ダイハツ・キャスト アクティバGターボ“SA II”(FF/CVT)/キャスト スタイルX“SA II”(FF/CVT)
“自分仕様”を提供します 2015.10.09 試乗記 ダイハツから3つのスタイルを持つ新型軽乗用車「キャスト」が登場。「お隣と同じクルマはイヤ!」という、今時の軽ユーザーの要望を反映したニューモデルの実力やいかに?ユーティリティーだけでは売れない時代
4月の税金引き上げから、軽自動車の販売が低迷している。2015年上半期の販売台数は、前年比16.2%減の84万2291台だ。駆け込み需要の反動がもろに出ている。売れ筋の背高ワゴンはその中でもまだ頑張っていて、「ホンダN-BOX」やダイハツの「ムーヴ」と「タント」、「日産デイズ」、「スズキ・ワゴンR」あたりが上位に顔を並べている。
ベスト10の中で異彩を放つのは「スズキ・ハスラー」だ。昨年1月に発売されたクロスオーバータイプの新ジャンル軽は、今も根強い人気を保っている。ハイトワゴンやスーパーハイトワゴンは実用性の高さでユーザーを引き付けたが、ちょっと売れすぎてしまった。「他人と違うクルマに乗りたい!」という気分が広がったところにカラフルでポップなモデルが現れたのだから、飛びつく人が多かったのもよくわかる。
「ホンダN-BOXスラッシュ」も、ラインナップに変化を与えたモデルだ。高くしたルーフを切り落とすというアクロバティックな手法でオシャレ感を追求している。各社がバリエーションの拡大に動き始めたのは、市場の動向が変化していることを反映しているらしい。ダイハツの調査では、軽自動車の購入動機で「実用性(燃費/広さ/使い勝手)を重視する」人が2010年の41%から2014年には29%に減少している。逆に「性能よりもデザインを重視する」人は11%から19%に増えているのだ。
もはやムーヴとタントを作っておけばどんどん売れていくという時代ではない。軽自動車が自動車販売台数の4割を超える状況の中では、ユーザーの目を引く変わり種を作る必要がある。ダイハツの勝負球がキャストだ。しかも、同時に3つものソリューションを打ち出してきた。
「ムーヴ」をベースに3種を開発
キャストには「アクティバ」「スタイル」「スポーツ」の3種が用意されている。それぞれSUVテイスト、都会的洗練、走りの性能という異なる持ち味を与えられているが、主要部分は共通だ。当初から3パターンを想定し、効率的に開発を進めたという。ベースになったムーヴの高い実用性を保ったまま、プラスアルファの魅力を加えている。
ライバルは他メーカーの軽自動車だけではない。性能が高まった軽自動車は、登録車のコンパクトカーと競合するようになってきている。価格帯も近づいており、コンパクトカーと軽自動車を比較するユーザーは珍しくない。特にキャストのようなデザイン重視のモデルは、コンパクトカーからの乗り換えをはっきりと意識している。
試乗会場に並んでいたのはアクティバとスタイル。スポーツは10月末の発売なので、まだ認可の取れていないモデルが室内に1台置かれていただけで、乗ることはできなかった。プロポーションは同じだが、見た目の印象は三者三様。ディテールを変えることで巧みにルックスの違いを演出した。リアコンビネーションランプ、フロントグリルが異なるデザインになっており、サイドモールでも差別化を試みている。内装でも、メーターには3モデルで異なる形状を用意したという。
最初に乗ったのは、アクティバのターボモデルだった。「デザインフィルムトップ」と名付けられたツートン仕様で、新たに採用された「クリスタル調ホワイト」がルーフにあしらわれている。「コペン」でおなじみの「Dラッピング」技術で、貼り付けは手作業だそうだ。スポーツには「カーボン調ブラック」のオプションもある。
“着せ替え”もひとつのアピールポイント
デザインフィルムトップははがすこともできるので、後で交換するのも不可能ではない。Cピラーのパネルは樹脂製なので、これも交換可能だ。すでにデカールは用品としてラインナップされているが、まるごと取り換えるためのアフターパーツが作られる可能性もある。コペンだけでなく、ダイハツとしては着せ替えをアピールポイントとして考えているのかもしれない。
アクティバの車高は他の2モデルより30mm高い1630mm。最低地上高をアップして悪路走破性の向上を図っている。ダイハツには2012年まで「テリオスキッド」があったので、雪国からは同様の性能を持つモデルを要望する声が多かったそうだ。4WDモデルにはグリップサポートやDAC(ダウンヒルアシストコントロール)が標準装備されている。
試乗車はFFだったので、あくまでSUVのアクティブなイメージを楽しむためのモデルだ。運転席に座っても、極端に視点が高いと感じるわけではない。内装はゴツいクロカン系ではなく、スポーティーさを前面に出したブラック基調だ。すでに驚かなくなったが、インテリアの質感は高い。ダッシュボードやドアパネルに使われている素材に安っぽさはなく、一昔前の軽自動車とは大違いだ。これと比べられるコンパクトカーは大変である。
