MINIクーパーSDクロスオーバーALL4(4WD/8AT)
もうMINIしか見えない 2021.03.30 試乗記 「MINIクロスオーバー」のマイナーチェンジモデルが上陸。アップデートされた内外装や欧州の新しい排ガス基準に対応した改良型ディーゼルユニット、そして熟成されたシャシーの出来栄えを確かめるため、ロングドライブに連れ出した。欧州の最新排ガス基準に対応
デビューから約3年半というタイミングで実施されたMINIクロスオーバーのマイナーチェンジだが、もともと人気モデルだけに大きな変更はない。時代に合わせた細かなアップデートとブラッシュアップが加えられた印象だ。
たとえば、フロントからの眺めではバンパーに食い込むように下方拡大されたフロントグリル、それに加えて縦長エアインテークも目につく新意匠のフロントバンパー、そして内部が角形LEDとなったヘッドランプ(LEDヘッドランプは全車標準装備)などに気づかされる。リアに回り込むと、ほかのMINIと同様に、内部にユニオンジャックが浮かび上がるコンビランプが最大の識別点だろう。
今回の試乗車には「ALL4トリムパッケージ」という新しいパッケージオプションも装備されていた。この追加費用42万6000円のパッケージは、早い話がSUVっぽい雰囲気を増強するもので、バンパーやサイドシルのアルミマット調アンダーガード風コスメ(とヒーター付き電動フロントシート)が含まれる。
インテリアではタブレットのような液晶メーターパネルが最大のポイントで、今回の「クーパーSDクロスオーバーALL4」の場合は、14万1000円の「デジタルパッケージプラス」の一部として提供される。
パワートレインラインナップは基本的に変わっていないが、欧州の最新排ガス基準の“ユーロ6d”への対応が今回の主眼だ。グローバルではガソリンモデルの「ONE」「クーパー」「クーパーS」もすべて用意されるが、日本では明確な“ディーゼル推し”になるのはこれまで同様。プラグインハイブリッドの「クーパーS EクロスオーバーALL4」と「ジョンクーパーワークス」という特殊なモデル(?)以外は、すべて2リッター4気筒ディーゼルとなる。マイチェン前に途中追加された1.5リッターガソリンのONEも、ひとまず(?)再び姿を消した。
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相変わらず重いステアリング
新しいディーゼルエンジンは、排ガス浄化システムがアドブルーを定期補給する尿素SCRに切り替えられたことが、一般ユーザーにとっては最大の変更点だろう。ちょっと前までのBMWクリーンディーゼルはアドブルー不要を売りとしていたのだが、もはやそういう時代ではなくなった。
ちなみに、最高出力190PS/4000rpm、最大トルク400N・m/1750-2500rpmというピーク性能値はマイチェン前と寸分も変わっていない。ただ、ときおり電子制御4WDも追いつかないほど……というインパクトがあったデビュー当時ほどのパワフルさを、今回は感じなかった。それは周囲にパワフルなディーゼルが増えたからか、あるいはマイチェン前より50kgも上乗せされた車重(複雑になった排ガス浄化システムなどが理由か)の影響もあるかもしれしない。
それでも、ドライブモードを「スポーツ」にすると3000~4000rpmのピックアップが活発となり、相変わらず引き締まったフットワークにしっかりカツを入れながら、このミニというほど小さくも軽くもないクロスオーバーSUVをキビキビと走らせる。もともとディーゼルのフラットなトルク特性であるうえに、8段ATも減速度に応じて律義にダウンシフトしてくれるから、わざわざマニュアルシフトしなくても十二分に速い。
それにしても、相変わらずステアリングが重い! 女性といわず絶対的に非力な人、あるいはステアリングを指先で操作したい人には、正直ちょっと重すぎると思うのだが、ここだけはゆずらないのがMINIである。逆にいうと、この操舵力にいったん慣れてしまうと、軽いパワステは不安……と感じる体質になるかもしれない。そうやって信者を囲い込むのもMINIの意図的な戦略だろう。
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「ミッド」モードの完成度に感心
パワステだけでなく、クルマ全体の身のこなしも、いつものMINIである。強力なロール剛性による水平姿勢のカートフィールだ。ひとまわり小さなハッチバックやコンバーチブルほど軽快ではないが、ステアリングは手応えと正確性に富んで、その反応はパリッと俊敏である。
試乗車にはオプションの電子制御連続可変ダンパー「アダプティブサスペンション」が追加されており、ドライブモードによって、パワートレインやパワステのほか、フットワークも減衰力も明確に変化する。標準の「ミッド」モードでも基本はカートフィールなのだが、以前の低速でヒョコヒョコ上下しがちなクセはほぼ解消されており、路面の凹凸をバネ下だけでさばいて、上屋をフラットに保つ。
スポーツモードにすると明確に引き締まって、ズンズンという突き上げる路面感覚は良くも悪くも、いかにもMINIっぽい。トータルバランスは確実にミッドモードが上だが、タイトな山坂道ではときおりマイルドにすぎるシーンもあったので、スポーツモードの存在意義もゼロではない。
