MINIクーパーS EクロスオーバーALL4(4WD/6AT)
俺たちにはMINIがある 2021.04.05 試乗記 すっかり大きくなったMINIシリーズのなかでも一番大きいのが「MINIクロスオーバー」だ。ラインナップで唯一のプラグインハイブリッド(PHEV)モデル「クーパーS EクロスオーバーALL4」に試乗し、最新モデルの仕上がりを試した。乗りたかったPHEV
MINIクロスオーバーのハイブリッド、クーパーS Eに乗り込み、ダッシュボード中央のトグルスイッチ、現代のMINI乗りにはおなじみのスタート&ストップのスイッチを押す。けれど、ウンともスンともいわない。この場合のウンともスンともとは、内燃機関(ICE)のサウンドと振動、ということになるわけですけれど、プラグインハイブリッド(PHEV)なのだから当然といえば当然である。
シフトレバーをDレンジに入れ、アクセルペダルを慎重に踏み込む。パーキングブレーキが自動的に解除され、電気の力で無言のまま走り始める。2017年に上陸した2代目MINIクロスオーバーは、MINIのくせに「ゴルフ」クラスにまで成長しているのはご存じの通りである。前輪駆動になった「BMW 1シリーズ」とプラットフォームを共有しているのだ。といって、不思議なことに、運転してはさほどの大きさを感じないのがMINIの真骨頂である。それが筆者的に初試乗となるこのPHEVではどうなっているのか、というのが関心の中心である。
2代目MINIクロスオーバーのPHEVであるクーパーS E、2020年9月末に国内デビューを飾ったそのフェイスリフト版である。おおむね7年というモデルライフのなかで、登場以来3年ちょっとを経て、定例のお色直しを施して後半戦へ突入するという儀式を受けたこの最新モデルが、ではさて、前期型と比べてどこがどう違うのか。ということが読者諸兄にとっては最大の注目点であろう。
筆者にしてからそうである。しかしながら、筆者は前期型に乗っていないので、それについては言及できないことを冒頭お断りしておかなければならない。それならあなたは、前期型に試乗してから、後期型に乗ればよかったではないか。それができなかった以上、あなたは別のひとにこのクルマの試乗記を譲るべきではなかったか。というご指摘はごもっともである。しかしながら、筆者だって乗りたいではないですか、MINIクロスオーバーのPHEVに……。というわけで、筆者はこのお仕事をお引き受けした次第です。
中国に向けたメッセージ
で、後期型へと移行した2代目MINIクロスオーバーシリーズ、全体に共通する変更点をおさらいしておくと、主な違いは、LEDヘッドライトの形状が丸型から角型に変更になったことである。これまでも四角い目つきではあったけれど、その中身のLEDまで四角くなった。丸が穏やかさ、円満、天然・自然の象徴であるなら、四角というのは正確さ、精密さ、人工の象徴だと申し上げることができよう。その証拠に、幼子が最初に描く絵は□ではなくて○である。自動車デザインにおけるヘッドライトも、最初は○だった。技術の進歩が□型を実現せしめた。MINIクロスオーバーも、そのような歴史の反復、もしくは必然ともいうべき進化を遂げたことになる。
さらにリアのLEDライトが、ほかのMINI同様、ユニオンジャックをくっきり浮かび上がらせるデザインになった。言うまでもなく、日の沈むことのない帝国の国旗であり、MINIブランドの出自を物語るアイコンだ。バッジを付けていないと、なんだかよくわからないものになりつつある。という皮肉な見方もできるでしょうけれど、オリジナルMiniにだって英国の国旗はつきものだった。
試乗車のように「ピアノブラックエクステリア」というオプションを装備すると、ライトのまわりに黒い縁どりがされて、パンダみたいな顔になる。これはMINIから中国へのメッセージだとも考えられる。
というのも、2020年10月の発表によると、MINIは「グレートウォールモーター(長城汽車)の協力のもと、2023年よりフル電動モビリティー向けに開発された新たな車両アーキテクチャーをベースとしたバッテリー式電動車両が生産される予定」だからだ。現状でもMINIの新車販売の約10%が中国の顧客向けだというから、かの地におけるMINIの人気ぶりが想像できる。その人気に、国産化と電動車両であることによる減税が加われば、MINIブランドの販売台数は一気に増える。加えて、デザインのパンダ化による爆発的流行も狙っている。これを「パンダミック」と呼ぶ(私だけですけど)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
