第305回:「ウニモグ」には縫いぐるみがよく似合う!?
外国人さん、いらっしゃ~い!
2013.07.19
マッキナ あらモーダ!
ウロウロするクルマが増える季節
イタリアは、初夏の天候不順という長いトンネルから抜けて、ようやく夏らしい天気になってきた。そうした好天のもと、旧市街が世界遺産に指定されているわが街シエナでにわかに増えているのは、外国のナンバープレート(以下ナンバー)を掲げたクルマたちである。
ワインで有名なキャンティ・クラシコ地方にも外国人がたくさん訪れる。こちらは昼間対向車線をすれ違うクルマの2台に1台が外国ナンバーであるといってよいくらいだ。
そうしたクルマが増えると、ちょっと危なっかしいのも事実である。ロータリーの中でウロウロする外国人観光客のクルマが増えるからだ。
しかし、考えてみれば、イタリア名物の難解な交通標識が原因である。それを忘れて怒るのは、「初心者ドライバーは、うっとうしい」と、自分もそうであった時代を忘れて文句を言うのと同じ短絡的思考の人間であろう。ボクだってイタリアの他の町に行けば、ウロウロしてみんなに迷惑をかけている。したがって、さまよえる外国ナンバーのクルマは温かい目で見守ることにしている。
片道2300キロの夏休み旅行
以下は、先日シエナの、ある公共駐車場2カ所で、昼間パークしていたクルマたちをボクがウォッチングした結果である。100台調べたので、台数すなわちパーセントと考えていただいてよいことになる。
結果として3台に1台以上が、外国から来たクルマということになった。以下はその詳細である。
・ベルギー:12台(BMW、オペル等)
・オランダ:11台(BMW、アウディ、ルノー、シトロエン、セアト等)
・ドイツ:3台(BMW、アウディ等)
・オーストリア:3台(BMW、シトロエン、シュコダ)
・ポーランド:2台(フォルクスワーゲン、マツダ)
・スイス:1台(ポルシェ)
・デンマーク:1台(トヨタ)
以前はもっとさまざまなブランドを見ることができたが、今やBMWやアウディのシェアが高い。筆者のスイスの知人も、この夏「アウディA3」を買った。やはり国境越えの長距離ツアラーとしては、このあたりに落ち着くようである。
もうひとつ観察していてわかるのは、年によって、多くやってくる国に違いがあるということだ。数年前はデンマークのクルマが多かったのに対して、今年はベルギーが多い、といった具合である。観光業界に携わるイタリア人に聞いてみると、「どこの国で観光振興プロモーションが強化されたかによるところが大きい」と、その背景を教えてくれた。
国籍といえば、近年は東欧諸国ナンバーが増えている。中でも最も見かけるようになったのはポーランドのナンバーだ。2004年に欧州連合(EU)入りしたポーランドは、もはやナンバーにもしっかりEUの星マークが入っている。
ボクがイタリアにやってきた17年前、イタリアでポーランドの人といえば、家族を本国に残してやってきて、高齢者家庭でヘルパーとして一生懸命働く出稼ぎ女性のイメージが強かった。
それが今日、ポーランドナンバーのクルマの多くは、バカンス用品が満載だ。時代は刻々と変わっている。
先日はノルウェーナンバーの「アウディA6オールロードクワトロ」を見た。ナンバープレート枠に記されたディーラーの所在地は、オスロ近郊である。グーグルのルート案内で検索すると、デンマーク、ドイツ、スイスを経由して片道2300km以上ある。ぶっ続けで走っても22時間33分かかる。
飛行機もあるのに、なぜそこまでしてクルマで来るのか? その背景にはまず「飛行機そのものが嫌いだから」「飛行機旅行に慣れていない」という人が欧州にはいまだ少なくないことがある。
また、大家族で移動すると、クルマのほうが安上がりな場合も多い。前述のオスロ-シエナも、別のルート検索サイトで調べてみると、通行料+燃料代で日本円にして片道約4万5000円で済む計算だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「ウニモグ」で旅する親子
しかしボクが知る欧州人で、クルマ旅をする家族は、大抵その理由を「旅の途中も面白いから」と答える。休暇がたくさんとれる彼らならではだなぁ、と、うらやましがるのは簡単だが、「目的地に到達することではなく、道筋そのものを楽しむこと」という、いにしえの人々がたびたび語ってきた“旅の本質”を心得ているといえまいか。