しかし、ミッドモードの完成度には本当に感心する。バネ下の動きは滑らかで、上屋はあくまで常にフラット姿勢をキープするのに、動きは俊敏。それと同時にステアリング反応は急激なものではなく、カーブで緩やかに丸い走行ラインを描きやすくなった。
さらに、高速での直進性やスロットルオフしたときの“転がり”も、マイチェン前より良くなったように感じたのは、試乗車が履いていた「ピレリ・チントゥラートP7」タイヤや、フロントの“エアカーテン”効果かもしれない。フロントバンパーから取り入れた空気をホイールハウス内部に導いて空気抵抗を減らすエアカーテンは今やめずらしいものでもなく、マイチェン前のクロスオーバーにも備わっていた。しかし、新しいフロントバンパーでは、両端の縦型インテークがさらに大きく、そしていかにも効率が高そうな造形になっている。
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アダプティブサスは選びたい
もっとも、シャシーや車体にまつわる細かい改良点についての明確なアナウンスはない。しかし、デビュー当初と比較すると“熟成感”がただようのは間違いない。繰り返しになるが、アダプティブサスペンションを備えた試乗車のアシ(の、とくにミッドモード)は白眉のデキといいたい。
現時点でアダプティブサスペンション非装着車の経験はないので断言はしづらいが、これだけの味わいで7万9000円という単体オプション価格は、素直にコストパフォーマンスが高いと思う。予算が許すならば、個人的にはぜひ追加しておきたい。
まあ、本体価格510万円、今回の試乗車のようなほぼフルトッピング状態だと合計600万円超、しかも全幅1.8mオーバーで、MINIかよ……と、お約束のツッコミを入れたくなる気持ちは分からなくはない。とはいえ、現行MINIクロスオーバーは骨格設計から完全なCセグメントである。欧州の高級CセグメントSUVにして、しかも高出力クリーンディーゼルと4WDを組み合わせたトップグレードならば、この価格も不当とまではいえないだろう。
いずれにしても、これがMINIかよ、CセグメントSUVならMINI以外にもいっぱいあるのに……とは、しょせん門外漢の言い分である。MINIのある世界に心酔して、あの重いパワステでないと我慢できなくなっているMINI体質の皆さんは、MINIであることが大前提で、家族構成や趣味に合わせたMINIがほしいのだ。ちなみに、クロスオーバーは、MINIのグローバル販売の約30%を占めるのだという。もはや完全な主力商品だ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
MINIクーパーSDクロスオーバーALL4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4315×1820×1595mm
ホイールベース:2670mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190PS(140kW)/4000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/50R18 99W/(後)225/50R18 99W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:18.8km/リッター(JC08モード)/15.7km/リッター(WLTCモード)
価格:510万円/テスト車=623万8000円
オプション装備:ボディーカラー<セージグリーンメタリック>(8万円)/スポーツシート<レザー/チェスター モルトブラウン>(0円)/PEPPERパッケージ<リアビューカメラ+パーキングアシスト+フロント&リアパーキングディスタンスコントロール>(8万6000円)/ALL4トリムパッケージ(42万6000円)/デジタルパッケージプラス<マルチディスプレイメーターパネル+ヘッドアップディスプレイ+MINIドライバーサポートデスク有効期間3年間+スマートフォンインテグレーション+ワイヤレスパッケージ>(14万1000円)/18インチアロイホイール<ピンスポーク ブラック>(1万5000円)/アダプティブサスペンション(7万9000円)/ピアノブラックエクステリア(4万1000円)/アラームシステム(5万7000円)/ブラック ボンネットストライプ(0円)/ブラック ルーフ&ミラーキャップ(0円)/ヘッドライナーアンスラサイト(3万4000円)/MINI Yoursインテリアスタイル シェ―テッドシルバーイルミネーテッド(3万5000円)/ピクニックベンチ(1万8000円)/harman/kardon製Hi-Fiラウドスピーカーシステム(12万6000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:596km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:375.6km
使用燃料:27.1リッター(軽油)
参考燃費:13.8km/リッター(満タン法)/15.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。