MINIジョンクーパーワークス クロスオーバー(4WD/6MT)【海外試乗記】
その走りは予想外 2012.09.20 試乗記 MINIジョンクーパーワークス クロスオーバー(4WD/6MT)「MINIクロスオーバー」に最もホットなグレード「ジョンクーパーワークス」が登場。初の4WD仕様となるハイパフォーマンスバージョンをドイツで試した。
JCW初の4WD仕様
相変わらず、MINIが売れている。2012年1月から7月の国内累計販売台数は、前年同期2割増しの、およそ9500台。うち、半分弱が「クロスオーバー」(海外名:カントリーマン)らしい。
「アレのどこがMINIやねん」とツッコミたくなる気持ちはさておき、(小さい方の)MINI乗りのカップルに新しい家族が加わった、だとか、もう大きな国産ミニバンなんて要らないけど4ドアでスペーシーなクルマに乗りたい、といった、MINIにとっては新しいファミリーカーニーズを掘り起こせたポテンシャルの高い商品、というわけで、輸入元と販売店の鼻息は荒い。その勢いをかって、今後、ディーラーの数も増えるという。
そして、ベースモデルの販売台数が伸びるとスペシャルグレードの需要も増える、というのが、“人とは違うクルマに乗りたい”欲求マーケット=輸入車販売の基本、である。
というわけで。ついに、というか、WRCマシンがクロスオーバーベースのその名も「MINIジョンクーパーワークス」だったから当然といえば当然だけれども、MINIクロスオーバーにも「ジョンクーパーワークス(JCW)」グレードが追加された。「クーパーS ALL4」がベースだから、JCWモデルとしては初の4WD仕様でもある。
晩夏のラインガウに沿って、半日のドライブを楽しんできた。
MINI史上最強のエンジン
ハイライトは、パワートレインだ。MINIファンにとっては朗報でもあると思う。現行MINIと同様に、ようやく、JCW用ユニットもバルブトロニック付きとなった。チューニングは218ps、28.6kgm(オーバーブースト時30.6kgm!)で、もちろんMINI史上最強。しかも……。日本マーケット待望の6段ATも選べるようになった。もちろん、この新パワートレインは、JCWモデルすべてに搭載される。
MINIにでっかいミニ(=クロスオーバー)は本当に必要か? の議論と同じく、スパルタンなJCWにトルコンAT仕様なんて要るのか? は、意見の分かれるところ。個人的には、ニッチのニッチで特殊なブランド性=“乗れない”人がいることによって成立する特別な存在感、を末永く保っていきたいのであれば“要らない”と思うのだが、マーケットの要望に応えて大いに“もうける”こともまた、メーカーの役割であり、仕事だ。結局、この手の話は堂々巡りになってしまう。未来の検証を待つほかない。
控えめながらもノーマルモデルとの違いをしっかりとアピールするエアロルックスや、10mmローダウンの専用チューンドサスペンション、いかにもスパルタンな見栄えのアロイホイールに赤キャリパーのブレーキなど、仕立て方法そのものは従来のJCW化文法にのっとったもの。なのだけれども、試乗前に足まわりの担当者いわく、「ターゲット層が明確に異なるので、ライドテイストもまったく違う」という。
果たして、その乗り味は、どんなものだったか……。
素晴らしく豊かな乗り心地
予想外の展開に、しばらくうなるほかなかった。なるほど、JCWといえば、2世代目になって初代モデルほどのガチガチなスパルタンさは薄れ、随分と乗りやすくはなっていた。それでも、ベースの「クーパーS」グレードに比べると、JCWははっきりと“男前”な乗り味だったし、特に「クーペ」と「コンバーチブル」版が最新の体験だったから、鉄板のようにフラットなドライブフィールというイメージが強く残っていたのだった。
加えて。より乗用車感覚に近いクロスオーバーゆえ、MINIらしさとラリーイメージを強調するために、“小さなMINI”のJCWよりも意識的にハードなモデルに仕立ててくるのでは? とも予想していた。
それが、どうだ。身構えて転がし始めてみれば、この素晴らしく豊かな乗り心地。穏やかだけれどもフラットに制御されたサスペンションの上下動、立ち上がりは素早いけれどもプロセスが奥ゆかしいシャシーの動き、そして高回転域までとにかくキレイに回るエンジン(試乗車は今回、残念ながらMTのみだった)。
特に、コーナリング中の姿勢の良さは、ドライバーのみならず、ナビシートからでも容易に感じられるほど。美しく、そして愉快なロール姿勢で駆けぬける姿を頭のなかでイメージしながら、コーナーを抜けていく気分の良さといったら!
ドイツのカントリーロードを、クルージングプラスアルファ程度で走っていると、そのあまりのすがすがしさに、このクルマのエンジンがMINI最強の仕様で、そのパフォーマンスを確かめにわざわざドイツまでやってきたことなど、思わず忘れそうになっていた。
スポーツカーに負けない走り
もちろん、そのスポーツパフォーマンスも素晴らしい。高回転域におけるエンジンフィールが少々雑で、パワー感にも少し物足りなさを覚えたものの、スポーツボタンを押し、エンジンのピックアップとパワーステアリングのフィールを硬派にセットして(AT仕様の場合は、変速スピードも変わる)、ヤル気満々のエキゾーストノートを響かせながら走れば、ちょっとしたスポーツカーなど話にならないくらい、ファンな走りをみせた。
「でっかいMINIなんて要らんワ」が持論の筆者も、JCWのライドフィールには、大いに感心せざるを得なかった。これがスポーツコンパクトの新しいスタンダードだとすれば、欧州勢の独走を止めることは、ますます難しくなっていくだろう。
そして。JCWまでコンフォートさを追究するのか! とお嘆きのコアなMINIファンの皆さま、ご安心を。ついに日本でも限定モデルの「ジョンクーパーワークスGP」が販売される。MINIから「クーパー系」そして「ジョンクーパーワークス」と、それぞれの台数が増えていけば、“またその上”が生まれる、というわけだ。
(文=西川淳/写真=BMWジャパン)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
NEW
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】
2025.12.20試乗記冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。 -
NEW
失敗できない新型「CX-5」 勝手な心配を全部聞き尽くす!(後編)
2025.12.20小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージによる新型「マツダCX-5」の開発主査へのインタビュー(後編)。賛否両論のタッチ操作主体のインストゥルメントパネルや気になる価格、「CX-60」との微妙な関係について鋭く切り込みました。 -
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。

