シャシーとパワートレインはムーヴゆずりなのだから、デキが悪いはずがない。エンジンは3000rpmあたりから力強さが増し、パンチのきいた加速を見せる。車体はステアリング操作に素直に反応して向きを変え、急な進路変更でも不安は感じなかった。ピッチングは多少感じたが、乗り心地も合格点である。
デザイン重視でも実用性は確保
デザインに振ったとはいえ、実用性に問題はない。ムーヴと比べれば少し劣るが、荷室容量は十分だ。デッキボードの下にはアンダーボックスがあり、長い荷物を縦に置ける。後席は左右別々に240mmスライドし、よほど荷物が多くなければ足元に広い空間が確保される。もちろん、頭上にはありあまるスペースが広がる。
次に乗ったスタイルは、外装色が淡いピンク。バンパーやサイドモールにメッキ加飾が施されていて、アクティバとはずいぶん雰囲気が変わる。基本的には女性をターゲットにした仕様だろう。「ミラジーノ」や「ミラココア」、「ムーヴコンテ」あたりの路線を受け継いでいる。内装はベージュ基調で、優しげな色調だ。インテリアで大きく違うのはグローブボックスだ。アクティバとスポーツがオープンタイプなのに対し、スタイルだけはフタ付きになっている。
試乗車はノンターボモデルである。お買い物グルマとして街乗りに主に使うことを想定すれば、多くのユーザーがこちらを選ぶのだろう。ターボの64psに対して52psの出力だが、走ってみるとそれほどの差を感じなかった。革巻きステアリングホイールやアルミホイールを望むのでなければ、ノンターボの「X“SA II”」はお買い得だと思う。
最安価の「X」を除けば、運転支援システム「スマートアシストII」が標準装備となる。衝突回避支援ブレーキや車線逸脱警報などの5つの機能がセットで提供されている。軽自動車でも今やこの種の安全装備は必須となったようだ。付いていることが売りになるというより、付いていないことがマイナス要因になるレベルである。
アクティバもスタイルも、FFの最上級グレードは150万円を少し超える。安くはないが、軽自動車の高価格化のなかでは抑えたほうだ。オプションに金をかけることを考えれば、むしろ安上がりだと考えられるかもしれない。もう少し独自性を出したいという向きには、販売店オプションとして8種のオススメコーディネートが「ワードローブ8」として設定されている。実用性の追求が限界に達しようとしている軽自動車は、“自分仕様”が欲しいユーザーの欲望に応えていく段階に入ったのだ。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
ダイハツ・キャスト アクティバGターボ“SA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1630mm
ホイールベース:2455mm
車重:840kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:27.0km/リッター(JC08モード)
価格:151万7400円/テスト車=192万4387円
オプション装備:ボディーカラー<スプラッシュブルーメタリック+デザインフィルムトップ>(4万3200円)/アクセントカラー<ブルー>(2万1600円)/純正ナビ装着アップグレードパッケージ(2万1600円) ※以下、販売店オプション ワイドダイヤトーンサラウンドメモリーナビ(27万7754円)/ETC車載器(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万5553円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:965km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ダイハツ・キャスト スタイルX“SA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1600mm
ホイールベース:2455mm
車重:840kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:30.0km/リッター(JC08モード)
価格:128万5200円/テスト車=148万1393円
オプション装備:ボディーカラー<ライトローズマイカメタリック+デザインフィルムトップ>(4万3200円)/スマートフォン連携メモリーナビゲーションシステム(9万7200円)/ドライビングサポートパック(1万2960円) ※以下、販売店オプション ETC車載器(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、ダークベージュ>(2万5553円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:826km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。