後編:燃費自慢の“走り”を検証! ~エコな軽とコンパクト、その実像に迫る
小さくても大きな満足 2015.09.18 実力チェック! 人気の軽とコンパクト 先進的な環境技術が続々と開発され、クルマの燃費性能は日々進化。日本の軽自動車やコンパクトカーには、30km/リッターを超える燃費性能を有するものも少なくない。では、そうしたモデルの走りや乗り心地は、どうなのだろうか? 今回は“燃費自慢”の3台に試乗し、クルマとしての基本性能を確かめた。低燃費ツートップ+1台で比較試乗
2011年の末、自動車の燃費競争はいよいよ激しさを増していた。9月20にダイハツが30.0km/リッター(JC08モード)の「ミラ イース」を発売すると、11月25日にスズキが30.2km/リッター「アルト エコ」で反撃する。わずか0.2kmの差ではあるが、この時点でガソリン車低燃費ナンバーワンの称号を得たのである。
しかし、同じ年の12月になると、とんでもない強敵が現れた。「トヨタ・アクア」が「プリウス」譲りのハイブリッドシステムを搭載し、35.4km/リッターという驚異的な燃費を引っさげてデビューしたのだ。アクアは2013年の一部改良で37.0km/リッターにまで数字を上げる。
内燃機関だけではハイブリッドにかなわないと思わせたが、2014年にフルモデルチェンジされたアルトが意地を見せた。アクアとまったく同じ37.0km/リッターを達成し、トップに並んだのだ。
この2台で同じ道を走ってみた。いくらユーザーが燃費を気にするようになったからといって、アクアかアルトかどっちにしようと迷うケースは、あまりないかもしれない。燃費以外はさまざまな面でまったく異なる成り立ちを持つ。それでも、日本の誇る燃費ツートップはどんなクルマなのかを見てみることには意義がある。現時点でのエコカーの到達点がわかるはずだからだ。
東京都内から一般道で箱根を目指し、ワインディングロードを試して高速道路で帰ってくるというコースである。市街地と山道、高速道路という3種のステージで比較する。2台に加え、「スズキ・ワゴンR」も連れ出した。軽自動車の主流となっているハイトワゴンは外すわけにはいかない。重量や前方投影面積でハンディがあるにもかかわらず、33.0km/リッターという燃費なのだ。参加する資格は十分にある。
超軽量ボディーで低燃費を実現したアルト
アルトの「ターボRS」は素晴らしく楽しいクルマだが、売れ筋は自然吸気エンジンにCVTを組み合わせたモデルだ。650kgという超軽量ボディーが低燃費に貢献している。試乗車は装備の充実したグレードの「X」だったが、それでも113万4000円という価格だ。装備が簡略化されたグレードには、90万円を切っているモデルもある。「アルト47万円」の伝統を継ぐ、安くて簡素な軽らしい軽である。
エンジン出力は52psでしかないが、ボディーがこれだけ軽いので発進は鋭い。信号待ちから加速して流れに乗るのに遅れを取ることはなく、文字通りの軽快な走りだ。急加速となると車内には騒音が満ちあふれるが、巡航している限りではそこそこ静かである。戸惑いを覚えたのは、減速した時だ。ブレーキペダルの踏みごたえが少々心もとない。もちろん実際にはちゃんと停止するのでフィールの問題である。そもそもこの値段なのに衝突被害軽減ブレーキが装備されているから安心度は高い。
アイドリングストップシステムが搭載されており、13km/h以下になるとエンジンが停止する。停止も再始動もスムーズで、プレミアムブランドの輸入車よりもずっと出来がいい。信号待ちの間にエンジンが動き出すことはほとんどないのだが、静かであるがゆえに気づいてしまったことがある。ワイパーを作動させていると、モーターの動きにともなって衝撃がステアリングホイールに伝わってくるのだ。音や振動に関しては、多少の忍耐が必要かもしれない。
ワゴンRに乗り換えると、思った以上にアルトとの差が大きかった。乗り味がはっきりとマイルドである。重厚感と高級感が増したと言ってもいい。比べてみると、アルトは挙動が落ち着かなかった。直進性もワゴンRが一枚上である。車重は790kgでアルトよりも140kg重い。率で言えば2割以上の増量だから、違いがあるのはむしろ当然だ。
それでも、ディスプレイを見る限りでは燃費の差は大きくはない。ワゴンRにモーターアシストが付いていることが大きいのだろう。スズキの誇るエネルギーマネジメントシステムのエネチャージが両車に装備されているが、ワゴンRは上級版の「S-エネチャージ」である。減速時に発電してリチウムイオンバッテリーに充電するのは同じでも、エネチャージは電装品に電力を供給するにすぎない。S-エネチャージはオルタネーターの代わりにモーター機能付き発電機(ISG)を採用しており、加速時にはエンジンをアシストする。マイルドハイブリッドとでもいうべきシステムである。
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山道でも俊敏なアクア
本格的ハイブリッドカーのアクアに乗り換えると、やはりまったくの別物だった。ガソリン自動車とはっきり一線を画すのは、モーターだけで発進できることだ。今では慣れてしまったが、プリウスが登場した時はこの感覚が新鮮だった。静かに発進して気づかないうちにエンジンが始動し、力強く加速していく。1.5リッターエンジンは74psと出力は控えめだが、61psのモーターを加えれば十分以上の力がある。エンジン回転を極端に上げる必要がないから、ゆったりとした走行ができるのだ。
