ダイハツ・キャスト スタイルX“SA II”(FF/CVT)/キャスト アクティバGターボ“SA II”(FF/CVT)
世界を見よ! 2015.10.09 試乗記 ダイハツから、キャラクターの異なる3つのモデルをラインナップする新型軽乗用車「キャスト」が登場。試乗を通して感じた、今のダイハツの課題とは?![]() |
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ダイハツよ “Just cast away”せよ
ダイハツの新型車キャストに乗りながら筆者の頭に浮かんだのは、ポリスの名曲「孤独のメッセージ」であった。そう、冒頭の♪Just a castaway~と車名が重なったのです。ああ、われながら短絡的な……。
キャストはとてもマジメにつくられた、いわゆる「いいクルマ」であった。漂流者だなんて、トンデモナイ。全長3.4メートルという軽規格の中で、外見は普通の小型車ルックの範囲にとどまりつつ、つまり完全なトールワゴンスタイルではないのに、驚くほど広くて、トヨタの「アクア」よりも品質感が高い。
乗り心地ときたらドイツ車もかくやのしっかり感で、はっきり硬い。ファームでフラットで、不思議なくらい安物感がない。おとなしそうに見える「スタイル」のほうがやんちゃそうな「アクティバ」よりむしろ足回りが硬いのは、クロスオーバー志向のアクティバのタイヤが60の偏平率で、スタイルが55を履いているからだ。
キャストは基本的に「ムーヴカスタム」をベースにしているため、そもそもがカワイイというよりスポーティー、つーかヤンキーな乗り味なのである。それをソフトなエクレアっぽい感じで柔らかくくるんだ。そこがダイハツ的には新しい。丸型のヘッドライトと白いルーフを前面に出して、いわば黒い上下のスウェットから白いボタンダウンのシャツとネイビーのチノパンというトラッド調のおしゃれな洋服に着替えた。
ダイハツが軽の本流と位置づける「ムーヴ」もまた、大変よくできた「いいクルマ」である。ダイハツのクルマづくりは、お客さま第一主義で、多様化するニーズに真摯(しんし)に向き合っている。小型車の上をいく乗り心地のしっかり感、上質感は、いわゆるダウンサイザー、上級車から軽自動車に移行してくるひとびとをがっかりさせないための、軽自動車界の雄を自負するダイハツの意地と矜持(きょうじ)なのだ。
では、このように真面目な軽自動車づくりをしているダイハツが、スズキに販売台数で負けているのはなぜなのだろう?
スズキのクルマづくりは世界に目を向けているように筆者には思われる。視野が広いから、クルマはこの程度でいい、という見切りがある。上も下もない。「上も下もない。スズキは庶民の味方である」という立ち位置がはっきりしている。
いま、日本で起きているのは中流、一億総中流幻想の崩壊ではなくて、ホントの崩壊である。新車で軽自動車を選べる人はまだしも幸せな人だ。そういう人に新しい幸せを見つけてあげることが、軽自動車メーカーのつとめではあるまいか。
いや、私たちは一生懸命やってます。キャストも出したし、「コペン」も出してます。
そう、あなたがたは一生懸命やっている。
卒(そつ)じながら、私が申し上げたかったことは「ダイハツよ、殻を脱ぎ捨てよ!」ということなのである。Just cast away! マジメ一辺倒のクルマづくりを投げ捨てよ。日本国内だけを見ず、世界を見よ! というようなことを紙に書いてボトルに入れ、そっと海に流したい私なのであった。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)
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【スペック】
キャスト スタイルX“SA II”
全長×全幅×全高=3395×1475×1600mm/ホイールベース=2455mm/車重=840kg/駆動方式=FF/エンジン=0.66リッター 直3 DOHC 12バルブ(52ps/6800rpm、6.1kgm/5200rpm)/トランスミッション=CVT/燃費=30.0km/リッター(JC08モード)/価格=128万5200円
キャスト アクティバGターボ“SA II”
全長×全幅×全高=3395×1475×1630mm/ホイールベース=2455mm/車重=840kg/駆動方式=FF/エンジン=0.66リッター 直3 DOHC 12バルブ ターボ(64ps/6400rpm、9.4kgm/3200rpm)/トランスミッション=CVT/燃費=27.0km/リッター(JC08モード)/価格=151万7400円

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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