第310回:「カメレオン車」も発見! イタリア流・街角ほのぼのドレスアップ車を紹介
2013.08.23 マッキナ あらモーダ!気分を一新
イタリアの景気低迷は、底打ち感が一部で報じられているとはいえ、まだまだトンネルの出口が見えない状態だ。
人々のクルマ買い替えマインドも、なかなか上向かない。そうしたなか先日ある自動車媒体を見たら、「さまざまなパーツやアクセサリーで、気分を一新しよう」という趣旨の特集が組まれていた。
しかし、そんなことを言われなくても、イタリアのドライバーたちは各自ささやかな工夫をしたりドレスアップをしたりして楽しんでいる、というのが今回のお話である。街で見かけた、そうしたクルマたちのスナップ最新版を紹介しよう。
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ヤモリから聖母マリアまで
まずは【写真2】だ。シエナ旧市街に駐車していた初代「フィアット・パンダ」である。濃紺のボディーに、かつての純正アクセサリーと思われる黄色いホイールキャップがいいコントラストを醸し出している。ちょっとした足元のおしゃれである。
次は同じパンダでも2代目だ【写真3】。ナンバーからして地元の人とみた。ボディーには、ヤモリのステッカーが無数に貼られている。
ボクが住むトスカーナでヤモリは、ちょっとした草むらでも必ずいる生物である。東京から移り住んだ当初はかなりビビったが、相手が必ず逃げることを知るにおよびその不安は吹き飛んだ。
このクルマを発見したのは、トスカーナのビーチ。近くの松林にヤモリはたくさんいる。だからボクは、見た瞬間「ずいぶんヤモリに好かれるパンダだなぁ」と思ったものだ。という冗談はともかく、これはファミリーカーだろうか。親子でステッカーを貼っている姿を想像するとほほ笑ましい。
続く【写真4】は前述の初代パンダ同様シエナでよく見かける初代「フォード・フォーカス」である。
ミラーがイタリアのトリコローレ国旗に塗装されている。加えて、ダッシュボードには、フォーカスラリー仕様のミニカーまで貼り付けられている【写真5】。こちらでは“凡庸”とさえいえるポピュラーな車種なだけに、「人とはちょっと違うぜ」という思いが見え隠れする。昔の「ツッパリ」が学生服に竜模様の裏地を付けていたのに共通するマインドといえまいか。
イタリアならではの“宗教系”も健在である。【写真6】は、ティレニア海沿いを走るアウトストラーダでの光景だ。イヴェコの白いトラック「デイリー」の後部ドアに描かれているのは、聖母マリア像である。
自らの交通安全祈願と同時に、後部を走る「フィアット500」にも慈悲のまなざしが感じられる。むちゃな車間詰めをする気は到底起きそうにない。
幻のベネトンF1仕様?
「無意識にドレスアップ」系も、よく目にする。
ミラノで撮影した【写真7】の初代「フィアット・プント」2台は、偶然並んでいたものだ。手前はテールゲートを取り換えたものである。追突されたかバックに失敗したかで破損し、ジャンクヤードで代替品を見つけてきたのだろうか。
いっぽう道の向かい側のプントは、緊急用タイヤを装着しっ放しのものであるが、いずれも意図したかのようなシックなカラーコンビネーションである。
ここ数日での傑作は、近所のスーパー駐車場で遭遇した【写真8】の「フィアット600(セイチェント)」である。やはりテールゲートを交換したものだが、木陰にたたずむその姿からは、1980年代のベネトンのF1マシンを思い出した。F1グランプリのテーマソング、T-SQUAREの「TRUTH」が脳裏で響いていたのは、いうまでもない。
しかしながら今回の大賞は、【写真9】の軽三輪トラック「アペ」に進呈したい。ミラノのポルタ・ジェノヴァ駅前で撮影したものだ。
たくさんのプロダクトデザイナーがアトリエを構えるゾーンゆえ、グラフィティー風ペイントがオーナーによるものか、それとも他者の手によって勝手に施されたものかは定かでないが、後方の壁に完全に溶け込んでいる。おいッ、これってカメレオン、いや2002年の007『ダイ・アナザー・デイ』に登場するボンドカー、消える「アストン・マーティン ヴァンキッシュ」じゃないか? と思わずうなった筆者であった。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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