メルセデス・ベンツSLS AMGロードスター(FR/7AT)【試乗記】
スーパー“ゴージャス”スポーツカー 2012.06.13 試乗記 メルセデス・ベンツSLS AMGロードスター(FR/7AT)……2977万円
571psのパワーを誇るメルセデス・ベンツのスーパースポーツ「SLS AMG」。そのオープンバージョン「ロードスター」の走りを、ワインディングロードで試した。
その名も語る、孤高のスタイル
2009年にクーペモデルが発表された当初から、誰もが脳裏にイメージをしたであろうオープンボディーの「SLS AMG」――2011年のフランクフルトモーターショーでデビューを飾ったそのロードスターバージョンが、今、目の前にある。
このモデルがカブリオレでもコンバーチブルでもなく、あえてよりストイックなオープンカーのイメージを放つ「ロードスター」を名乗った理由は、そのたたずまいを見れば一目瞭然だ。
「マグノモンツァグレー」なる、ちょっと怪しい(?)ステルス機のようなマット色のボディーに、ベージュ色のトップを組み合わせた今回のテストカーは、端的に言って、ルーフを開いた状態のほうが自然で、かつスタイリッシュに見える。そこには、昨今流行のクーペカブリオレが追い求めるような、「一粒で二度おいしい」といった姑息(こそく)な考え方など、みじんも感じられない。
さらに言うなら、ルームミラー越しの後方視界も、ルーフを閉じたときは、かなり制限される。クローズドの状態では、ミラーに映る面積の半分をソフトトップが覆い隠してしまうからだ。
そう、このモデルのデザインには、「クローズド状態でのルックスや使い勝手は、ガルウイングが売りのクーペに任せておけ」という潔さがあふれている。際立って長いノーズが大いに強調され、“孤高のプロポーション”が描き出されるオープン状態こそ、このモデルならではの姿なのだ。
2590万円の価格は、ガルウイングが特徴のクーペに比べ、160万円のプラス。「それはまぁ、コンパクトカーが楽に買えてしまうほどの差ではあるけれど、“元値”の割合からすれば大した事はないのか……」という思いもよぎるもの。
もっとも、前述のボディーカラー(50万円)、カーボンセラミックブレーキ(140万円)、バング&オルフセンのオーディオ(90万円)……と、気前良くオプションアイテムを追加したこの個体の総額は、ほぼ3000万円。その差額分だけで「Cクラス セダン」のベーシックモデルが買えてしまうという計算になるわけだが。
ドライブフィールも個性的
数種類の中から「サンド」の色が選択されたテスト車の、フルレザー仕様のインテリアへと身を投じる。「ガルウイング式のクーペに比べると、頭をぶつける心配もなく乗降性ははるかに優れる」というのは、もちろんルーフを開いた“青天井”状態で乗り込んだ際に限られる感想。ヒップポイントが極端に低いシートに腰を下ろして脚を前方へと投げ出すスタンスは、まさに古典的スポーツカーのそれという印象だ。
目の前に伸びるノーズは、「通常のクルマの2倍近くはある」といった心構えでいないと、前方から壁に向かって駐車をする場合などにフロントまわりを傷付けかねない。1.9mを超える全幅やこのモデルならではの内輪差などのために、街乗りシーンではそれなりに気を使う必要がある事は否めない。
一方で、アルミスペースフレーム式のボディー骨格や、トップ部分には3層のファブリック地を用いつつ構造体にマグネシウムやアルミニウムを採り入れたという軽量ソフトトップ、マグネシウム製バックレストを使用したシートの採用などにより、車両重量は、クーペに比べわずか30kg増の1740kg(AMGカーボンセラミックブレーキ装着車は1720kg)におさまる。なるほど全般的な動きは、このサイズのクルマとしては異例に軽快である。
小径のステアリングホイールをわずかに操作しただけで、長いノーズが思いのほか俊敏に動くさまは、その中に6.2リッターという大排気量のV8ユニットが収まっていることが、にわかには信じられないほどだ。
オプション設定となる電子制御式の「AMG RIDE CONTROL スポーツサスペンション」が選択されていたこともあってか、低い速度域での街乗りシーンでも、快適性はなかなかのもの。補修の跡やマンホールが連続する荒れた路面でも、フロント265/35の19インチ、リア295/30の20インチというタイヤスペックから連想させられるほどの直接的な衝撃は伝わってこない。
ただし、そうした場面におけるステアリングコラムへの振動は、クーペ版では感じられなかった。その差はわずかとはいえ、クーペとオープンでは、やはり違いがあるということだ。
絶品のエンジンに魅力が詰まる
そんなSLS AMGロードスターが、持てるキャラクターを存分に味わわせてくれるようになるのは、やはり“スポーツカーロード”たるワインディングセッションに差し掛かってからだ。
迫力の重低音を響かせつつそんなロケーションを駆け抜ける姿こそ、はた目にもこのモデルが最も光り輝く場面であろうことは間違いない。
昨今では、「63」の名の付くAMG各車の心臓は、新開発された効率重視の5.5リッターターボ付きユニットへと次々置き換えられつつあるが、SLS AMGにより似合うのは、M159型と呼ばれるこの6.2リッターの高回転・高出力型ユニットの方である。
エンジンに火が入った瞬間から迫力の咆哮(ほうこう)をとどろかせ、コースティングもしくはシフトダウン時の“回転合わせ”が行われる場面では「パラパラパラ……」とレーシングユニットのアフターバーンをほうふつさせる音色を奏でるこの心臓こそ、クーペも含めたSLS AMGというモデルの、魅力のひとつであるのは確か。
率直に言って、前出のターボ付きエンジンがこちらにも搭載されるとなったら……ことこのモデルに限っては、走りの魅力が低下するのは避けられまいと思う。
571psに66.3kgmというアウトプットを放つ心臓ゆえ、ウエット路面ともなればまたハナシは別という事になりそうだが、幸いにして晴天に恵まれたテスト当日は、アクセルペダルを相当に深く踏み込んでも、トラクション能力に不足を感じる事はなかった。
アクセルオンで低く腰を沈ませ、それによって増した後二輪のトラクションを生かしながら大地を蹴って行く、という一連の動作を余すところなく味わえるのは、よくできたFRレイアウトの持ち主を操る際の醍醐味(だいごみ)そのものだ。
そんなアップテンポな走りに飽きたら、自らのクールダウンの意味も込めて、遮音性に優れたルーフを閉じる。そして、90万円のオーディオが奏でるリアリティーに富んだサウンドに耳を傾ける――なるほど、これこそがスーパー・ゴージャスでスーパー・ハイパフォーマンスなモデルだけがもたらす、真に至福のひと時というものなのだろう。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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