マゼラーティ・クーペ“カンビオコルサ”(6MT)【試乗記】
ポセイドンの不安 2002.08.23 試乗記 マゼラーティ・クーペ“カンビオコルサ”(6MT) ……1195.0万円 「フェラーリ」傘下に入ったかつての好敵手「マゼラーティ」が送り出したニューマシン、その名も「マゼラーティ・クーペ」。ジウジアーロの手になるエレガントなボディに、新開発4.2リッターV8エンジンを積む。日本上陸を果たした6段のセミオートマモデル“カンビオコルサ”に、webCG記者が乗った。駐車場にて
「マゼラーティ・クーペに乗りませんか?」とNAVI副編集長。
−−よろこんで。
「ただ、広報車の都合で7月X日にしか借りられないんです」
−−前日までイギリスにいるんだけど。
「でも、当日は日本にいるわけでしょう?」
−−そりゃ、まァ……。
「じゃあ、お願いしましたから」
ガッテン承知のスケ。誰がマゼラーティのニューマシンに乗る機会を逃すものか。さっそくコーンズに電話をしてスケジュールの変更を試みるが、「あいにく日程が埋まっておりまして……。ご理解ください」と慇懃なお断り。
ご理解しました。
夕方の成田から夜の編集部に戻ると、タワーパーキングのなかに銀色のマゼラーティ・クーペが停まっていた。今宵一夜は僕のモノ。ドアを開けると甘く革が匂って、にわかドライバーを悦ばせる。
シートは立体的で、いかにもつくりがいい。レザーの張りは強く、しかしクッションが詰まっているので無粋な硬さはない。座面は長く、背もたれのサイドサーポートは見た目よりよほど張り出している。大袈裟に言うと、背骨を左右から幅狭く挟む感じ。乗員には、スラリとした8頭身のスタイルが想定されているに違いない。運転席、助手席とも、電動でポジションを調整可能だ。
ライトスイッチは? ダッシュボード左下にダイヤルがあった。左手を伸ばさないと届かない。だから何であろう?
蛍光灯の弱い光に照らされた、駐車パレットに載ったクルマのなかでニンマリする。
ドコへ行こう? ドコにも行かなくていいかもしれない。
マーケットドリブン
マゼラーティ・クーペは、2002年のデトロイトショーでデビューした2ドアクーペ、にして“フル4シーター”(!!)を謳うトライデントの野心作である。一見、「3200GT」のパワープラントを、3.2リッターV8ビトゥルボ(ツインターボ)から、フェラーリの息がかかった4.2リッターV8に換装しただけのようだが、「それは違う」とマゼラーティ(と親方カバリーノランパンテ)は主張する。公式には、先立つ2001年フランクフルトショーで登場した「マゼラーティ・スパイダー」のクーペ版ということになっている。もちろん、リアシートをもつので、ホイールベースはオープンモデルより220mm延長されて(ということは3200GTと同寸になるわけだが)2660mmになった。
ジウジアーロ率いるイタルデザインの手になるボディは、全長×全幅×全高=4525×1822×1305mm。シンプルだが、名門にふさわしいクラシカルな雰囲気をもつ。3200GTから「クーペ」になるにあたって、ボンネットのエアアウトレットが廃されたのも、全体のエレガントなフォルムにふさわしい。また、タイヤサイズは不変ながら、よりシャープに、繊細になった意匠のアロイホイールが採用された。テイルランプは、細長いLEDを用いた特徴的な「ハの字型」から、平凡な台形に変更された。北米市場における市場調査で不調だったためだという。
マゼラーティは、スパイダー&クーペの姉妹車で13年ぶりのアメリカンマーケットへの再参入を果たした。SUV全盛とはいえ、依然、彼の地は一大「スポーツカー&スポーティカー」市場である。そこでの販売なしに名門ブランドの存続は難しい、と判断されたのだろう。だから、リアのランプカバーひとつに拘泥していられない。
オープンモデルからのリリース、ニューV8エンジンの投入、そしてライバルのと比して“相対的に”手頃な価格……。マーケットドリブンな新生マゼラーティである。
鷹揚な設定
スパイダー同様、クーペのステアリングホイールも、手動ながら、チルト(上下)、テレスコピック(前後)機能が付く。(お金持ちなら)体型を問わず、好みのドライビングポジションをとれます、ということだ。ただし、上半身を前屈して前方奥のレバーを引くと、ステアリングホイールとコラムがズシリと重い。間違っても、運転中に調整しようなどと考えないように。
右手側、センターコンソール下部には、シフターの変わりに、小さなT字型のレバーが生える。いわずと知れた跳ね馬の電子制御マニュアルトランスミッション「フェラーリF1」で、トライデントマークが付く場合「カンビオコルサ」と名称が変わる。足もとのペダルは、スロットルとブレーキ、2本のみで、見えないクラッチはロボットが踏んでくれる。ギアチェンジは、シフターではなく、ステアリングコラムから左右に生えるパドルでもって行う。右がアップ、左がダウン、両方引くとニュートラル。パドルの裏にアルカンタラが貼られ、アルミ製のフェラーリと、触感上の差別化が図られる。
