第425回:ローマ教皇の新パレード車に、いすゞ採用!
2015.11.20 マッキナ あらモーダ!教皇は倹約家
2013年3月に就任したローマ教皇フランシスコは、質素をよしとすることで知られてきた。故郷アルゼンチンでの司教時代には、電車で移動する写真が残されている。
教皇就任後も、その倹約家ぶりが報じられてきた。イタリアの主要紙のひとつ『コリエッレ・デッラ・セーラ』によると、胸に提げる十字架は従来200~500ユーロの品が用いられていたが、フランシスコ教皇のものは56ユーロのスチール製だ。法衣(ほうえ)は彼の下で働く枢機卿用(600~800ユーロ)より安い約120ユーロという。昼ごはんは修道院内のセルフサービス食堂で済ませている。
イタリアで昨2014年の暮れに行われた「信頼できるものは何か?」との調査では、87%が「フランシスコ教皇」と答え、2位の「公安機関」(67%)、3位の「教育機関」(53%)を引き離した。その背景は、そうした教皇の姿勢への好感からであろう。
拡大 |
米国では「フィアット500L」も
クルマに関してもフランシスコ教皇は、簡素化を進めている。就任後、公用車40台を一気に廃止。クルマを奪われた高位聖職者たちの一部は「徒歩」に切り替えを余儀なくされた。また、自身が外国訪問のとき空港から移動するために使う車両も、シンプルになった。
例えば、2013年7月、教皇がリオデジャネイロを訪問したときは、フィアットのミニMPV「イデア」が用いられた。その模様を中継していたイタリアのテレビ放送によると、防弾装備は一切施されていないという。1960年代中盤以降、歴代教皇が、メルセデス・ベンツの「600プルマン」を主に使用していたのとは隔世の感がある。
バチカンのサン・ピエトロ大聖堂や訪問国のミサで、より多くの人々が教皇の姿を見られるようにと用いられている車両、通称「パーパモービル」もしかりだ。かつては、1981年に元教皇ヨハネ・パウロ2世が銃撃されたときに乗っていたことでも知られるフィアットの四輪駆動車「カンパニョーラ」がメインに用いられていた。後年はメルセデス・ベンツの「Gクラス」や「Mクラス」をベースにしたものがパーパモービルの主流となった。
しかし、フランシスコ教皇が就任すると、かつてのカンパニョーラを使用するとともに、各地でよりポピュラーなブランドを基にしたパーパモービルが使われるようになった。
例として、2015年9月の米国訪問では「ジープ・ラングラー」のパーパモービルが用いられた。また、移動用にも「フィアット500L」が用いられた。
「いすゞD-Max」が教皇車に!
そうしたなか、2015年11月初旬のことである。フランシスコ教皇がイタリア中部フィレンツェを訪問した。そのニュースに映るパーパモービルに思わず目を奪われてしまった。いすゞの「D-Max」をベースにしたものだ。
教皇のシートは紋章が刻まれた分厚いバックレスト付き。その後ろに現地の枢機卿などが座る2名分のバックレストのないシートが付いている。参考までに、べース車両はイタリアで「クルー」と呼ばれているダブルキャビン仕様である。
実はこのD-Max、2015年1月のフィリピン訪問ですでに使用されているが、今回初めてバチカンを抱くイタリア半島での登場となった。
歴史をひもとけば、前述のフィアット・カンパニョーラが採用される前、1976年からごく短期間、パーパモービルとして初めて「トヨタ・ランドクルーザー」(BJ40型)型が用いられているので、D-Maxが初の日本ブランドというわけではない。しかし久々の日本ブランドのパーパモビルであることはたしかだ。
いすゞのイタリアの現地法人ミディ・ヨーロッパはリリースで、「バチカンとのコラボレーションは、いすゞにとって、まさに誇りであり、フランシスコ教皇とともにあることは、素晴らしい実績」と興奮気味に報じている。
当日ボクは東京で仕事をしていて写真の入手がままならなかったので、今回は描き下ろしイラストでお許しいただこう。
同時に油断はできない。2014年8月の韓国訪問では、教皇本人の「いちばん小さなクルマを」との要望を受けるかたちでキアのミニSUV「ソウル」が、2015年6月にはバチカンで、キアと同じグループのヒュンダイ寄贈によるSUV「サンタフェ」オープン仕様が用いられているのだ。ライバルは少なくない。
しかし「質素」を強調すべく小さいクルマを選んでも、ここまで車種を増やしてしまうと、「これから維持費が大変で、いっそのことメルセデスGクラス1台のほうがよかったのでは?」 などと、イタリアでクルマ1台を維持するだけでヒーヒー言っているボクは心配してしまう。
まあ、何度クルマを変えても、教皇のナンバープレートは「SCV1」なのだから、少なくとも登録費用はなしだな、などと、どこまでも小市民的発想が抜けない筆者であった。
(文とイラスト=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ダイムラー、FCA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第944回:こんな自動車生活は最後かもしれない ―ある修理工場で考えたこと― 2026.1.15 いつもお世話になっている“街のクルマ屋さん”で、「シトロエン・メアリ」をさかなにクルマ談議に花が咲く。そんな生活を楽しめるのも、今が最後かもしれない。クルマを取り巻く環境の変化に感じた一抹の寂しさを、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第943回:スバルとマツダ、イタリアでの意外なステータス感 2026.1.8 日本では、数ある自動車メーカーのひとつといった感覚のスバルとマツダだが、実はイタリアでは、根強いファンを抱える“ひとつ上のブランド”となっていた! 現地在住の大矢アキオが、イタリアにおけるスバルとマツダのブランド力を語る。
-
第942回:「デメオ劇場」は続いていた! 前ルノーCEOの功績と近況 2025.12.25 長年にわたり欧州の自動車メーカーで辣腕(らつわん)を振るい、2025年9月に高級ブランドグループのCEOに転身したルカ・デメオ氏。読者諸氏のあいだでも親しまれていたであろう重鎮の近況を、ルノー時代の功績とともに、欧州在住の大矢アキオ氏が解説する。
-
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る 2025.12.18 デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達― 2025.12.11 イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。
