トヨタ・オーリス120T(FF/CVT)
主役は遅れてやってきた 2015.05.25 試乗記 トヨタ初の1.2リッター直噴ターボエンジンを搭載する「トヨタ・オーリス120T」に試乗。その走りは“ダウンサイジング”では一歩先を行く欧州勢に迫ったか? 遅れてきた主役の実力を探った。“カローラ ハッチバック”に歴史あり
もしもシリーズ「トヨタが『ゴルフ』をつくったら……」を具現したのがトヨタ・オーリスだ。「プリウス」が21世紀のトヨタのハッチバックの王道をいく中、オーリスは裏街道をひた走ってきた。常に“そういやあるな”という印象のモデルだが、要は「カローラ」のハッチバック版で、かなり昔からあった。
源流は1984年に登場した「カローラFX」。FXは3世代にわたって95年まで生産され、その後、カローラのハッチバック版は国内ではいったん途切れたものの、2001年に「カローラ ランクス/アレックス」(兄弟車)として復活する。そのランクス/アレックスが、06年に車名を新たにオーリスとしてモデルチェンジした。現行オーリスは12年に登場した2世代目で、この度、マイナーチェンジが行われた。←今ココ。
一時期は現行オーリスをベースに、2.4リッター直4を積んだ「ブレイド」や3.5リッターV6を積んだ「ブレイドマスター」などの派生モデルもあったが、最近は1.5リッター直4と1.8リッター直4のオーリスのみの設定。そこへ、今回、新開発の1.2リッター直4ターボエンジンを搭載した120Tというモデルが追加された。
“定番”をぴたりとマーク
今回のマイナーチェンジは見た目の変更は最小限。ヘッドランプの周囲にメッキモールが配置されたほか、フロントロワグリルがバンパーの端から端まで広がった。また、もともとフロントが低く長く前へ伸びたカモノハシのようなデザインがオーリスの特徴だが、今回のマイナーチェンジで全長が55mm長くなり、その特徴が強調された。
120Tが積むのは、いわゆるダウンサイジングコンセプトを取り入れたエンジンで、シリンダーヘッド一体型のエキマニ、直噴システム、吸気側に可変バルブタイミング機構などを採用した効率追求型。アイドリングストップも備わる。
最高出力116ps/5200-5600rpm、最大トルク18.9kgm/1500-4000rpmで、JC08モード燃費は19.4km/リッター。トランスミッションはCVT。排気量こそ小さいものの、動力性能は1.5リッターモデルを上回り、1.8リッターモデル並み。価格も約259万円とオーリスの中で最も高く、装備も最も充実したトップグレードとして位置づけられる。
このパワースペックが、同じ形式の1.2リッター直4ターボエンジンを積み、同105ps/4500-5500rpm、同17.8kgm/1400-4000rpm、同燃費21.0km/リッターというスペックをもち、日本で最も売れている輸入車であるフォルクスワーゲン・ゴルフを意識したものであることは間違いない。ゴルフをはじめとする欧州勢のダウンサイジング+過給器エンジンという効率の上げ方に対し、トヨタをはじめとする日本勢はハイブリッドで対抗するのかと思いきや、このオーリス120Tや1.5リッターターボエンジンを積む「ホンダ・ステップワゴン」など、最近になって、ダウンサイジング+過給器エンジンを搭載するモデルがちらほら登場し始めた。ま、ひとつの手段に偏りすぎるのは危険ということだろう。
欧風な走り
などと、ひと通りスペックをおさらいしたうえで、運転席へ腰を落ち着けた。意外といっては失礼だが、最初に感じたのは、操作系のしっかり感。ステアリングホイールの支持剛性が高く、シートも一切ぐらつくことなく、ホールド性も良好。ペダル類も遊びが少ない。ゴルフや「フォード・フォーカス」あたりを好む人も、これなら納得するんじゃないだろうか。
走らせても、足まわりは硬すぎず柔らかすぎず、ダンピングのよく利いた乗り味。ステアリング操作に対する反応がまずまずシャープなので、キビキビしている。新開発の1.2リッターエンジンはなかなかよく走る。極低回転域はCVTのワイドなギアリングがカバーするし、ある程度回転が上がるとターボがよく仕事をするのだろう、十分なトルクが立ち上がる。ATセレクター手前のスポーツボタンを押すと高回転を維持するような特性に変わる。
