ダイハツ・キャスト アクティバGターボ“SA II”(FF/CVT)
軽に対する認識が変わる 2015.12.04 試乗記 仕様やデザインの違いにより、「アクティバ」「スタイル」「スポーツ」の3つのモデルを取りそろえる「ダイハツ・キャスト」。今回は、SUVライクなスタイリングが特徴のアクティバに試乗。ダイハツが誇る最新モデルの実力を確かめた。【総評】ダイハツの“気合”を感じる……★★★★☆<4>
少子高齢化が進む一方で、軽自動車のニーズが高まっているということは、その顧客層はエントリーレベルや買い物ユーザーにはとどまらず、登録車からのダウンサイジングによる伸びも大きいということだ。とあらば、登録車のフィーリングを知る向きにとっても、違和感のない品質が確保できていなければ目を向けてもらえない。何より、乗ってナンボのあれこれはクルマの根源的な魅力ではないか――。
昨今のニューモデルをみるに、ダイハツはそういうクルマ作りにシフトしつつある。もちろん、運動性能をどうにか高めたいという思いは以前から抱いていたはずだ。しかし軽自動車はそれ以前にかなえなければならないもの――つまり、広さや安さといったところのプライオリティーが非常に高い。一方で、長年のライバルであるスズキのみならず、ホンダや日産、三菱が商品群を刷新し、各社が売れ筋をそろえることになり優劣が不鮮明化する中、利益率確保のためにも商品の差別化をどこに託すかは大きな課題になりつつある。
大胆な軽量化によって燃費と動力性能の両取りにリーチを掛けたスズキに対して、ダイハツはシャシーダイナミクスの向上による上質感の追求に注力している。そんな彼らの最新モデルとなるキャストは、主に意匠的なところで購入を考える方が多いと思われるクルマだ。が、他社銘柄に対して何が決定的に違うかといえば、それは間違いなく「走り」だ。ユーザーが「軽だから」と諦めていたことやさげすんでいたことも、メーカーの気合いかんでここまで変えられる。軽の認識を改めるに、店頭で試乗する価値が大いにある一台といえるだろう。
<編集部注>各項目の採点は5点(★★★★★)が満点です。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
セールスが好調な「スズキ・ハスラー」への対抗馬をダイハツが投入するといううわさは以前からあったが、フタを開けてみればキャストはそれとは一線を画す、共通したボディーに専用のコスメティックやサスペンションなどをあしらい3つのテイストを表現したスペシャリティー系のモデルだった。アウターパネルのきせかえが可能という「コペン」のコンセプトもしかり、ダイハツは軽自動車という枠の中で、ユーザーの多様な嗜好(しこう)を効率よく満たすための商品企画を活発化させているのだろう。
そのバリエーションの内訳は、光輝系の装飾やレザー調表皮などでラグジュアリー性を強めたスタイル、専用チューニングのサスペンションに加え16インチのハイグリップタイヤをオプション設定するなどして運動性能を高めたスポーツ、そして30mm最低地上高を高めた足まわりや駆動力制御の活用で走破性を高めるなどしたアクティバとなる。この多面展開により、結果的にはハスラーのみならず「ホンダN-ONE」や「スズキ・アルト ターボRS」なども一手に受け止める陣容となったわけだ。
(グレード概要)
アクティバは2つのトリムラインと「スマートアシスト」の有無、ターボの有無などで計4グレードの設定となり、その全てでFF・4WD双方の選択が可能だ。取材車はスマートアシストが標準となるトップグレード「Gターボ“SA II”」のFFモデル。同じトリムラインでスマートアシストが付いた自然吸気(NA)のグレード「G“SA II”」対する価格差はほぼ10万円に抑えられる。
搭載される3気筒エンジンは同社の他銘柄にも多用されるKF型で、NAは52ps、ターボは64psを発生。組み合わせられるトランスミッションは全てCVTとなる。プラットフォームのベースは昨年発売の「ムーヴ」から展開する「Dモノコック」を採用しており、ホイールベースもムーヴと同じ。ただしルーフが低められている関係から、室内長は75mm短く、室内高は35mmムーヴよりも低い。
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【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★☆<4>
キャストのアーキテクチャーはムーヴのそれを活用していることもあり、操作系のレイアウトやしつらえも限りなくそれに近く、スイッチ類もすっきりまとめられている。天地に広く使えるハイト系パッケージの利を生かし、センターコンソールにどんと据わる空調の調整パネルなどは家のリモコンよりも使いやすいくらいだ。一方で有彩色のトリムを大胆に用いるなどして、可能な限りの非日常感を演出している。樹脂シボやスイッチ類の感触など、基本的な質感はムーヴと同様、軽自動車の中ではトップクラスといえるだろう。
(前席)……★★★★☆<4>
左右移動を可能とするベンチタイプの前席はもはや軽自動車の定番仕様だ。シートバックとインテグレートしたアームレストを備え、快適性を高めている。その高さもドア側の肘掛けときちんと高さが合わされていて運転姿勢は快適だ。掛け心地はムーヴと同様若干硬めで、ベンチタイプながら形状自体で体を包み込む工夫がなされているようだ。このタイプのシートとしては、サイドサポートはややフィット感がタイトかもしれない。
(後席)……★★★★☆<4>
