スズキ・ワゴンR FZ(FF/CVT)
選ばれない理由がない 2014.11.05 試乗記 魅力は燃費だけじゃない? 新開発のモーターアシスト機構「S-エネチャージ」を搭載した「スズキ・ワゴンR」を試す。軽における低燃費化の次なる一手
日本のトヨタが先鞭(せんべん)をつけた「ハイブリッド」は、今や世界のライバルにとって、野球でいえば「中継ぎ」というよりも、より重要な「ストッパー」的な役割を果たさんとしている。言わずもがな、その主軸となるのはプラグインシステムだ。
各国の法規において、50km程度の電動走行が可能なハイブリッド車は「みなしEV(電気自動車)」とする方針が固まりつつあるとみるや否や、CO2クレジットが残高不足のメーカーはこぞってプラグインハイブリッドをリリースし、ペナルティー回避への道筋を立て始めた。そのEV走行用モーターは、使いようによっては動力性能を稼ぐブースターとしても機能するのだから、うまくやれば商品力を向上させることもできる。例えば今、最も熱心に、かつ巧みにその道を模索しているのはかのポルシェかもしれない。
……が、それは高額かつ大型の車両だからこそ採れる施策である。対極にある日本の軽自動車は、プラグインシステム以前に、ハイブリッドをやろうにもモーターとバッテリーを車両価格に転嫁することがまずもって難しい。百歩譲ってそこを乗り越えたとしても、システムを搭載するスペースの確保で行き詰まる。さらにそれすらクリアしても、得られる燃費の改善幅は、増加した重量にがっつり食われるのが関の山だ。
さりとて、車体や内燃機の側から燃費性能向上のための手段はあらかた尽くしたとあれば、効率向上のために電気的手段を考えるのは自然な流れだ。燃費の改善で相殺できる程度の価格差で、ユーザーメリットの高い電動アシストシステムの構築……と、このワゴンRに搭載されるS-エネチャージは、軽自動車を知り尽くしたスズキが、次の一手のために採らざるを得なかった必然的道筋といえるかもしれない。
ユーザーメリットは燃費と快適性
S-エネチャージは、従来のオルタネーターをスズキいわく「インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター(ISG)」という発電&駆動モーターへと置き換え、シート下に搭載するリチウムイオンの小型二次電池へと電力を蓄えつつ、必要に応じてISGの駆動用に用いている。ISGはクランクプーリーで回されるベルトにACコンプレッサーなどと同列で配置され、減速回生時の充電も加速時のモーターアシストも、最終的にはこのベルトを通して行っているかっこうだ。
つまり、考えうる最も安くて単純なハイブリッドシステム……と、ワゴンRのそれを表することは間違いではない。ただし、従来のオルタネーターと置き換えてのベルト駆動となるISGは、当然ながら2ps程度と駆動時の出力も低く、発進時のモーター走行などは行いたくても行えないという弱点もある。モーターがアシストする範囲も、15~85km/hの速度域内において最大6秒間に限定される。それゆえにスズキは、市場での混乱を避けるべくS-エネチャージという言葉を使っている。
S-エネチャージは、前述の速度域においてモーター駆動をあくまでエンジンの負荷相当を補うかたちで使うため、いわゆるパワーの上乗せ感は体感できない。つまり動的質感に関しては標準車のワゴンRとほとんど同等ということだ。つまりユーザーメリットは非常にシンプルで、JC08基準で従来比8%向上の燃費、そしてISGの高トルクを利したアイドリングストップからの滑らかなリスタートとなる。対して、標準車との価格差は厳密に比較できないが、装備等の違いを勘案しながらみると10万円強。つまり「ターボ付きかなしか」という選択と同等の決断を要するということになるだろうか。1000円単位で値引き合戦を繰り広げる軽自動車の販売現場感覚からいえば、だいぶ立派な飛び道具ではある。
スイートスポットは郊外の幹線道路
その作動速度域が示す通り、S-エネチャージが最も効果を発揮するのは適度なストップ・アンド・ゴーを伴いながらの60km/h前後の走行がメインとなる、地方の県道や国道のようなところだろう。逆に頻繁なストップ・アンド・ゴーを要する街中オンリーの使い方では、回生効率こそ高いものの、効率的に最も負荷の高い発進時のアシストがないことがネックとなる。同様にアシスト領域を外れる100km/h付近の高速巡航でもその効果はあまり望めない。ともあれ、顧客の分布や使用状況においてはベストソリューションであることに間違いはない。この辺りの見極めは見事だと思う。
そういうシチュエーションでこのクルマを走らせてみると、確かにメーター内のインジケーター表示から、頻繁にモーターが稼働していることがよくわかる。その際、エンジンとモーターの駆動力がミクスチャーされているようなトルクの変動感はほとんど感じられない。見事なまでの違和感のなさを実現できた背景には、駆動伝達にベルトを使っていることも奏功しているのだろう。
加えて、アイドリングストップの滑らかさも、確かにこのクルマの商品性にはプラスに働いている。セルモーターと車室との距離が近く、遮音にも十分なコストが掛けられないため、再始動のたびに硬い作動音が飛び込む既存のアイドリングストップ付き車に比べると、S-エネチャージはその音量も小さく再始動も実に素早い。全体的なノイズレベルは及第以上に達しているワゴンRにとって、それは快適性の大きな伸びしろとして価値がある。
感心に値するエンジニアリング
ちなみに、今回の試乗は都内から高速道路を使って郊外まで移動、郊外路を走っての往復というかたちをとってみたが、それぞれの燃費を車載計でみるに、最も燃費の伸びしろが期待できる郊外路では26km/リッター以上の燃費をコンスタントに記録していた。対して高速巡航では20km/リッター付近、都心の街中路では17km/リッター台と、やはりそれほど燃費が伸びるわけではない。この辺り、おおむね期待される通りの結果といえるだろう。
そこであらためて見直したのは、国民車たるワゴンRそのものの素性の良さだ。モーターによるパワーの上乗せはなくも、ライバルより軽い車重もあって、その力強さは高速巡航ですら大きなストレスを感じさせない。100km/h巡航時の車内には会話も十分成立する静粛性が保たれるし、舵(だ)の保持は若干心もとなくとも、スタビリティーそのものには不安を抱かずにすむ。多くのグレードで標準装備となるESPは、万一の緊急回避時には背の高い車体にとって有効に働くだろう。時には自転車も飲み込む室内、特に後席の広さを知るともう普通のクルマには戻れなくなりそうだ。これで生涯平均20km/リッターくらいは走るといわれれば、普通の人がこれを選ばない理由が見当たらない。その強力な商品力が土台にあればS-エネチャージなんていらないだろうとはた目には思うわけだが、彼らにとって慢心は死も同然ということなのだろう。軽自動車のエンジニアリングには、触れるたびにとにかく頭が下がる。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
スズキ・ワゴンR FZ(FF/CVT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1660mm
ホイールベース:2425mm
車重:790kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
モーター最高出力:2.2ps(1.6kW)/1000rpm
モーター最大トルク:4.1kgm(40Nm)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:32.4km/リッター(JC08モード)
価格:137万2680円/テスト車=150万8153円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(2万1600円)/ディスチャージヘッドランプ(5万4000円)/CDプレーヤー(2万1600円) ※以下、販売店オプション フロアマット(1万9583円)/ETC車載器(1万8690円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1641km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:381.0km
使用燃料:19.5リッター
参考燃費:19.5km/リッター(満タン法)/20.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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