ついでにいうと、外国からクルマで来た旅行者の多くは、混雑が少なく、かつ低料金もしくは無料の郊外駐車場をよく知っている。そこから公共交通機関を使ったり、ひたすら歩く歩く。特に山歩きに慣れたスイスやドイツの人は、1キロくらい平気で歩いたりする。これも、旅の途中を楽しむことのできる彼らならではだろう。1センチでも、街中の目的地に近いところに止めたがるイタリア人と対照的である。
このように旅のプロセスを楽しむ知人の例を紹介しよう。ドイツの大学都市ミュンスターに住むフランクさんである。
本業は祖父の代から続く石油小売業だが、もうひとつの顔はメルセデス・ベンツの多目的商用車「ウニモグ」の大ファンである。常に実動状態にある歴代ウニモグ3台のほか、ガレージには数台がレストアを待っている。加えて、以前両親が住んでいた家は、ウニモグのクラブの集会所に提供している。熱い人である。
昨夏のことだ。6歳半のひとり息子ルイス君と、ドイツからコレクションの一台、1970年代の「ウニモグ406」でシエナまでやってくる、という便りを受け取った。いくら強固なウニモグとて、エアコンもない車両で、まさかドイツから1300キロもかけてやって来ないだろうと思っていた。
約束の日、半信半疑で待っていると、街外れの駐車場に、本当にその姿を現した。聞けばアウトバーン/アウトストラーダを使わず、いわゆる下道だけを使ってきたという。宿泊はテント、それもキャンプ場ではなく、適当な野原を見つけては泊まってきたと明かしてくれた。
こう記すと読者諸兄は「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」という往年のハムのCMに出てくるモミアゲをたくわえた脂ぎった父親と、歯をくいしばる子どもを思い起こすだろう。しかし、実際のフランクさんは、3代目経営者らしい穏やかな人である。ルイス君も、完璧にマスターしたほろの上げ下ろしを、あどけない顔でうれしそうに披露してくれた。
彼が乗ってきたウニモグの助手席側の足元には、バスケットに入った無数の縫いぐるみが置かれていた。世界屈指の硬派四駆ウニモグと縫いぐるみ。よく見ればダッシュボードにも、縫いぐるみが並んでいた。
こうして気負わぬからこそ、親子ともども長旅が楽しいのに違いない。
おっと、実はボクにも、子ども時代に遊んでいて、イタリアまで持ってきてしまったカバの縫いぐるみがある。次の国境越え自動車旅行には、枕がわりにヤツも連れて行こうか。国境の抜き打ち検問で説明を求められた場合は、ちと困るが。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第944回:こんな自動車生活は最後かもしれない ―ある修理工場で考えたこと― 2026.1.15 いつもお世話になっている“街のクルマ屋さん”で、「シトロエン・メアリ」をさかなにクルマ談議に花が咲く。そんな生活を楽しめるのも、今が最後かもしれない。クルマを取り巻く環境の変化に感じた一抹の寂しさを、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第943回:スバルとマツダ、イタリアでの意外なステータス感 2026.1.8 日本では、数ある自動車メーカーのひとつといった感覚のスバルとマツダだが、実はイタリアでは、根強いファンを抱える“ひとつ上のブランド”となっていた! 現地在住の大矢アキオが、イタリアにおけるスバルとマツダのブランド力を語る。
-
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況 2025.12.25 長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。
-
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る 2025.12.18 デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達― 2025.12.11 イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。
