第373回:イタリア製ジープは、SUV市場に新しい風を巻き起こすか!?
2014.11.14 マッキナ あらモーダ!最新版・本場のフィアット系販売店の風景
ここ数年イタリア国内のフィアット系販売店は、市場の規模縮小と、それに伴う本社からの指導により、取り扱い各ブランドの展示スペース集約化を進めてきた。
具体的にいうと10年くらい前までは、同じ地域の販売会社が経営しているにもかかわらず、フィアット、ランチア、アルファ・ロメオそれぞれに独立したショールームが与えられているところが多かった。それが近年では、3ブランドを段階的に同じショールームで扱うようになってきた。
加えて2009年にフィアットグループがクライスラーと提携し、今日のフィアット・クライスラーに至る第一歩を踏み出したことで、イタリアのフィアットディーラーは、ジープブランドも一緒に並べるようになった。
ボクの街のフィアット系ディーラーもこんにち、上記の各ブランドをひとつのショールームに集約して展示している。展示構成は期間中の販売強化車種によって異なるが、目下ジープ3台、フィアット、アルファ・ロメオ、ランチア各1台、といったところだ。ちなみに、2018年までの数カ年計画で新車がないランチアのスペースは、次第に狭められている。
拡大 |
ジープがヨーロッパで根付いている理由
ところでイタリアのカーセールス界でこの秋話題の一台といえば、ジープの新型車「レネゲード」だろう。レネゲードは2014年3月のジュネーブショーでデビューした。全長は4232mm。ジープ史上初のミニSUVである。先ごろ9月のパリモーターショーで公開された「フィアット500X」とプラットフォームを共有する。
このレネゲード、何よりもの話題は、これまたジープ史上初めてのイタリア生産であることだ。「フィアット・プント」を生産していることで知られる南部バジリカータ州のメルフィ工場で、すでに2014年夏に生産が開始されている。
イタリア仕様のエンジンはディーゼルの1.6リッターおよび2リッター、ガソリンは1.4リッターが用意される。駆動方式と変速機の組み合わせは、1.6リッターが2WD+6段MT、2リッターは4WD+9段AT/6段MT、1.4リッターは2WD+6段MTである。価格は付加価値税込みで、2万3500ユーロ(約335万円)からだ。
「イタリア製ジープ」と書いてしまうと少々衝撃的だが、ボク自身は、かなり売れるのではないかと今から読んでいる。その理由は、以下のとおりだ。
西ヨーロッパでジープブランドは、ダイムラー・クライスラー時代も一定の人気を維持してきた。特にオーストリアのマグナ・シュタイアー工場製の欧州版「グランドチェロキー」(2代目)は、2000年代初頭の自動車買い替えトレンドに伴う上昇志向の波に乗り、各国で成功を収めた。こちらで需要が高いディーゼル仕様を、メルセデス・ベンツ製エンジンで補ったことも功を奏した。
さらに考察すれば、歴史的経緯もある。フランスしかり、イタリアしかり、ジープは第二次世界大戦の連合国による祖国解放の象徴として、人々の記憶に刻まれている。当時を体験していない世代でも、解放記念日には毎年ニュースで映像が繰り返されるから、ジープの姿は忘れようにも忘れられない。ちなみに、イタリアでは今も小学校でパルチザン闘争や解放の歴史を学ぶ。そうした背景により、ジープは欧州に根づいたブランドなのである。
ディーラー待望のモデル
2014年9月最終のウイークエンドのこと、わが街のフィアット系ディーラーを通りかかると、ちょうどレネゲードの発表展示会をやっているところだった。多くのイタリア人が最後の海を楽しみに出掛けてしまい、店内はさぞ閑散としているかと思いきや、意外にもお客さんが吸い込まれてゆく。中に入ると3つある商談スペースも、すべて埋まっている。知り合いのセールスマン、アンドレア氏をつかまえると、「うまくいくことを願おう!」と、笑顔とともに叫んだ。
参考までに、2014年9月の欧州におけるジープブランドの販売台数は、前年同月比1354台増の3592台(JATO調べ)だった。
フィアット・クライスラーの地区担当者も、約60km離れたフィレンツェからやって来ていた。アンドレア氏の同僚マウリツィオ氏にもう少し詳しい話を聞くと「今、イタリアの自動車セールスで活況なのは、(脇に展示してあるグランドチェロキーを差しながら)高級車種か、廉価車種かのどちらかだよ」と教えてくれた。そうしたなかレネゲードのようなモデルは、まさにディーラー待望のモデルといえよう。
実際のクルマを見てみる。フィニッシュの質はかなり高い。ちなみに、GKNドライブライン社製のAWDドライブシステムをはじめとする、レネゲードにパーツを供給しているサプライヤーの構成をみると、今や純粋なイタリア企業は少ない。そうした意味でも、「イタリア製」というバイアスをかけた目で見るのは正しくない。
ディテールもなかなか凝っている。テールランプのレンズのなかには、ジープの伝統的フロントフェイスを模したロゴが刻まれているではないか。メーターパネルの、泥をかぶったようなグラフィックも、なかなか斬新である。さらに、ナビゲーションのディスプレイの上には、大胆にも「SINCE 1941」と、ジープの事実上の誕生年が、まるで老舗菓子店の看板のごとく記されている。
こうした演出、ボクが知る長年ジープオーナーのおじさんのような、フィアット傘下に入ったことにでさえ複雑な思いを寄せる超硬派ファンに、どう映るかは知らない。だが、本場米国人だけでは気づかない、世界のユーザー候補者の心理をくすぐる巧妙な仕掛けであることは確かだ。早くもこんなところに大西洋をまたいだチームワークのシナジー効果が現れている。
今日SUVおよびクロスオーバーはヨーロッパで人気の一ジャンルだ。その理由をマウリツィオ氏に聞くと、「いやー、なんといっても流行だからな」という、つかみどころのない答えが返ってきたが、それは現場のプロも認めているということだ。中でも日産車は特に人気がある。2014年1月から9月の欧州乗用車販売全体で、「キャシュカイ」は8位にランクインしている。「ジューク」も引き続き人気だ。
そこに投入されるレネゲードは、日本車にはないヘリティッジを武器に奮闘すると思われる。実際、レネゲードを買う人たちの下取り車は? と聞くとマウリツィオ氏は、「フィアット・ムルティプラ」などフィアット系モデルとともに「トヨタRAV4」、日産キャッシュカイなどを挙げた。
イタリア製ジープによる、SUV市場への戦いの火蓋は切られたばかりだ。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、FCA)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。 -
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。