日産ノート【開発者インタビュー】
「毎日使える道具」を目指して 2012.12.21 試乗記 <開発者インタビュー>水口美絵さん
日産自動車株式会社
チーフ・プロダクト・スペシャリスト
2012年9月の発売以来、好調なセールスが伝えられる2代目「日産ノート」。開発を取りまとめた水口美絵チーフ・プロダクト・スペシャリストにお話をうかがった。
「燃費」と「快適」がキーワード
2代目「ノート」は、国内では先代「ノート」に加えて「ティーダ」のマーケットをも引き継ぐ大役が与えられ、また、世界戦略車として、従来の欧州に加え北米でも販売される。どのようなコンセプトで企画されたのだろうか?
ノートを開発するにあたって、どうしてもやりたかったのは、日本でいうと燃費、欧州だとCO2、その値をクラストップにすること。今回使った新しいVプラットフォームは、「マーチ」で2450mm、セダンボディーのモデルでは2600mmのホイールベースになります。ノートで後者を使うことにした際、「車両の軽量化を考えるなら、どうして短い方にしないの?」というハナシもありました。燃費をよくしたい。それはお客さまのためになる。美しいことを言うと、地球環境にもいい。だからといって「狭い」のでは、お客さまにとって「快適」とはいえません。
流麗なデザインと広さの両立を図った2代目ノート。インタビューは、「ティアナ」と同等の広さを誇るリアシートで行われている。
先に中国に出している「サニー」は、とにかく立派に、大きく見えるようにしています。一方、ノートは先進国にお届けすると決まったので、実際の寸法はタップリあるけれど、外からはむしろコンパクトに見えるように、「快活」なイメージが損なわれないようにまとめました。
――先代ノートはユーティリティーを高めつつ、バランスよくまとめられていたと思います。
ノートが狙っているのは、ハッチバックとMPV(ミニバン)の中間です。先代はワゴン的な、合理的なよさがエクステリアに出ていました。モデルチェンジにあたって、あまりMPVに近づけると、海外マーケットでは「商用車っぽい」と言われちゃう。今回は、もう少しハッチバック的な元気のいいデザインを採り、性能面でもスポーティーな方向にシフトして、お客さまの裾野を広げようとしています。
“高くない”のは大事
新しいノートは、ボディー構造を根本から見直すことで、旧型より約70kg軽くなった。エンジンは、4気筒から3気筒へ。自然吸気の1.2リッター直3と、そのスーパーチャージャー版が用意される。気になる燃費は、後者を積んだ「S DIG-S」が、25.2km/リッターである。
――3気筒エンジンにスーパーチャージャーを付けたのは、ミラーサイクルにしたがゆえの、トルクの細さをカバーするためですか?
そうです。過給機に関して言うと、フォルクスワーゲンさんはターボでやっていますけど、うちはスーパーチャージャーで、滑らかな、変動の少ない過給を目指しました。エンジンそのものの特性もあると思いますが、わりと開発初期からスーパーチャージャーにしようと決まっていました。
――スーパーチャージャーは、踏み始めから駆動されるから合理的ですね。ハイブリッドは考えなかったのですか?
検討はしました。例えば「『セレナ』のS-HYBRID(スマートシンプルハイブリッド)は使えないのか?」とか。ただノートの場合、考え方として、お客さまに高いものを提供する前に、“お買い得”というと変ですけど、「キチンと手が届くクルマにしたい」というのがありました。
――なるほど。
「私が“女子”だから、なのかもしれませんが」
と言って日産初となる女性開発責任者はちょっと笑うと、言葉を続けた。
20代のころは、けっこう派手にクルマにお金をつぎ込んだりしたんですけど、実際に日常的に使うようになると……。
今、自宅から厚木のテクニカルセンターまで、毎日片道40kmをクルマで通勤しています。カッコいいクルマに乗っていると、それはジマンなんですけど、でも、道具として使うとなると、正直あまりお金をかけたくない。ノートはお客さまの生活をサポートする道具としての位置付けで作ってきたので、コストのかかるソリューションはいらない。このクラスでこれだけ軽量化できたのだから、(「シーマ」や「フーガ」のように)「パワートレインは2個いらないでしょ」というのが、ハイブリッドを使わなかった理由です。ハイブリッド化でクルマの値段が高くなるのだったら、ほかのものにお金をかけたい、という思いがありました。
さりげなく便利なクルマ
新型ノートは、「毎日の暮らしの道具」となる新しいベーシックカーを目指して開発された。「毎日乗って便利に使える、毎日乗って楽しめるクルマ」がコンセプトだ。
――日本でのライバル車は何ですか?
