マクラーレン650S スパイダー(MR/7AT)
ますますスーパー 2014.07.22 試乗記 主力のスーパースポーツ「12C」とスペシャルモデル「P1」の技術が盛り込まれた、マクラーレンの最新作「650S」。その実力や、いかに? オープンバージョン「650S スパイダー」に、一般道で試乗した。“完璧な仕事”の進化版
「マクラーレンMP4-12C」(現在の「12C」)が量産開始されてから、わずか3年ほどで登場した650Sは、一応は12Cの上級モデルという位置づけだそうである。12Cの生産は現在ストップしているそうだが、それはあくまで650Sの初期受注をさばくため……というのが公式なアナウンスである。
知っている人も多いと思うが、650Sの車体やシャシーの構造やエンジン、トランスミッションなど、基本ハードウエアはすべて12Cと共通である。外装デザインは12Cとは別物だが、基本骨格は両車で同じだから、キャビンの形状やエンジンルームの長さ、リアガーニッシュ中央から突き出される排気口など、12Cを特徴づけていた基本シルエットは、この650Sでも踏襲されている。インテリアの基本造形にいたっては、12Cそのままだ。
シツコイようだが、12Cがなくなったわけではないので、これを「12Cのビッグマイナーチェンジモデル」と呼ぶのは正確ではないが、基本的な成り立ちはまさにそれ。マイナーチェンジという言葉が不適切ならば、これはさしずめ「エボリューションモデル」ということだろう。
12Cは、その操縦性、運動性能、動力性能、コントロール性……といった“スポーツカー”の機能において、世界中でスタンディングオベーションともいうべき大絶賛を受けた。その点においては、マクラーレンはいきなり、ほとんど完璧な仕事を成し遂げた……というのが世の評価だった。
こうして“スポーツカー”としてはほとんど文句なしの12Cだったが、そのいっぽうで“スーパーカー”としての評価は二分した。いわくデザインが控えめすぎる、エンジンに色気がない、つまり総じてスーパーカーに不可欠な刺激が少ない……というのが、マクラーレン否定派の多くの意見だった。
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快適に乗れるモンスター
650Sが12C比でどう進化したかの具体的内容については、吉田 匠さんの海外試乗記に詳しい。また、今回は「走行距離200kmまで」という制限のある取材だったために、650Sの持てるポテンシャルの半分……どころか、4分の1にも踏み込めない程度のコースで走ったにすぎないことをお断りしておく。まあ、私程度のウデと度胸では、それらしい場所で走らせたところで「乗せていただく」という領域を出られないのも正直なところだけど。
エンジン性能はじつに650psと69.1kgm。そのとんでもない怪力にしてミドシップ。しかも後輪駆動(!)、本体価格は3400万円(!!)、たっぷりとオプションを盛られた取材個体の合計価格にいたってはほぼ4400万円(!!!)の650S スパイダーである。
ハッキリいうと「とにかく無事に返却できるように」とだけ念じて650Sをスタートさせた私だが、走りだすと見る見る恐怖感が薄れていくのに驚いた。この種のモンスターは経験上、限界のはるか手前でも乗り手を威嚇するようなヒリヒリとした緊張感があるのが常だが、650Sにはそれがまるでない。
その秘密のひとつが望外に快適な乗り心地だ。可変サスペンションを含めた統合制御をノーマルモードにして、東京近郊の高速道路と、交通量の少ない郊外道路で走らせた650Sは、なんともソフトなフットワークで、それなりに上下動しながらギャップを吸収する。
さすがに少しスピードを上げるとノーマルでは「らしい」落ち着きに欠ける気がするが、スポーツ、もしくはトラックにモード変更すると余分な動きは見事に消えうせる。そのぶんアシは素直に硬く引き締まるのだが、決して突っ張って動かなくなるわけでもなく、それよりなにより、とにかく車体骨格の剛性感がものすごいので、総合的には、スポーツ以上のほうがスポーツカーとしては快適ですらある。
今回はオープンルーフのスパイダーだったが、その車体形式に起因するとおぼしきガタピシは本当に皆無である。マクラーレン自身も「クーペとスパイダーにサーキットラップタイムを含めた性能差はゼロ」と断言している。
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ドライブフィールにズレがない
しかし、650Sが怖くない最大の理由は、常に「クルマが手の内にある」と思わせてくれるバツグンの車両感覚だ。フロントバルクヘッドにめり込むように座るため、とにかくフロントタイヤの位置が手に取るようにわかる。さらにステアリングにもブレーキにもアシストがついているのだが、これら操作系はまるでノンパワー/ノンバキュームのようにクリアな「生感覚」である。
