メルセデス・ベンツC200ステーションワゴン スポーツ(本革仕様)
メルセデス・ベンツの原点回帰 2015.02.16 試乗記 6年ぶりのフルモデルチェンジを果たした「メルセデス・ベンツCクラス ステーションワゴン」に試乗。ワゴンボディーをまとうコンパクトメルセデスの「アジリティー」を確かめた。リズムを感じるインテリア
「C200ステーションワゴン スポーツ(本革仕様)」のドアを開けると、そこはまるで「SL」あるいは「SLS」と見紛(まご)うばかりのスポーツカー的世界が広がっていた。クランベリーレッドと呼ばれるエンジ色のレザーと、鈍く輝くシルバーのエアダクト、スイッチ類の組み合わせが、いかにも名門メルセデス・ベンツのGTを思わせる。1955年に登場した歴史的傑作、「300SLガルウイング」のことを申し上げているわけです。
着座位置はあくまで低く、センターコンソールは緩やかに傾斜して、ドライバーをコ・ドライバーから独立せしめる。眼前には大径のタコメーターが右に、速度計が左に位置する。このふたつのメーターはシルバーのリングで強調されている。銀色の輪は、ステアリングホイールの真ん中に位置するスリーポンテッドスターのマークと呼応するだけでなく、センターコンソールの3連丸形エアダクト、さらに両サイドの丸形エアダクトとも反復する。反復とはすなわちリズムである。音楽なのである。
これまた鈍くシルバーに輝く円形のエンジンスタート&ストップボタンを押すと、2リッターターボエンジンは、ちょっとディーゼルエンジンを思わせる直噴ならではの金属音を奏でながらアイドリングを始める。
試乗車はC200ステーションワゴン スポーツなので、メルセデス自慢のエアマチックサスペンションを標準装備する。「Eクラス」以上の上級モデルに使われてきた、空気バネと可変ダンパーを用いた電子制御サスペンションである。タイヤは前225/45R18、後ろ245/40R18の前後異サイズという、「スポーツ」のサブネームに恥じないスポーツぶりだ。
ワゴンであることを忘れる
走りだしてみれば、胸のすくようなクルマであった。4代目Cクラスのテーマは「アジリティー(機敏、軽快、敏しょうさ)」である。「アジリティセレクト」というドライブモードの名称はそこから来ているのだろう。標準設定の「コンフォート」、燃費が向上する「エコ」、スポーティーな「スポーツ」、よりダイナミックな「スポーツ+」の4つが選択可能で、さらに好みに応じてステアリング、エンジン/トランスミッション、サスペンション、クライメートコントロール、スタート・ストップ機能などを個別に設定することができる(サスペンションはエアマチック・アジリティパッケージ装着車のみとなる)。
試乗中、あいにく雨が降ってきたこともあって、おおむね「コンフォート」でドライブする。「スポーツ」にしても、それほど乗り心地が硬くなるわけではない。快適である。ただし、ステアリングがやや重くなる。「スポーツ+」にすると、明瞭に硬くなって、路面が荒れていると上下に揺すられる。
居住空間と一体となった荷物空間がドライバーである私の後ろには広がっている。ラゲッジスペースは470リッターある。セダンは445リッターだから、それよりも広い。スポーツワゴンのようなルーフラインを描きながら、荷車としての責を果たそうとしている。ちなみにBMWの「3シリーズ ツーリング」は495リッターだから、なんとメルセデスのほうが狭いことになる。実用的であることよりも、スタイリッシュであることを選んだのが、4代目Cクラスなのだ。
そのおかげで、というべきか、ロードノイズが侵入してくるとか、ドンガラを背負っている感覚があるとか、リアのサスペンションがはねるとか、これまでワゴンの弱点とされてきた感覚が一切ない。もしも目隠しをされたまま運転席に座らされ、ただ前のみを見てドライブしていたら、たぶん私は自分が乗っているクルマがワゴンであることに気づかずにいるに違いない。
ワゴンのスポーツカー
初めて運転する人にも、まるで長年連れ添ってきたかのような安心感を提供するのがメルセデス・ベンツの美点だと思うけれど、最新Cクラスもその例に漏れない。アジリティーをテーマに掲げて、アルミニウムを用いるなど、素材からつくりあげてきているので、ごく自然な軽快感になっている。軽快さに気づかない軽快さ、と言いますか。そういうのは軽快とは言わないのでは……と突っ込まれてしまいそうだけれど、エアマチックサスペンションにしてもフラットライドがごくナチュラルに成立していて、ようするに違和感がない。4代目CクラスはEクラスとホイールベースが35㎜しか違わないまでに成長した。だけれど、Eとは異なる、コンパクトネス、スポーティブネスが感じられる。Cクラス独自の魅力というものがある。スポーツカーのワゴン、ワゴンのスポーツカーなのだ。
そう考えると、まことに惜しいのが、2リッター直列4気筒の直噴ターボである。いわゆるリーンバーンエンジンゆえか、アクセルを踏み込んだときに、ガソリンを吹き込んで燃焼・爆発させているという感覚が希薄で、なんだか空気を送ってピストンを動かしているみたいなのです。ま、これはやがて慣れる、とも言える。第一、空気を送ってピストンを動かすことができれば、こんなに素晴らしいことはない。
実際、今回のテストでは338.2km走行して、給油量が33.3リッター、満タン法による燃費は10.2km/リッター、車載計によるそれは9.8km/リッターだった。車重1640㎏のミドル級としてはリッパな値ではあるまいか。
最後に。メルセデス・ベンツの「全車スポーツカー化大作戦」は、必ずや成功するだろう。「自動車とはスポーツカーのことだ」と、かつて徳大寺さんも語っておられた。「最善か無か」を取り戻したメルセデス・ベンツは原点回帰したのである。自動車界の帝王メルセデスがセダンやワゴンまでスポーツカー化するとなれば、他メーカーも追従せざるをえない。
未来はバラ色だ。
(文=今尾直樹/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC200ステーションワゴン スポーツ(本革仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4730×1810×1450mm
ホイールベース:2840mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:184ps(135kW)/5500rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Y/(後)245/40R18 97Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 SSR)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:641万円/テスト車=659万5100円
オプション装備:メタリックペイント(18万5100円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:6419km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:338.2km
使用燃料:33.3リッター
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)/9.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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