第67回:日韓合作だから撮れたカーアクション!
『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』
2014.01.16
読んでますカー、観てますカー
日本の原作+韓国の監督
日韓合作映画である。原作は日本の司城志朗の小説で、監督は韓国の新鋭キム・ソンス。主演は大河ドラマ『八重の桜』の山本覚馬役で肉体美を披露し、“マッチョ西島”の異名を得た西島秀俊だ。今回もハードなアクションシーンをこなしている。ほかのキャストも日韓の俳優が混在していて、撮影も両方の国で行われた。その結果、日本映画とも韓国映画とも違う、不思議な情緒をたたえた作品が生まれたのだ。
映画では、日韓の交流は珍しいことではない。2003年の『オールド・ボーイ』は、日本のマンガを原作としてパク・チャヌク監督が映画化したものだった。いわゆる韓流ブーム以降は、双方が相手国の人気作品をリメイクすることが増えた。テレビドラマでは、日本の『花より男子』が韓国でドラマ化され、逆に韓国の『美男ですね』がTBSでリメイクされた。お隣さんなんだから文化の背景もある程度は似ているわけで、移入しやすいのは当然だ。
韓国映画を観ていると、セリフの一部が日本語に聞こえることがある。ほとんど同じ発音の単語がたくさんあるのだ。漢字由来の言葉をそれぞれの流儀で読んでいることが結構多い。とはいっても別の言語なのだから、制作現場では意思疎通に苦労があったようだ。西島には役の上でも大きなハードルが与えられた。もともとオ・ジヌという韓国人だったが、記憶を書き換えられて石神武人という日本人になっているという設定なのだ。5日間のうちに真相を探らなければ、すべての記憶が消えてしまう。遺伝子をめぐる科学ミステリーを背景にしたタイムサスペンスである。
日韓俳優の演技合戦
石神は、デザイン会社に勤めるサラリーマンだ。結婚記念日に家に帰ると、妻が死んでいた。そこに電話がかかってくる。受話器から聞こえる声は、間違いなく妻のものだ。では、この死体は一体誰のものなのか。混乱するところに警察だと名乗る男たちが現れ、石神をクルマに乗せて連行しようとする。しかし、彼らが本当の警察官ではないことを見破り、間一髪で脱出した。彼はたまたま通りがかった赤い「トヨタ・ヴィッツ」に乗りこみ、運転席の女性に助けを求める。
彼女は、韓国人の記者カン・ジウォンだった。石神の奇妙な話を聞いてネタになると考えたジウォンは、謎の解明に協力することになる。日本に取材に来ているのだから日本語が話せるという設定なのだが、演じている女優キム・ヒョジンは実際にはまったく日本語ができない。この役のために、3週間かけてトレーニングしたのだという。即席とは思えない見事な日本語演技で、たいしたプロ根性である。
対する西島も相当努力したようだ。本人は日本人だと思っているが、興奮すると思わず韓国語が飛び出してしまう。石神とジウォンが激しい口論を交わすシーンでは、互いに母国語ではない言葉を早口で話さなければならない。かなり難度の高い場面だが、一発でOKになったというから驚く。日韓の俳優が負けられない演技合戦をし、同時に相手のよさを引き出したのだ。
俳優陣はどちらも譲らずといったところだが、明らかに日本が負けていた部分がひとつある。カーチェイスシーンだ。クルマを使ったアクションが2度あるのだが、韓国で撮影した場面のほうが明らかに迫力があった。もちろんこれは日本車と韓国車の差ではなくて、撮影の環境があまりに違うことに起因している。
カーチェイスは韓国が圧勝
日本では、神戸旧居留地で撮影が行われた。クラッシュシーンもあり、日本でここまでのシーンが撮れたのは上出来だとは思う。しかし、後半で韓国でのカーチェイスがあり、それを見ると差は歴然としていた。石神は道路で強制的に停めた「キア・スペクトラ」を乗っ取り、追っ手から逃げようとする。スクリーンには道路を走るほかのクルマもたくさん映りこみ、臨場感は満点だ。日本で撮られたシーンで見えるのは当事者同士のクルマだけで、まわりはあまり映り込まない。日本の市街地でのロケには厳しい規制がかけられていて、なかなか自由に撮影できないらしい。
昨年公開された三池崇史監督の『藁の楯』では、わざわざ台湾でロケをしてアクションシーンを撮影していた。新幹線で犯人を護送する場面は、台湾高速鉄道を使っている。国内だけでは思ったとおりの映像を撮ることはできないと監督は判断したのだろう。韓国では国をあげて映画作りを進めているから、日本よりも条件がいいようだ。この映画と同時期に公開される韓国映画『新しき世界』でも、過剰なほどクルマを使ったアクションが展開されていた。うらやましい限りである。
日本の現状は寂しいが、この映画のように合作に活路を見いだすのもひとつの方法だろう。メリットは、カーチェイスシーン以外にもある。日本映画は繊細な表現と洗練されたストーリー展開では総じて抜きんでたレベルだが、そこにこだわりすぎてパンチのない作品になってしまうことも往々にしてある。韓国映画の雑な設定とワンパターンな展開には時に鼻白むこともあるが、勢いのある監督と俳優によってそれを異次元の魅力に変えてしまう奇跡を何度も見てきた。今回の作品では、双方の美点がうまく融合して見応えのある映像を作り上げることができたように感じる。
お隣さんであるがゆえに、違いも際立つ。それはいさかいの種にもなるが、互いに面白がれば新たな価値を見いだすことにつながる。この映画のスタッフとキャストは、両国のあり得べき未来を作品の形で見せてくれた。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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