「SNOW」「AUTO」、2種類のモードをもつのはフェラーリF1同様で、しかし、「フェラーリ360モデナ」や「575Mマラネロ」では、オートマチックモードにしていても、パドルを操作したとたん、マニュアルモードに切り替わって“戦闘態勢”を整えるのに対し、マゼラーティのそれは、ギアは変わるが、そのままオートマチックモードに保たれる。鷹揚な、グランドツアラー的な設定なのだ。
なお、マゼラーティ・クーペには、“レーシングギア”ことカンビオコルサほか、コンペンショナルな、つまりクラッチペダルをもつ3ペダル式の6MTモデルも用意される。価格は、カンビオコルサの1195.0万円より45.0万円お安い1150.0万円である。
薄く硬い殻
撮影を兼ねて、首都高速道路に上がる。
フロントに搭載されるのは、チェーン駆動4カム32バルブのヘッドメカニズムをもつ4.2リッターV8。バンク角は90度。吸気側に可変バルブタイミング機構を備えたオールアルミエンジンで、NA(自然吸気)ながら、3200GTのビトゥルボ(ツインターボ)ユニットを20ps上まわる390ps/7000rpmの最高出力と、わずかに少ない46.0kgm/4500rpmの最大トルクを発生する。
スロットルペダルとは、電気的に結びつけられるフライ・バイ・ワイヤ方式を採る。右足の踏力をやんわり増すだけで、三ツ又鉾のクーペはモリモリ、といった感じで流麗なボディを運ぶ。ターボ時代の、後脚で大地をひっかきながら、といった暴力的な加速は影をひそめたが、それでも乱暴なペダル操作ではホイールスピンも辞さないし、一方、スムーズな速度上昇に気を許していると、アッと驚く速度に達していたりするから始末に負えない。新しい8気筒は、じゅうぶんなトルクをもつので、通常はドスの利いた低音でうなるだけ。しかしカンビオコルサをフルに活かしたマニュアルドライブに移ると、カーブの手前でシフトダウンを繰り返すたびに、嬌声をあげる。ガラリと性格が変化する。
左手にライトアップされた東京タワーが見える。この先、右に行くと、羽田に向かう直線的なコースが取れる。が、浜崎橋ジャンクションで、ステアリングを左に切った。
アレッサンドロ・デトマソ以来のビトゥルボ系モデルでは、ときに心細く感じるほど軽かったステアリングフィールは、新型ではパワーアシストがステディになり、路面の状況をよりストレートに伝え、シャープになった。ハンドリングもいい。大柄なボディをもちながら、トリッキーな“曲がり”が続く首都高環状線でも臆することなく運転できる。6段のF1ギアボックスはリアのデファレンシャルと一体化されたトランスアクスル方式を採り、前後の重量バランスに配慮される。空車時で52:48。絶対的なウェイトも、3200GT(AT)の1640kgから1580kgと、ほぼ大人ひとり分のシェイプアップを果たした。
そのうえ、オープン版では舗装状態によって露呈したボディのヤワさが、クローズドボディのクーペでは、ない。前「235/40ZR18」、後「265/35ZR18」というスポーティなタイヤを履くから、ターマックの継ぎ目ではそれなりの入力があるけれど、バネ下をもてあますことなく、前後ダブルウィッシュボーンのサスペンションでしなやかに吸収し、フロアがしっかりとハーシュを受け止める。いわゆる高性能スポーツモデルの走りである。
マゼラーティ・クーぺ「カンビオコルサ」のステアリングホイールを握っていると、ドライバーは、あたかも薄く硬い殻で包まれているかの感覚を得る。カメラカーと、前行くクルマのストップランプに注意しながら、「この感覚、何かに似ている」と考えて、すぐに思い当たった。フェラーリの大型モデル、「456GTA」や「550マラネロ」のそれだ。
イタリアはモデナに新たに建設された「ヴィーレ・チロ・メノッティ」工場でつくられるニューマゼラーティは、抜群の品質感とドライブフィールをほこる。三ツ又のオーナーとなるポセイドンの心配は、おそらくクルマの耐久性や信頼性より(この2つも無視しえないが)、“デキのいい”マゼラーティが、“デキのいい”フェラーリのディフュージョンラインにならないか、ということだろう。
(文=webCGアオキ/写真=林渓泉/2002年8月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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