グレード概要)
ヴォルツ「Z」は、「S」と同じ1.8リッターながらVVTL-i(連続可変バルブタイミング&リフト機構)を装備、「S」の「1ZZ-FE」型より60ps前後もハイパワーな「2ZZ-GE」ユニットを搭載する。ストッピングパワーも強化され、リアブレーキがドラム式からディスクに格上げされる。さらに、タイヤは「S」よりひとまわり大きい「215/55R17」を履く。外観上は、2トーンの「S」に対し、「Z」のバンパー、フェンダー部はボディと同色。内装面では、シフター、ステアリングホイールがウレタンから本革巻きになるのが違い。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
カローラより若い層をターゲットとするだけに、室内デザインも全体に“若づくり”な印象。丸型4連メーターには派手な化粧リングが与えられ、メーター自身も赤の自発光式と、やはり派手。メーターパネルに調光機能付きのルームランプ・スイッチが設けられたのは、いかにもアメリカ的で嬉しいポイントだ。一方で、パワーウインドウのオート機能がドライバー席の、しかもオープン側のみというのは不便。実はこれ、「PL法」を意識した結果という。自動で閉まる途中で首を挟まれたりしたら危ないので、「閉じる側はあくまで自己責任で」というのがアメリカ流なのだ。
(前席)……★★★
ヴォルツのフロントシートは、セミバケット調のデザイン。「セダンよりも40mmほど高い」というヒップポイントが与えられたシートへの乗降性は良好だ。ちなみに、「ペダル位置はセダンと同じ」というこのクルマのドライビングポジションは、高くなった着座位置に合わせるため、ステアリングポスト角がセダンのそれよりもわずかに(約3度)立ち気味。とはいえ、実際にそれを意識することはほとんどなかった。
(後席)……★★
ヴォルツの売りのひとつは、多彩なシートアレンジがもたらすユーティリティの高さ。シートバックを前倒しするだけで座面クッションも前に沈みながらフォールダウンできるので、使い勝手はなかなか。ただし、後席中央はシートベルトが2点式でヘッドレストも付かないのは残念。GMは、こうしたものを求めないのだろうか?
(荷室)……★★★★
ヴォルツのラゲッジスペースは、全体がグレーの樹脂パネルで覆われる。見た目には若干チープな印象を受けないではないが、汚れ物や濡れ物でも気がねなく放り込めそうなのが嬉しい。フロアはやや高めだが、「床面積」は広め。荷物固定用のフックが標準装備なのも、得点が高い!
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
タコメーター上に引かれたレッドラインは、実に7800! 「VVTL-i」ことトヨタ流のVTEC技術を駆使した「2ZZ」型ユニットは、6500rpmを上まわったところで高回転側カムを選択し、一段とパワフルに回り続けようとする。が、現実問題として、オートマチックトランスミッションとの組み合わせでは、一般公道上でこうした領域までを使いこなせるとは、とうてい考えられない。MT仕様と異なり、なぜか排気こもり音がやかましいのも、ヴォルツ「Z」ATモデルのウイークポイントだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
ヴォルツのタイヤは、ハイパワー版の「Z」がサマータイヤ、ベーシックな「S」がオールシーズンタイヤと、標準の設定が異なる。「実は『Z』でもオールシーズンを履きたかったが、見あう性能のモノが見当たらなかった」というのが、こうした装着タイヤになった理由だ。実際に乗ると、「Z」の方が微舵領域での効きが優れるため安心して走れるし、乗り心地もフラット感が高い。ちなみに、「S」ではウエット時にグリップが極端に低下するので要注意だ。
(写真=河野敦樹)
【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2002年8月23日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2002年型
テスト車の走行距離:−−
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)同じ(いずれもFirestone Firehawk SZ50)
オプション装備:DVDナビテレビチューナー付きMD/CD(テレビアンテナ未装着/22.7万円。装着時24.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(8):山岳路(2)
テスト距離:--
使用燃料:--

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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