運転席に座っただけでも、自動車らしさという点では大きなアドバンテージを感じる。軽自動車も内装の質感が向上したとはいえ、仕上げのよさではアクアに軍配を上げざるをえない。寸法に余裕があるから、インパネの造形に立体感がある。シートに座った時のおさまりのよさにも明確な差があった。横幅の広さが与える開放感も居心地のよさを増大させている。軽自動車との全幅220mmの差は、数字以上に実感となって表れる。
市街地では燃費でもハイブリッドのメリットが際立った。条件が異なるため厳密な数字ではないが、軽自動車2台とリッターあたり5km以上の差がついたのだ。発進と加速でモーターを使えることは、ストップ&ゴーの多い一般道では相当有利に働く。
箱根に着いて山道を駆け登ると、当然燃費は悪化した。ディスプレイの数字が見る見るうちに下がっていく。最も落ち込みの激しかったのはアクアだった。登り切ったところでは、軽自動車2台との差は1割程度にまで縮小した。電池を使いきってエンジンだけで走ると、1080kgという重量が効いてくる。ただ、それは下り坂では逆の意味を持つ。アクセルはほとんど踏まずにすむので、燃費は回復して電池は満充電となる。
アクアは山道でもエコカーらしからぬ俊敏さを見せた。重心が低くて接地性がよく、コーナーでの安心感は抜群だ。モーターアシストのおかげで、立ち上がりの加速も力強い。アルトは軽快さでは上回る。キビキビとした走りは心地よいが、いかんせんブレーキ性能に不安が残るのであまりむちゃはできない。ワゴンRは車高の割には安定しているが、もちろん山道で飛ばすクルマではない。
一芸の軽、汎用性のアクア
帰路の高速道路では、やはりアクアの安定感が光った。プリウスを上回るほどの剛性感があり、ステアリングを切った時の確かな手応えが頼もしい。軽自動車2台だって悪いわけではない。0.66リッターのエンジンで無理なく高速走行をこなすことは称賛されるべきだ。ただ、コンパクトカーのアクアと比べるとどうしても見劣りしてしまう。直進安定性や乗り心地の面では、少しばかりかなわないところがある。
一般道、山道、高速道路を合わせて200km弱を走り、ディスプレイ上の燃費ではアクア、アルト、ワゴンRの順だった。まあ、予想通りである。ハイブリッドカーの強みは、積極的に燃費走行ができることだ。頭を使って回生ブレーキをうまくコントロールし、ガソリン消費を減らす楽しみがある。単純にアクセルを緩めるだけではない、攻めの燃費走行である。
内燃機関の効率性アップと軽量化で低燃費を実現したアルトは、高く評価されていい。スズキの技術が世界の自動車メーカーから注目されるのもよくわかる。サイズが小さくて過不足なく走り、足としては申し分ない。そしてワゴンRも売れるだけのことはある。多少燃費は劣っても、スペースの広さは魅力的だ。軽自動車の枠内でこれだけの室内空間を確保しているのは驚くべきことだ。
一方、コンパクトカーには汎用(はんよう)性がある。アクアは1台で、何でもそれなりにこなしてしまう。誰にでも使いやすく欠点が少ない。多くのユーザーを満足させることができるだろう。山道ではスポーティーな走りが楽しめるし、60:40分割可倒式のリアシートをたためば大きな荷物だって載せられる。ファミリーカーとしても余裕で使えるクルマだ。オールマイティーでありつつ、燃費でトップの座を占めている。販売台数ランキング1位を続けていることにはちゃんと理由があるのだ。
(文=webCG/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
トヨタ・アクアS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1455mm
ホイールベース:2550mm
車重:1080kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)175/65R15 84H/(後)175/65R15 84H(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:37.0km/リッター(JC08モード)
価格:188万7055円
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スズキ・アルトX(ミディアムグレー2トーンバックドア仕様車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2460mm
車重:650kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6500rpm
最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:37.0km/リッター(JC08モード)
価格:115万200円
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スズキ・ワゴンR FZ(ディスチャージヘッドランプ装着車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1660mm
ホイールベース:2425mm
車重:790kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
モーター最高出力:2.2ps(1.6kW)/1000rpm
モーター最大トルク:4.1kgm(40Nm)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:33.0km/リッター(JC08モード)
価格:142万6680円

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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