日産ノートNISMO S(FF/5MT)
惹きつけられるものがある 2015.01.13 試乗記 日産の5ドアコンパクトカー「ノート」に、「NISMO」の名を持つスポーツモデルが登場。今となっては珍しい、テンロクエンジンを全開にして走る気持ちよさに、現代の国産車がなくしてしまった「走りの楽しさ」を見た。今や希少なテンロク+5MT
現行モデルになって省燃費エンジン+CVTという組み合わせのみの、いわゆる“フツーのクルマ”となっていた日産ノートに、いきなりホットモデルが加わった。それが今回紹介する「ノートNISMO」である。これは日産のプレミアムスポーツブランドとなったNISMOシリーズの5番目のモデルに当たり、その先達(せんだつ)には「GT-R」「フェアレディZ」「ジューク」「マーチ」がいる。
ちなみに「S」ではないただの「ノートNISMO」もラインナップされているが、こちらはエンジンが標準車と同じ1.2リッター直列3気筒スーパーチャージャー(98ps)で、トランスミッションもCVT。専用タイヤである「ブリヂストン・ポテンザRE080」の装着に合わせて前後のトンネルステーを増設し、ボディー剛性を高めるなど細かいチューニングがなされてはいるが、走りの楽しさを問うならば、やはり5段MTの「NISMO S」が主役となる。
エンジンはいまどき珍しい1.6リッター自然吸気(NA)の「HR16DE」。これは旧ノートの5段MT車に搭載されたHR16DEと型式こそ同じだが、デュアルインジェクター仕様になるなど新世代エンジンとしての磨きがかけられており、輸出用のノートやジューク、「ティーダ」に搭載されている最新のユニットである。
NISMO Sはさらにそこから吸気システム(エアクリーナーおよびインテークマニフォールド)を専用パーツとして新規に起こし、ピストンおよびカムシャフトまでをも変更するメカチューンを施した。また専用マフラーをおごり、最後はECUでこれらを統合制御。その結果、NAにして140ps/6400rpmという最高出力と、16.6kgm/4800rpmという最大トルクを得ている。
またシャシー面では、専用のサスペンション&スタビライザーと205/45R17にまでサイズアップした「ブリヂストン・ポテンザS007」に合わせて、前述したトンネルステーに加え、前後のサスペンションメンバーステ-、リアクロスバー、リアアンダーフロアVバーを追加した。そして、リアのブレーキもちゃっかりディスク化している。
これらのファインチューンを施したのは、日産の技術集団であるオーテックだ。「NISMOなのにオーテック?」と思うかもしれないが、現状では市販車の開発を担うのがオーテックであり、SUPER GTをはじめとしたモータースポーツ活動を担うのがNISMO。市販車のブランドとしては、レースイメージを重視してのことだろう、「NISMO」で名称を統一しているという具合である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
爽快なエンジン、懐深いハンドリング
では実際に走らせてみよう。
ボア×ストロークは78×83.6mmと、燃費性能を考慮したいまどきのロングストロークタイプ。レッドゾーンが6500rpmと低いこともあるが、適度に高圧縮化されたエンジンは、それを感じさせないほどスカッと回る。ギア比を適度にクロスさせているのも効いているのだろう。ベタッとアクセルを踏み込んでいる限りは、街中でのスタートダッシュも鋭く、2、3速が主体となるワインディングロードもすこぶる爽快。“カーン!”とまではいかないが、“クーン!”とうなるサウンドとそのバイブレーションは、クルマ好きにはたまらないものがある。
ただ高速走行になると、5速の0.891という中途半端なギア比が煩わしかった。ダウンサイジングターボのような、アクセル踏みはじめの瞬発力はないから、5速で追い越しを掛けようとしてもトルクは細いし、これをトルクバンドに入れようとすると最低4000rpmは回さねばならず、結構うるさい。6速があればいいだけの話なのだが。
そして自慢のシャシーは、確かにしっかりしていた。
標準車よりも車高は低められているが、ストローク量を比較的多めに取ったサスペンションは、その伸び/縮みのダンピングレードがおおよそ均等に設定されており、ゆっくりとストロークさせていく。だから車両の姿勢変化や、タイヤのグリップしている様子がわかりやすく、高速コーナーでも安心して高い速度で入っていくことができる。
タイトなコーナーでは、ブレーキングで作り出した強い前荷重をダンパーがジワッと受け止めてくれる。タイヤが急激につぶれず、穏やかに接地面積を拡大してくれるから、ハンドルを切れば切っただけ、素直に曲がっていけるのだ。ただしエンジンマッピングの関係か、コーナーの立ち上がりではアクセルにアシを乗せただけでスロットルバタフライが大きく開く傾向があり、微妙な操作ができないのは残念だった。
リアタイヤはしっかりと大地を捉えているから、タックインで姿勢を作り出すような運転はできない。ノーズもパキパキと入っていくわけではない。しかしそのロールスピードは人間の感覚にリニアだから、それを“スローモーで退屈だ”と感じはしないだろう。なかなか懐深いハンドリングである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「エアロなし」仕様もぜひ
ただひとつだけ、ダンパーセッティングに詰めの甘さがあった。縮み(バンプ)側におけるハイスピード領域の減衰力が弱く、強い入力があると車体が踊らされてしまうのだ。路面が荒れていたり、起伏が激しかったりすると、タイヤの上下動が車体を押し上げて、直進時でもピョコピョコと挙動が不安定になる。バンプ側の減衰力を上げて乗り心地を悪くするのが嫌ならならば、バンプラバーで工夫するなど、他の方法で対応する必要がある。ちなみにかつての「マーチ12SR」や「フェアレディZ バージョンNISMO」などは、このふらつきを空力で抑え込んでいた。ノートNISMOもそのいかついエアロパーツは空力を意識したというが、正直言ってダウンフォースを意識できるほどではなかった。
