第306回:黒くて丸い だけじゃない
ブリヂストン「REGNO」の開発現場から
2015.08.07
エディターから一言
タイヤは進化を続けている
タイヤというのは、見たところ黒くて丸いゴムだ。
その姿は、数十年の間変わっていないように見える。もちろん、バイアスタイヤからラジアルに、チューブタイヤからチューブレスに移り変わってきたということは理解しているが、それ以上の変化、つまり燃費性能や静音性の向上などについては、どれくらい進歩しているのか、実感としては分かりにくい。
一般社団法人日本自動車タイヤ協会の発表によると、乗用車用タイヤの場合、2006年のタイヤと比べると、2012年のタイヤは転がり抵抗低減によってCO2排出量が7.5%も削減されているという。
すでに完成された技術だと思っていたタイヤだが、わずか6年でこれほど進化しているというのは驚きである。
そんなタイヤは、一体どのように開発されているのか、その一部を見学した。
ブリヂストンでは、「環境」「安全性」「快適性」をタイヤの開発・設計の3大要素としている。
まずはその中で、快適性、つまり音にまつわる研究を行っている部門から見学はスタート。
タイヤが発生させる音には大きく分けて、タイヤの接地面と路面との摩擦から発せられる音と、タイヤ内部のスチールベルトから発せられる音との2種類ある。
まずは、タイヤの接地面と路面との摩擦から発せられる音が、トレッドパターンによってどう変化するのかを体験することができた。
タイヤの溝は適当につけているのではなかった!
タイヤの溝は、メーカーやブランド、商品によって異なるのは当然筆者も認識しているが、あの溝がどんな意味を持っているのか、正直言って「もしかしたら適当に模様をつけているんじゃないの」くらいの気分でいた。
溝の形に、もちろん何らかの意味はあるだろうとは思っていたが、ちょっと“眉唾”というか、うっすらとした疑念を抱いてしまっていたのだ。
「こんな溝だったらカッコいいよね」みたいな要素が、実は結構あるのではないだろうかと。
だって、よさそうなタイヤはトレッドパターンがカッコいいじゃないですか。
けれども、こっそりと研究者の方に聞いてみたところ、トレッドパターンは「デザインという側面もなくはないですが、基本的には性能を考慮したものです」とのこと。
疑惑が解けて安心したところで、見学を続けよう。
連れてこられたこの部屋は、妙にシンとしている。まさしく静寂に包まれたような部屋の中央に、タイヤが1本と測定器のようなものが置かれている。ここは「無響室」と呼ばれる施設で、部屋全体が吸音材で覆われており、しかも部屋自体を免震ゴムで支えることで、周辺道路から伝わる振動の影響も最小限に抑えられているという。
部屋の中央に設置されているタイヤは最新の「REGNO(レグノ)GR-XI」。ブリヂストンのプレミアムタイヤだ。
このレグノGR-XIには、「ダブルブランチ型消音器」と呼ばれる横方向の溝が付けられている。この溝の有る無しで音がどう違うのかを、実際に聞き比べてみようという実験だ。
接地したタイヤの溝に、走行時を模した空気を流し、小さなマイクでその音を拾う。
ダブルブランチ型消音器があるタイヤと、消音器を埋めて機能させなくしたタイヤで聞こえる音が変化するのか……。
答えは、イエスであった。
ザーッというノイズが、明らかに減少している。
もちろんノイズが全て消えるわけではないが、ある一定の周波数域のノイズが小さくなっているのが確かに分かる。
「適当に模様をつけているんじゃないの」なんて思ってしまってごめんなさい。
400km/hをシミュレート
続いて見学したのは、ブリヂストンが世界に誇る研究設備「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」だ。
アルティメット アイは、走行中のタイヤに加わる力を、400km/hの速度までシミュレーションできる設備である。F1用タイヤの開発を目的に作られたもので、路面に見立てた巨大なドラムが高速で回転し、そこにタイヤを実際の走行状態と同様の荷重をかけて「接地」させ、タイヤ表面にかかる走行時の負荷を詳細に計測し、コンピューターで解析する。
設計したトレッドパターンが期待通りの効果を示しているかを「見える化」できるというわけだ。
このアルティメット アイにより、レグノGR-XIではタイヤ接地面に発生するコーナリング力分布を計測。高い直進安定性と応答性のよいハンドリングを実現するのに役立ったという。
アルティメット アイのような、高速域でのタイヤ接地面の負荷を計測する設備を持つのは世界でもブリヂストンだけで、各国の研究者から注目をあびているそうだ。
このように、研究に研究を重ねることでタイヤの性能は進化している。けれども、一般ユーザーからすると、タイヤの性能というのはなかなか実感しにくい。
例えば、「新車を購入して、5年で3万kmくらい走行したら買い換える」というようなユーザーだと、タイヤを替えることなくクルマを手放す事になるだろう。そうすると、「タイヤの違い」には気づくことはできない。
知らず知らずのうちに、タイヤは進化し、ユーザーは気づかぬうちにその恩恵にあずかっている。
タイヤはただの黒くて丸いゴムではなく、実は陰ながらわれわれの生活を支えるヒーローなのだ。
(文と写真=工藤考浩)

工藤 考浩
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