スズキ・ハスラー Xターボ(4WD/CVT)/ハスラー X(FF/CVT)
夢の国の軽カー 2014.01.23 試乗記 ハイトワゴンの使い勝手とSUVテイストのデザインを併せ持つ「スズキ・ハスラー」に試乗。日本ならではの「カワイイ文化」が生んだ、軽クロスオーバーの実力を試した。今日のニッポンだからできた形
1983年に開園した東京ディズニーランドに私が初めて行ったのは、う~ん、いつだったかぜんぜん覚えていないけれど、ジャングルクルーズに乗って爆笑した記憶がある。ガイドのおにいさんが、「あ、危ない!」と叫んで水の中に潜んでいたワニをピストルで撃った。パンッという爆発音がとどろき、ガイドのおにいさんは銃をしまってかじをクルクル回しながらひとこといった。「毎日こんなことやってるんですよ~」
あれから30年ほどの歳月が流れ、「スズキ・ハスラー」の試乗会は、そんな思い出のある東京ディズニーリゾートの敷地内、といってもいい距離にあるホテルをベースに開かれた。
だから、ハスラーで走っていると、シンデレラ城やらモノレールやら火山やら豪華客船やらが見えた。夢の国ディズニーランドと、わが国が誇るカワイイ文化に加わった新型軽カーはたいへんよく似合っているように思えた。
いとうつくしきもの(かわいらしいもの)が清少納言の時代から私たちニッポン人は大好きで、私もまたひとりのニッポン人なのであった。
「なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし」(枕草子)
海沿いの道を東京方面に向かって走っていると、かなたに葛西臨海公園の観覧車やら東京スカイツリーやら六本木ヒルズやらがくっきり見えた。なあんだ、リアルワールドもディズニーランドと変わらないではないか。21世紀の私たちはディズニーランド化する世界で生きている。スズキ・ハスラーは、そんなニッポンだからこそ通用する、いとうつくしき、夢の王国のクルマなのだ。
往年のイタリア車を思わせる乗り味
さて、私はハスラーの最上級グレード「Xターボ」の4WD(157万6050円)と、自然吸気(NA)エンジンを搭載した「X」のFF(136万9600円)の2台に、ごく短時間ながら試乗した。どちらがよいかと尋ねられたら、断然、後者のノンターボのFFであると答えたい。
自然吸気の直列3気筒12バルブエンジンは最高出力52ps/6000rpm、最大トルク6.4kgm/4000rpmと絶対的なパワーは限られているけれど、車重800kgと軽いことを利して、気持ちよいペースで走ることができる。乗り心地は柔らかめで、ストローク感があり、昔の「フィアット・パンダ」をちょっと思わせる。フロントにスタビライザーを全車に採用しているけれど、重心が高いせいか、ロールはけっこう大きい。3気筒はアイドリング時の振動が気になるけれど、バッテリーがビンビンであれば、アイドリングストップが作動する。だから、信号待ちはたいていものすごく静かである。
MTしか乗れない、という主に高齢者のニーズに応えて5段MTも一部NAモデルに用意されている。クルマ好きが狙うべきは、これであろう。テスト車の用意はなかったけれど、ぜひ試乗してみたいものである。ハスラーは、装備の違いによって「A」「G」「X」と3つのグレードがあり、ベースグレードの「A」のFFは104万8950円、4WDは116万6550円という値札がついている。なんと5MTとCVTが同価格! MTの市場における意味の変化が物語られている。
パワーに見合うアシが欲しい
Xターボの4WDは、64psを生み出すインタークーラー付きターボエンジンを搭載する。これはもう、軽とは思えぬほど速い。信号グランプリでガバチョとアクセルを踏み込めば、アアアッという間に法定速度に達する。可変バルブタイミング付きならではのフラットトルク型ユニットは、ターボチャージャーの力を借りて、NAより1000rpm低い3000rpmで最大トルクを発生する。その分、エンジンを回さずにすむから、室内が静かなことも美点だ。
とはいえ、Xターボの4WDはシリアスな飛ばし屋のためのクルマではない。いざ飛ばそうとすると、サスペンションストロークが不足気味に感じられたからだ。これはSUV風クロスオーバー仕立てがあだになっていると思われる。ラフロードでの走破性を高めるために、ハスラーは最低地上高を「ワゴンR」より若干上げている。165/60R15という大径のタイヤを履かせ、サスペンションストロークを変更しているのだ。わずか1インチ、25mmほどの違いなのだけれど、その分、重心は高くなっている。このことへの対応が、NAとターボでは異なっていて、ハイスピードであるがゆえに、ターボモデルの足まわりのチューニングはあるところで妥協を強いられたのではあるまいか。以上は推測ながら、少なくともFFの方がしなやかな乗り心地で、ドライビングフィールも軽快で、ようするに私好みなのであった。
軽自動車規格の功罪
ワゴンRのプラットフォームとSUVテイストのボディーを組み合わせた軽初のクロスオーバーたるハスラーは、いわばデザインが最大のキモである。走る機能は、国内専用の軽カーなのだから……、という声もあるだろう。昨年の軽自動車の販売台数第3位のワゴンRがベース、という実績もある。もちろん、そうなのである。とはいえ、ハスラーの64psのターボの4WDが欲しい人だっていらっしゃるだろう。で、そのクルマはスピードが出ちゃうのである。出ちゃうのだから、自動車たるモノ、それに見合う足まわりをもっていてしかるべきではないか。ということを私は申し上げたい。
なぜ、柄にもなくこんなことを書いているかというと、これは排気量660cc以下、全長3.4×全幅1.48×全高2m以下、という日本独自の軽自動車規格がもたらしている、日本独自の問題だ、と思うからである。軽自動車の規格が軽自動車をイビツなものにしている、とは昔からいわれてきたことである。仮にトレッドをもう少し広くとることができれば、足まわりの自由度は大きく変わってくる。軽の制約が軽をイビツなものにしている、というのはこういうことだ。
軽自動車は税金等の面で優遇されていることはご存じの通りである。2015年4月以降、安倍独裁政権によって1.5倍の値上げが決定しているけれど、それまでは軽自動車税は普通車の4分の1以下の一律年間7200円におさえられている。ということもあって、いまや国内市場の40%近く、2台売れたらそのうちの1台はもしかすると軽、という状況になっている。そして、その比率はさらに上がるだろうともいわれている。そういう時代に、この新型ハスラーを「いとうつくしきもの」として称揚するだけでよいのだろうか? 日本国における自動車のあり方の問題として、私はあらためて問うている。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
スズキ・ハスラー Xターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1665mm
ホイールベース:2425mm
車重:870kg
駆動方式:4WD
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:9.7kgm(95Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:25.0km/リッター(JC08モード)
価格:157万6050円/テスト車=171万2250円
オプション装備:2トーンルーフ(4万2000円)/スマートフォン連携ナビゲーション(7万3500円)/ルーフレール(2万1000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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スズキ・ハスラーX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1665mm
ホイールベース:2425mm
車重:800kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:29.2km/リッター(JC08モード)
価格:136万9200円/テスト車=144万2700円
オプション装備:スマートフォン連携ナビゲーション(7万3500円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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