室内長はムーヴより短くなっているが、そんなことは毛ほども気にさせないひざまわりスペース。181cmの筆者がドラポジを取った運転席の後ろに座っても、足を組めるほどだ。一度知ると戻れなくなる軽ハイトワゴンの本質的魅力はしっかり継承されている。室内高は35mm低められているが、着座状態で圧迫感を覚えることはないだろう。シートアレンジの関係もあり、バックレストがやや短く感じられるのはこの手のクルマでは致し方ないところだ。
(荷室)……★★★★☆<4>
足が組めるほどの前後席間を生かしたままの状態での荷室は、さすがに「手荷物や買い物袋をおさめればほぼ満杯かな」という程度。しかし後席は左右独立でスライドできるため、それを用いれば4人乗車の空間を生かしたまま、機内持ち込みのトローリーなどを積むことも可能だ。後席の背もたれは荷室側からもワンステップで倒すことが可能。後席座面が固定のため、2名乗車での荷室は完全フラットにはならないが、そうして生まれるラゲッジスペースは十二分に広い。ともあれ、この手の軽ハイトワゴンのラゲッジユーティリティーは極限という言葉がふさわしいほどに突き詰められている感がある。もはや軽枠内でこれ以上の空間を望むなら、鼻先に積まれる動力源が内燃機関からほかの何かに変わるしかないのではなかろうか。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★☆☆<3>
今回試乗したのはターボモデルだが、軽自動車のレベルとしてみればパワートレインには不満はないが特筆点もない。CVTからは、「巡航からのちょっとした加速程度なら、回転をむやみにあおらずトルクで押していこう」というマネジメントに腐心していることがうかがえるが、これ以上低回転域でのレスポンスを望むなら、大胆な軽量化をもくろむほかないだろう。パッケージもしかりだが、軽のエンジニアリングはブレークスルーを望むことが非常に難しいほどに煮詰まっている。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★<5>
現行ムーヴ以降、ダイハツの軽は走りのテイストが大きく変わった。それは劇的と言っても過言ではないほどで、直進性の高さやフラットなライドフィール、ロードホールディングの良さやコーナリングの安定感など、動的な質感は一部のコンパクトカーにも勝るほどだ。それだけにとどまらず、ロードノイズや大きなショックの入力音などといった低級音の封じ込めも、今までの軽のレベルとは一線を画している。
キャストはこの新しいアーキテクチャーを用いたモデルだが、普通車からのダウンサイザーうんぬんといろいろ言ってみたところで、その違いは普段から軽に慣れ親しんだドライバーが普通に乗ってみて、最も強く感じ取るのではないだろうか。それは静かだとか乗り心地がいいとか、あるいは舵(だ)の保持感がしっかりしてるとか曲がる時に不安がないとかスッときれいに止められるとか。そういう印象の大半は間違っていない。前脚のバンプストッパーをウレタン化したとか重要部位の板厚を50%増しにして剛性を高めたとか、そういう明快な改善点も多々あるが、それらは別に知らなくとも、クルマの隅々からじわじわにじむいいモノ感を直感的にリピーターに嗅ぎとってもらうことは重要なことだ。それほどの変化は結果として、ダウンサイジング系ユーザーの満足度とも符合する。
(燃費)……★★★☆☆<3>
軽にとって東京から箱根への往復はもはやアドベンチャーにあらずだが、それでも道のりをこなせば細かな縦横揺れ、外乱に対する身構え、それに騒音が絡んでの疲れを感じることもある。キャストはそれらがコンパクトカー並みのレベルに達しているから、300km程度のドライブはじゅうぶん日常の範疇(はんちゅう)だ。そして山道では、完全に軽離れしたロードホールディングとロールコントロールにより上質で安心感の高い走りが実現している。未試乗ながら、ハイグリップタイヤの装着も前提とする「スポーツ」は、恐らく相当な脚自慢になることが予想できる仕上がりだ。そういうドライブでの総合燃費は車載計でほぼ16km/リッターといったところ。背高ボディーのターボ車としては標準的だが、リッターカーに対する燃費的なメリットは小さい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏)
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テスト車のデータ
ダイハツ・キャスト アクティバGターボ“SA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1630mm
ホイールベース:2455mm
車重:840kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:27.0km/リッター(JC08モード)
価格:151万7400円/テスト車=190万2787円
オプション装備:ボディーカラー<フレッシュグリーンメタリック+デザインフィルムトップ>(4万3200円)/純正ナビ装着アップグレードパッケージ(2万1600円) ※以下、販売店オプション ワイドダイヤトーンサラウンドメモリーナビ(27万7754円)/ETC車載器(1万7280円)/カーペットマット<高機能タイプ、グレー>(2万5553円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1311km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:365.8km
使用燃料:22.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.5km/リッター(満タン法)/16.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。