前編:いま、小さな個性派がアツい!? ~軽とコンパクトのキャラ立ちモデルを一挙紹介
楽しさが詰まってる 2015.08.28 実力チェック! 人気の軽とコンパクト 軽自動車やコンパクトカーの世界は、エッジの効いたデザインや規格外のユーティリティー性も持ち味とする“個性派モデル”が花盛り。ここで、その背景となる自動車業界のトレンドを検証しつつ、いま注目すべきモデルをピックアップしてみよう。軽自動車4割超えの衝撃
2014年、国内新車販売台数に占める軽自動車の割合が4割を超えた。ちょっとした事件である。日本の軽自動車が、世界に誇る素晴らしい技術的達成のたまものであることは間違いのない事実だが、4割というのは衝撃的な数字だ。税制の優遇が減らされたことで若干売れ行きは鈍っているが、自動車市場に確固たる地位を築いていることは否定できない。
1993年に「スズキ・ワゴンR」が登場したことが、軽自動車の可能性を開いた。車高を上げて広い室内空間を確保したハイトワゴンは、ユーザーから圧倒的な支持を集める。ダイハツが「ムーヴ」で対抗し、新たに有力なジャンルが形成された。2003年にはさらに背の高い「ダイハツ・タント」がデビューし、スーパーハイトワゴンが人気となる。
軽自動車は背の高さで大きく3つのタイプに分けられることになった。一番背の低いのが「スズキ・アルト」や「ダイハツ・ミラ」などで、価格を抑えたベーシックモデルだ。真ん中に位置するのがスズキ・ワゴンRやダイハツ・ムーヴで、最も背の高いのがダイハツ・タントや「スズキ・スペーシア」である。
長らくスズキとダイハツが軽自動車の2大メーカーとして競ってきたが、ホンダが「Nシリーズ」を投入してからは三つどもえの戦いになった。ホンダのラインナップは、背の低いほうから「N-ONE」「N-WGN」「N-BOX」である。これに日産三菱連合軍が加わり、国内販売台数の4割を占める一大勢力となった。
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飽和状態の市場に現れた変わり種
3タイプ体制が定着して市場が落ち着いたように見えていたところに、ちょっとした変わり種が現れる。2013年末にデビューした「スズキ・ハスラー」だ。ワゴンRをベースにして車高を上げ、バンパーやフェンダーなどをSUV風に演出している。ピンク、ブルー、オレンジといったビビッドなカラーを用意し、オシャレ感を漂わせた。スズキには「ジムニー」という本気の4WD車があるが、ハスラーはもう少しライトな路線を狙っている。
市場が飽和状態になりつつあり、ラインナップを広げる必要があった。実用性で評価が高いワゴンRとは別の選択肢が求められていたのだ。普通車の世界でクロスオーバーが人気なのだから、軽自動車でも成功するはずだと考えたのは自然である。ちょっとレトロな雰囲気を持ったデザインと大胆な色使いは、女性へのアピールを意識している。ヒルディセントコントロールを装備するなど、機能面も充実させている。レジャーで使うことを想定しているのだ。
もくろみは見事に当たり、注文が押し寄せて数カ月の納車待ちになった。2014年には8万6000台あまりを売り上げ、軽自動車販売台数ランキングの10位に入った。1位のタントが約20万台なので、ニッチなモデルとしては大健闘の数字だ。付加価値を加えることで、新たな軽自動車の魅力を引き出す可能性はまだまだ残されている。
以前から比類のないオリジナリティーを持ったモデルはあった。「スズキ・アルトラパン」が代表格だろう。“ウサギ”をデザインテーマにしていて、内外の要所要所にウサギマークを配している。ベースモデルのアルトとは一線を画したふんわりとした造形が、ターゲットとされる若い女性を引きつける。ベース車のモデルチェンジに伴って、このほどラパンは3代目となった。「ラパンでなきゃダメ」というファンが確実にいるわけで、女子に特化して成功したモデルなのだ。
都会的なクロスオーバーの「X-URBAN」
ホンダNシリーズの第5弾として登場した「N-BOXスラッシュ」には、さすがに意表を突かれた。せっかく背を高くしたスーパーハイトワゴンの屋根を切り落とし、チョップトップに仕上げたのだ。やはりこれもラインナップの行き詰まり感を打ち破るためのモデルで、デザイナーの遊びから始まったプロジェクトだった。赤白にチェッカー模様をあしらったビニールレザーで仕立てたインテリアなども用意されていて、思い切りアメリカンである。オプションを加えていくと200万円を超えてしまう場合もあり、軽自動車のゴージャス化が進んでいることを示している。