インテリアはプラスチックの質感は高いし、パーツとパーツの合わせ目もきれいでトヨタ品質。デザインも悪くない。ただし、色と素材を使いすぎてごちゃごちゃになってしまっているように思えた。特にシートのあたりで気合が渋滞している。尻と背中が接する部分は穴開きレザー、その両サイドがエンボスレザー、その周囲が人工スエード、そしてサイドにブラウンのビニールレザーと、実に4つの色と素材が使われている。またインテリア全体のベース色がブラック、一部にブラウンの差し色が入り、ATセレクター周りにピアノブラックとクロムメッキがあしらわれている。そしてとどめはあめ色の木目調インパネ! 正直に言ってこのパネルにはギョッとした。中米だか南米のヘラクレスオオカブトの硬い方の羽根みたいな色づかいだからだ。
よくできているのだが……
インテリアの色と素材の使い方に驚かされたものの、使い勝手は悪くない。リアシートはCセグメントのハッチバックとして平均的なスペースを確保しているし、ラゲッジスペースも、360リッターという容量は標準的ながら、凹凸が少なく、たくさんの荷物を積む際にデッドスペースが生まれにくい。ラゲッジのフロアが二重底になっていて、普段は床を低くして容量を稼ぎ、リアシートバックを倒した際には段差ができないよう床を高くしてラゲッジフロア全面をツライチにできる。しばしば自転車を積み込むような人は絶対的な容量もさることながら、ペダルなどが引っかからないようフラットなのがありがたいのだそうだ。このあたりの配慮はきめ細かい。
また、今回のマイナーチェンジでは、安全装備がアップデートされた。120Tには「トヨタ・セーフティ・センスC」が標準で備わる。これはトヨタが2017年をめどに全車種に設定するとしている安全デバイスで、赤外線レーザーと単眼カメラを組み合わせることによって、10~80km/hの速度域で衝突軽減ブレーキが作動するほか、車線逸脱を警告する。また、ヘッドランプ点灯時にハイ/ローが自動的に切り替わる機能も盛り込まれる。120Tのほかに1.8リッターエンジン搭載車には標準装備され、1.5リッターエンジン搭載車にはオプション設定される。
パワートレイン、安全装備、高剛性ボディーなど、ひとつひとつの項目を見ると、どれもよくできているのだが、どれも数年前にゴルフが実現しているものなので、どうしても今さら感が漂う。かといって、じゃあほぼ同じ内容がゴルフよりも安く手に入るかというと、264万円(ゴルフ)に対し259万円なので、そこまででもない。ジェネリックはうんと安くないと積極的には選びにくい。
(文=塩見 智/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
トヨタ・オーリス120T
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4330×1760×1480mm
ホイールベース:2600mm
車重:1300kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:116ps(85kW)/5200-5600rpm
最大トルク:18.9kgm(185Nm)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(ヨコハマ・アドバンデシベル)
燃費:19.4km/リッター(JC08モード)
価格:259万37円/テスト車=310万175円
オプション装備:225/45R17タイヤ&17×7Jアルミホイール(12万2040円)/バックモニター(2万7000円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビ9インチモデル DCMパッケージ(29万4840円)/工場装着バックカメラ用ガイドキット(1万1880円)/ITSスポット対応DSRCユニット<ビルトインタイプ>ナビ連動タイプETC(3万2778円)/フロアマット<デラックスタイプ>(2万1600円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:710km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:206.5km
使用燃料:14.7リッター
参考燃費:14.0km/リッター(満タン法)/13.0km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。