誤解を恐れずにいえば、650Sの乗車感覚には、まるで1.6リッター自然吸気の「ロータス・エリーゼ」のようなフィット感がある(内外装の質感はもちろん比較にならないけど)。限界をうかがうようなスピードまで上がればまた印象は変わるのだろうが、私程度の度胸で「ちょっと試してみよう」と踏める領域では、リアタイヤは常に路面に根が生えたように安定しているし、これほどパワフルな過給エンジンでありながら、乗り手の意思以上のパワーを勝手に出してしまうオーバーシュート感もない。
650Sはいわば3年間分の技術的な進化と、市場にもまれたことによるノウハウを投入したマクラーレンである。抑揚を強調したスタイリング、それなりにドラマのあるエンジンフィールと派手なサウンド……といった面は、スーパーカーとしては欠かせない要素だろう。
今回撮影を担当した田村カメラマンは「12Cのほうが色気ありますよね」と語っていた。とうていマクラーレンの顧客になりようのない私も、個人的には素直に機能美を表現したような12Cのデザインのほうが好ましいとは思うけれど、スーパーカーというのは周囲に畏敬、恐怖、欲望、野心を抱かせる派手さも重要な性能である。一般的にスーパーカーらしいのは間違いなく650Sのほうだろう。
650Sはデビューしてから、再び世界中から絶賛されている。そりゃそうだろう。12Cよりわずかに3年新しいだけで、スパイダー同士ならたった314万円(!?)の価格差で、ここまで進化しているのである。これはやっぱり12Cの正統なる後継機種というべきだろう。
それにしても、スーパーカーリーグのビッグルーキーであるマクラーレンは、学習と進化の速度がハンパない。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
マクラーレン650S スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4512×2093×1203mm
ホイールベース:2670mm
車重:1370kg(乾燥重量)/1480kg(自動車検査証記載値)
駆動方式:MR
エンジン:3.8リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:650ps(478kW)/7250rpm
最大トルク:69.1kgm(678Nm)/6000rpm
タイヤ:(前)235/35ZR19 91Y/(後)305/30ZR20 99Y(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:24.2mpg(約8.6km/リッター)(欧州複合サイクル)
価格:3400万円/テスト車=4395万8000円
オプション装備:エリートペイント(64万8000円)/カーボンファイバー・エアブレーキパネル(50万4000円)/カーボンファイバー・ディフューザー(50万4000円)/カーボンファイバー・エンジンカバー(36万円)/カーボンファイバー・ミラーケース(36万円)/カーボンファイバー・サイドインテーク(36万円)/カーボンファイバー・エクステリアアップグレード(フロント&サイド&リア)(134万2000円)/スポーツエキゾースト(75万9000円)/アルミ・オイル&クーラントキャップ(5万7000円)/シートヒーター&電動メモリーシート(43万2000円)/コントラスト・カラーパイピング(アルカンターラインテリアのみ)(5万7000円)/コントラスト・ステッチ (ダッシュボード&ステアリング)(5万7000円)/アルカンターラ・ステアリング(7万2000円)/ステアリングホイールのカラーコーディネイト(6万5000円)/カーボンファイバー・インテリアアップグレード(50万5000円)/カーボンファイバー・シートバック(50万4000円)/カーボンファイバー・シルパネル (ブランドロゴ入り)(42万5000円)/カーボンファイバー・ホイールアーチ(36万円)/電動ステアリングコラム(21万8000円)/カーボンファイバー・インテリアパネル (ドアインナー&リアパネル)(71万5000円)/スーパーライトウェイト鍛造ホイール(14万3000円)/ダイヤモンドカットフィニッシュ(24万5000円)/スペシャルカラーブレーキキャリパー(14万4000円)/パーキングセンサー(リア&フロント)(26万円)/リアパーキングカメラ(16万3000円)/車両リフトシステム(57万6000円)/専用フロアマット(5万1000円)/室内専用ボディーカバー(7万2000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:6225km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:158.3km
使用燃料:21.1リッター
参考燃費:7.5km/リッター(満タン法)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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