つまりどこが変わったのか
話をMINIクロスオーバー後期型の改良ポイントに戻すと、ICEモデルだと、ATが6段から8段に多段化している。ビッグニュースである。けれど、PHEVは従来通り6段ATのままだ。おそらくはモーターがICEを助太刀するため、多段化することのメリットよりも重量増などのデメリットのほうが大きい、という判断なのだろう。こう書くと、もっともらしいようだけれど、当たり前である。
フロントに横置きされて前輪を駆動する1.5リッター直列3気筒ターボは、最高出力136PS、最大トルク220N・m。後輪を駆動する電気モーターは最高出力88PSで、最大トルクは165N・m。という数値も前期型と同じままだ。したがって、システム最高出力224PSと同最大トルク385N・mというのも変わっていない。1680kgという車重は、モーターとバッテリー等、ものが多い分、ICEモデルより100kgほど重い。
というようにMINIクロスオーバーに関する発表内容を見てくると、つまりPHEVのクーパーS Eに限っては、前期型との違いはほとんど外観のみ。丸いLEDのヘッドライトが四角くなったのと、リアのLEDのランプがユニオンジャックになったことぐらいなのだ。
その振る舞いはPHEVであるがゆえにPHEVならではである。前述したように、筆者は前期型に試乗していないので、あたかもまっさらの初ものとして記すことになる。前期型について詳しい読者諸兄にとって、ここから先は退屈至極になるやもしれぬ。ご寛恕(かんじょ)を。
後輪駆動で走るMINI
MINIクーパーS EクロスオーバーALL4は音もなく走り始め、それから音もなく坂を下った。なんとなれば、筆者がこのクルマに乗り込んだのは、webCGが契約している駐車場で、その駐車場は東京都内、恵比寿某所の丘の上にあるからだ。
坂を下る。そのとき、PHEVのICE、1.5リッター3気筒ターボはないもののように振る舞う。バッテリー残量は50%をやや上回っている。駒沢通りに出て、旧山手通りに入って坂を登る。このとき、筆者としてはICEの始動を当然期待する。アクセルペダルをこころもち踏み込む。ところが、クーパーS Eは沈黙を守り続け、代官山を抜けて国道246号に出、さらに首都高の渋谷入り口の坂道を駆け上がってもなお、静寂を保ち続ける。
このとき、ジャンボなMINIはモーターで後輪を駆動し、MINI史上初の後輪駆動になっていたはずだけれど、それが史上初の後輪駆動のMINIであるという確かなフィールを感知することは筆者にはできなかった。淡々と首都高速3号線を都心部方面へ向かって走るのだった。乗り心地はけっこう快適である。ストローク感があって、しなやかさがある。オプションの255/35R19サイズを履いていることもあり、とりわけ高架の目地段差ではドシンバタンというショックを伝えてくることはあるものの、そのショックも角がとれている。モーターとリチウムイオンバッテリー等の付加による重量増が効いているのかもしれない。
ロードノイズと風切り音は聞こえてくる。けれども、心のなかはサイレンス。ICEの排気音やメカニカルなエンジン音はない。その意味では、し~ん、としている。ガラスウォールの谷間を走る無音の世界が心象風景として広がる。筆者的には物足りない。「MINIクーパーS」というモデル名にとらわれているから、だろう。
そこで、都心のランドマークである六本木ヒルズが右に並んだ頃、アクセルを思い切って踏み込む。あえてICEを目覚めさせようという作戦だ。
ぶおーっ。という手応えがある。ようやくにして3気筒ターボが目覚めたのだ。電池の残量は50%を切っている。それからICEのクルマのように走るかというと、エンジン音は存外控えめで、あいもかわらず淡々と走り続ける。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
いつだってMINIはMINI
金曜日に借りてきて週末、ウチの近所の駐車場にほったらかしにしておき、月曜日の朝、撮影場所に出かけるべく、トグルスイッチをONにして、ナビゲーションの目的地を入力するのに手間どっていたら、そのうち、ぶ~ん、と1.5リッター3気筒ターボエンジンがうなりをあげた。バッテリー容量は20%にまで減っている。それでも走りだせるところがPHEVの美点である。
