ダイハツ・ムーヴカスタムRS“ハイパーSA”(FF/CVT)/ムーヴX“SA”(FF/CVT)
中身が濃い! 2015.01.09 試乗記 これからの軽ワゴンは「走り」で勝負? 軽市場における王座奪還のため、ダイハツが満を持して投入した新型「ムーヴ」の実力を試した。ダイハツ反撃の旗手
おつかいを頼まれてスーパーに行くと、おびただしい種類のしょうゆを前にまずは頭を悩ませる。が、いくら考えてもまったく答えは出ないわ、スマホで調べるのも面倒くさいわ、しまいにはこの苦悩の時間そのものがもったいないわで、傍らにいる店員さんに声を掛けてこう尋ねるわけだ。
「一番売れてるのって、どれですか?」
特段興味もないものに対する審美眼は無に等しいとあらば、一番手っ取り早くて失敗しない買い方はそれ。だから、恐らくそういう感じでメーカーや車種を決めているだろう、多くのクルマ購入者のことを僕は責められない。
それゆえに「軽ナンバーワン」というキーワードにこだわる両社の気持ちはよくわかる。言わずもがな、6割を超える領分を分かち合うスズキとダイハツのことだ。軽自動車という日本専売のカテゴリーにおいて、アタマを取るべくびっちびちの販売台数争いを繰り広げているのはご存じの通り。ちなみに2014年の販売台数は共に70万台余で、3000台弱多かったスズキがトップに返り咲いた。ともあれ、これほど1位と2位のシェアが均衡している生活関連商品といえば、ほかに思い当たるのはビールやティッシュくらいなものだろうか。
2015年はスズキを追うかたちになるダイハツは、昨年末に相次いで2車種を投入している。一つは「タント」のコンセプトをより運ぶ側へと昇華させた新規車種の「ウェイク」、そしてもう一つが、フルモデルチェンジを受けて6代目となるこのムーヴだ。
普通車にも引けを取らない
ダイハツにとっての主力商品は「ミラ イース」、ムーヴそしてタントの3種。本来ならば亜流であるはずのタントが票田を掘り起こし、他社が追従した一方で、ムーヴは若干のカニバリ(ブランド内での製品同士の共食い)も影響して、直近では「スズキ・ワゴンR」の後塵(こうじん)を浴び続けてもいた。ムーヴに新しい価値を加えて商品力を大きく向上させることは彼らの喫緊の課題だったとみていいだろう。
そこでダイハツが選んだ道はなんだったのか。それを外観からうかがい知ることは難しい。4代目で挑戦した意欲的なワンモーションフォルムから、2代を経てスクエアな形状へと戻された、それはやはり顧客の志向によるところが大きいという。カスタムの側を先に決定し、標準車の側を合わせ込んだという従来とは逆アプローチのデザインは、すっきり飲み込めはするものの、特段の新鮮味や面白さがあるわけではない。
ちなみにカスタムの側にはより豪華な加飾が施される「ハイパー」というグレードが新たに設定されているが、これは彼らがダウンサイザーと呼ぶ、普通車からの乗り換え組の眼鏡にかなう静的商品力を意識したものだ。本革とファブリックのコンビとなるシートなど、内装まわりもしっかりお化粧が施されたそれは、なるほど「トヨタ・ヴィッツ」や「ホンダ・フィット」あたりと比較してもほとんど遜色のないクオリティーを実現してはいる。が、それが新しいムーヴの一番のみどころということではない。等しくすべてのグレードに与えられる動的質感の向上こそが新型ムーヴのハイライトとなる。
リソースを「走り」に集中投入
おそらく軽に慣れ親しんだユーザーであればあるほど、ドアを開閉しエンジンを掛けただけでもこれまでとの違いに驚くはずだ。振動の少なさや透過音の小ささに。ハイテン鋼の使用比率を大幅に高め軽量化を図ったぶん、要所にガセットやブレースを加えるなどして剛性強化を徹底したボディーは、車内の共振特性までをも一変させている。加えて遮音材の配置の最適化のみならず、排水孔まで整理したという侵入音の低減策も奏功したのだろう。安易に物量を投じて重量と原価が増す一方では致命的という制約の中で、新型ムーヴの取捨選択は最大限「動くこと」の側に傾けられた、それはこの時点から伝わってくる。
逆に普通車に慣れ親しんだ身には、ペダルのレイアウトや剛性および精度、踏力(とうりょく)と制動立ち上がりのリニアリティーなどに驚かされることになるだろう。それと共に、ステアリングの支持剛性の高さや操舵(そうだ)感の確かさにも……と、そんな難しいことは考えずとも、「なんかこの軽カッチリしてるわ」という印象は、恐らくこの辺りの作り込みからもたらされるものだ。
これだけいいハコをもらえれば、足まわりもきっちりと動きを受け止めることができようというものだろう。新型ムーヴは結果としてサスペンションの動きが低速域から非常にスムーズだ。一方で、高速域での連続入力にも車体を弾ませるような安っぽいしぐさはそうやすやすとはうかがわせない。不意の大入力に対してもウレタン化されたバンプラバーがそれを優しく受け止めつつ、接地感を大きく崩すこともなくそこからぎゅっと粘ってくれるなど、挙動予測もしやすく現実環境での安心感が非常に高い。サスの基本的な骨格およびジオメトリーは先代のそれをトレースしているというが、その動きはもうまったくの別物。そしてヘタな小型車よりもよほど高次元の快適性と安心感を実現している。ちなみに標準車とカスタムのサス設定は、装着タイヤのコンプライアンスに合わせた若干の差にとどまるというが、強いていうならこの足まわりの真価を享受できるのは、ターボユニットとの組み合わせでもみじんも危うさをみせない標準車の方だと思う。
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2強の戦いから目が離せない
主力の一翼たるムーヴに動的な質感という付加価値を加えることで、再びガチの4番バッターへと返り咲かせる。タントやミラ イースとは違うものを持つにはそこしかないという事情もあるにはあったのだろう。そして、価格や燃費や積載力といった数字に表れない部分の性能を高めるというこのダイハツの挑戦は、なかなかの賭けでもある。一方のスズキは徹底的な軽量化を筆頭に、軽の本分ともいえる「簡便」を突き詰めようという方針が念頭にあることは間違いない。
拮抗(きっこう)する両社が違う道を歩みながら、1000台単位のトップシェア争いを繰り広げる。当事者には申し訳ないが、こんなに面白い争いを見届ける幸せはそうそうあるものではない。そして気づけば新型ムーヴは、ヘタな普通車など比べるべくもないほど中身の濃いクルマに育っている。果たしてどこまでいってしまうのか。心底、軽自動車の世界からは目が離せない。
(文=渡辺敏史/写真=河野敦樹)
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テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴカスタムRS“ハイパーSA”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1630mm
ホイールベース:2455mm
車重:850kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:27.4km/リッター(JC08モード)
価格:166万8600円/テスト車=198万5213円
オプション装備:純正ナビ装着用アップグレードパック(2万1600円)/2トーンカラー塗装(5万4000円) ※以下、販売店オプション 8インチメモリーナビ(19万8180円)/ETC車載器(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万5553円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:890km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ダイハツ・ムーヴX“SA”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1630mm
ホイールベース:2455mm
車重:820kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:31.0km/リッター(JC08モード)
価格:130万6800円/テスト車=147万9233円
オプション装備:ボディーカラー<シルキーブルーパール>(2万1600円)/ボイスコントロールナビゲーションシステム(10万8000円) ※以下、販売店オプション ETC車載器(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、ダークベージュ>(2万5553円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:920km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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