軽自動車が元気なことで割を食っているのが、コンパクトカーだ。コンパクトカーは世界を相手にするグローバルカーであることが多いので、誰にも好まれるコンサバティブなデザインを採用せざるを得ない。日本で独自の進化を遂げて百花繚乱(りょうらん)状態の軽自動車に比べると、どうしても落ち着いているように見えてしまう。
それだけ基本がしっかりしているということではあるが、ユーザーの心をつかむのは大変だ。だから、実はコンパクトカーにも意匠を凝らしたモデルが存在する。「トヨタ・アクア」に新グレードとして設定された「X-URBAN(エックス・アーバン)」だ。コンパクトハイブリッドカーのアクアをクロスオーバースタイルに仕立てたモデルである。最低地上高を20mm上げ、フロントグリルやサイドマッドガードなどでSUVテイストを加えている。
“アーバン”という言葉が示すように、都会的なイメージをまとっている。外板色11色と専用パーツカラーで33通りの組み合わせを用意した。内装は「アクセント:シルバー」と「アクセント:オレンジ」の2種類を設定し、スタイリッシュさを強調している。X-URBANの駆動方式はFFのみで、本格的なオフロードを走るクルマではない。都会の中でSUVの雰囲気を楽しむことがテーマである。ほんの少しだけれど、高い視点になることで運転感覚もノーマルとは違う。さらに、16インチタイヤや専用サスペンションが与えられたことでキビキビと走れるようになっているなど、見た目以外にもメリットがあるのだ。
アクアは3年連続で新車販売台数日本一を達成しているだけに、街なかですれ違う機会も多い。だからこそ、他人と違ったファッションを取り入れたいと考える人は多いはずだ。燃費に優れたコンパクトハイブリッドがSUVライクなスタイルを持っているという意外性が、X-URBANの人気の理由である。
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デザイン志向とスポーツモデル
デザインテーマ「魂動(こどう) -Soul of Motion」を掲げるマツダは、コンパクトカーの「デミオ」でもスタイリッシュさを追求している。2015年4月から加わった「Mid Century(ミッド・センチュリー)」は、真っ赤なシートが特徴の特別仕様車だ。インパネはブラックとホワイトで構成され、差し色の赤を入れることでポップなアート感を表現したという。女性のカラーデザイナーを起用したことは、女性ユーザーを重視していることの表れだ。
ミッド・センチュリーはデミオの販売台数のうち約10%を占めているというから、評判は上々のようだ。これからも、半年に一度の予定で特別仕様車をリリースしていくという。SKYACTIVの技術は評価されているが、エンジンの圧縮比の話が直接売り上げに貢献するとは考えにくい。定期的にデザインをリフレッシュするのは、新鮮さを維持するための方法として理にかなっている。
デザインとは別のアプローチを取るコンパクトカーもある。「日産ノートNISMO」は、モータースポーツ部門のNISMOが手を加えたスポーツモデルだ。パワートレイン、車体、タイヤ、サスペンション、空力などをチューニングし、高度なベストバランスを追求している。5段MTを採用する「ノートNISMO S」には、最高出力140ps(103kW)/6400rpm、最大トルク16.6kgm(163Nm)/4800rpmを発生する専用チューンの「HR16DE」型エンジンが与えられる。
内外装も、ノーマルとは違う。専用のエンブレムやフロントグリル、サイドシルプロテクター、ルーフスポイラーなどが与えられる。スポーティーな走りに見合ったデザインを提供しているわけだ。
こうして見ると、コンパクトカーにもキャラの立ったモデルがしっかり用意されていることがわかる。サイズやスペックに厳しい制限のある軽自動車に比べ、自由度の高いコンパクトカーは、さまざまな技を使う余地が残されているのが有利な点だ。ベストセラーカーであればあるほど、ありきたりのモデルに乗りたくないという気持ちが強くなるだろう。メーカーもその心理がわかっているからこそ、次々と魅力的なモデルを繰り出してくるのだ。
軽自動車とコンパクトカーのつばぜり合いは今後も続くに違いない。基本設計の優劣が大事なのはもちろんだが、デザインやコンセプトを磨き上げることが魅力を左右するのも事実である。デザイナーやエンジニアには酷な話ではあるけれど、固定観念にとらわれない斬新なモデルが現れることをユーザーは待ち望んでいる。
(文=webCG/写真=荒川正幸、郡大二郎、田村 弥、峰 昌宏、webCG)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。