それにしてもあらためて思うのは、MINIクロスオーバーの、MINI一族に共通する眺めのよさだ。ぶっといAピラーもウインドシールドも直立気味に立っていて、クラシックであると同時に、室内が広く感じられる。そこにSUV特有の着座位置の高さも加わり、誠に運転しやすい。
繰り返しになるけれど、乗り心地がいいことも印象的で、人間で言うと、靴底は硬いものの、ひざ関節は柔らかい感じ。靴底が硬いとブッシュにでも入り込んでいける雰囲気があって頼もしい。この硬さに乗員が守られている心持ちもする。ピラーが太いという視覚的効果もあって、ボディーの剛性感はめちゃくちゃ高い。
いわゆるドライブモードを「スポーツ」にすると、ごおおおっ、という排気音がとどろく。なんの音だかわからないけれど、マンガの『賭博黙示録カイジ』でおなじみの「ざわざわ……」というオノマトペで表されるようなサウンドに包まれ、クルマ全体がギュッと、おにぎりをつくるときみたいに凝縮されて、戦闘モードっぽくなる。ステアリングが重くなり、可変ダンパーは付いていないのに、乗り心地が硬くなっている感じがする。
運転しては、クロスオーバーになってもPHEVになっても、MINIはMINI。ステアリングはクイックで、キビキビ感があり、日々あれこれ起きる日常に、MINIならではのアジールというのでしょうか、逃げ場所のような空間をつくってくれる。階級不問の、MINIが好きなひとはホッとできる世界。こんな時期だからこそなおさら、MINIというブランドは貴重な存在だ。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
MINIクーパーS EクロスオーバーALL4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4315×1820×1595mm
ホイールベース:2670mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:136PS(100kW)/4400rpm
エンジン最大トルク:220N・m(22.4kgf・m)/1300-4300rpm
モーター最高出力:88PS(65kW)/4000rpm
モーター最大トルク:165N・m(16.8kgf・m)/3000rpm
システム最高出力:224PS(165kW)
システム最大トルク:385N・m(39.3kgf・m)
タイヤ:(前)225/50R18 99W/(後)225/50R18 99W(ピレリ・チントゥラートP7)
ハイブリッド燃料消費率:14.8km/リッター(WLTCモード)
価格:510万円/テスト車=616万4000円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトシルバーメタリック>(8万円)/フロントスポーツシート<クロスパンチレザー カーボンブラック>(0円)/PEPPERパッケージ(8万6000円)/レザーシートパッケージ(36万6000円)/デジタルパッケージプラス(14万1000円)/18インチアロイホイール<ブラックピンスポーク7.5J×18 225/50R18>(1万5000円)/ブラックルーフレール(1万4000円)/ピアノブラックエクステリア(4万1000円)/アラームシステム(5万7000円)/ブラックルーフ&ミラーキャップ(0円)/ヘッドライナー<アンスラサイト>(3万4000円)/MINIユアーズインテリアスタイル<シェ―デッドシルバーイルミネーテッド>(3万5000円)/ピクニックベンチ(1万8000円)/プライバシーガラス<リア>(5万1000円)/harman /kardon Hifiラウドスピーカーシステム(12万6000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1821km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:148.2km
使用燃料:12.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/14.4km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。





















