ノートNISMO Sの走りを例えるならば、とびきりうまいハムカツを、ホフホフとほおばっているような気分だった。
素直なハンドリングに、元気なエンジン。決して極上のステーキではないけれど(日産はそのつもりかもしれないが)、そこには現代の国産車が失った、素朴ながらもホットな“踏み切れる楽しさ”があった。
「ノートにNISMOバージョンが必要なの?」と問われたら、正直答えに窮する。世代的な好みかもしれないが、子供っぽい外観にもかなりの抵抗感がある。
それでも、この気持ちいい走りに、そしてオーテックの実直なクルマ造りには惹(ひ)きつけられた。テンロク・ホットハッチの筆頭であるスズキの「スイフトスポーツ」と真っ向勝負させてみたい。その価格差は約50万円強。メカチューンの内容からすれば割安だが……やっぱりあのエアロはいらないなぁ。
(文=山田弘樹/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
日産ノートNISMO S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1695×1515mm
ホイールベース:2600mm
車重:1080kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5MT
最高出力:140ps(103kW)/6400rpm
最大トルク:16.6kgm(163Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ブリヂストン・ポテンザS007)
燃費:--
価格:224万4240円/テスト車=283万2712円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール>(3万7800円)/NISMO専用チューニング レカロ製スポーツシート<前席>(27万円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルナビゲーションMP314D-M<通信アダプター標準搭載>(19万8000円)/ETC車載器 ナビゲーション連動モデルHM12-D(2万5920円)/フロアマット<NISMOバージョン>(2万9700円)/マルチラゲッジボード(2万7052円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1664km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:549.4km
使用燃料:43.8リッター
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)
拡大 |

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】 2026.8.15 英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
NEW
FCEVで世界一の販売台数 「ヒョンデ・ネッソ」にみる水素の可能性と普及へのカギ
2026.8.20デイリーコラムフルモデルチェンジしたヒョンデの燃料電池車(FCEV)「ネッソ」は、1014km(参考値)の一充填走行距離を実現したという。進化したゼロエミッションの走りを味わいながら、ヒョンデが目指す水素社会の可能性とFCEVの未来について考えてみた。 -
NEW
第292回:350SEが運ぶのは幸福か、それとも究極の不幸か…… 『星の時 4K』
2026.8.20読んでますカー、観てますカーブラジルの女性小説家クラリッセ・リスペクトルが1977年に発表した小説を、女性監督スザーナ・アマラウが1985年に映画化した伝説の作品。「メルセデス・ベンツ350SE」がもたらす運命の瞬間を謎めいた手つきで描き出す。 -
NEW
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中
2026.8.20マッキナ あらモーダ!イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。 -
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】
2026.8.19試乗記マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。 -
第125回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(後編) ―古豪復活と新勢力の出現で進むミニバンデザインの多様化―
2026.8.19カーデザイン曼荼羅帰ってきたキング・オブ・ミニバンこと新型「日産エルグランド」に、メルセデス・ベンツが世に問うた乗用MPVの「VLE」。古豪の復活とニューモデルの登場で、高級ミニバンのトレンドはどう変わるのか? オラオラ系が幅を利かすミニバンデザインの未来を考えた。 -
新型「キックス」がスマッシュヒットの日産 次なる一手のコンパクトミニバンとはどんなクルマか?
2026.8.19デイリーコラム新型「キックス」が好評の日産が、次はコンパクトミニバンの発売をプランしているという。日産の国内ラインナップには(なぜか)なかったジャンルのモデルだが、果たしてどんなクルマになるのだろうか。「シエンタ」「フリード」といった強力なライバルに、どのような武器を手に挑むのだろうか。





