間違いなくホンダの「フィット」ですね。リスペクトを込めて、「すごくいいクルマ」と言いたい。初代フィットが出たときには、「何するんだ、ホンダ!」と思いました。
――フィットは、センタータンクレイアウトと、豊富なシートアレンジが特徴です。ノートはボディーがひとまわり大きいですが、シートアレンジは地味ですね。
フィットを批判するわけではないんですが、毎日使わないものはいらないんです。ディーラーの人からは、「どうしてウチのはシートがパタパタしないの」とか「ティーダに付いていた(リアシートの)スライドがないじゃない」と言われていますが……。でも、「シートスライド、毎日使う?」ということです。
――販売店でのアピール度は高いけれど、実際には特別な機会にしか使わない、と。
例えばアラウンドビューモニターなんかは、毎日使えますよ。一回使うと、もう手放せない。駐車時のほか、左側のブラインドエリアの確認にも利用できる。側溝ギリギリまで寄せなきゃいけないときに心強いし、子どもの三輪車を見落とすなんてことも避けられます。
ノートの想定ユーザーは、「2歳の子どもがいる32歳の夫婦」。「Value for Moneyは大事」「衝動買いは絶対にしない!」との設定だ。カタログアピールではない、本当に使える機能を見極められる人たち、ということだろう。
後席のドアは、85度まで開くんです。開発中に部下にベビーが生まれて、「子どもをクルマに乗せるときや、ベビーシートを取り付けるのにドアが大きく開くと便利」という提案があって、採用しました。ラゲッジルームでなくて、後席に物を積むときも便利ですね。シートを倒したり、積む物を無理に斜めにしないでも、スッと入ります。
新しいノートは、あくまで普段使い重視。さりげなく便利で、何気なく燃費がいい。選ぶ側の、消費者の“賢さ”が試されるクルマでもあるようだ。
(文=青木禎之/写真=DA<人物>、webCG<車両>)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.1 「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。
-
MINIカントリーマンD(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.30 大きなボディーと伝統の名称復活に違和感を覚えつつも、モダンで機能的なファミリーカーとしてみればその実力は申し分ない「MINIカントリーマン」。ラインナップでひときわ注目されるディーゼルエンジン搭載モデルに試乗し、人気の秘密を探った。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.26 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。
-
NEW
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】
2025.10.4試乗記ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。 -
NEW
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た
2025.10.3エディターから一言頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。 -
NEW
ブリヂストンの交通安全啓発イベント「ファミリー交通安全パーク」の会場から
2025.10.3画像・写真ブリヂストンが2025年9月27日、千葉県内のショッピングモールで、交通安全を啓発するイベント「ファミリー交通安全パーク」を開催した。多様な催しでオープン直後からにぎわいをみせた、同イベントの様子を写真で紹介する。 -
「eビターラ」の発表会で技術統括を直撃! スズキが考えるSDVの機能と未来
2025.10.3デイリーコラムスズキ初の量産電気自動車で、SDVの第1号でもある「eビターラ」がいよいよ登場。彼らは、アフォーダブルで「ちょうどいい」ことを是とする「SDVライト」で、どんな機能を実現しようとしているのか? 発表会の会場で、加藤勝弘技術統括に話を聞いた。 -
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す
2025.10.3エディターから一言2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX編
2025.10.2webCG Movies山野哲也が今回試乗したのは「スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX」。ブランド初となるフルハイブリッド搭載モデルの走りを、スバルをよく知るレーシングドライバーはどう評価するのか?