トヨタ・プリウス 開発者インタビュー
ど真ん中の性能を上げたい 2015.11.20 試乗記 トヨタ自動車製品企画本部
ZF チーフエンジニア
豊島浩二(とよしま こうじ)さん
いまや世界的な売れっ子となった、トヨタのハイブリッドカー「プリウス」。その最新型は、どんな考えに基づいて作られたのだろうか。開発責任者に話を聞いた。
目指したのは体操の内村航平
1997年に初代プリウスが誕生してからもう18年になる。今もハイブリッド車の代表的存在であり続けていることには感心する。4代目となるにあたって、プリウスは環境車であると同時にもうひとつの大きな使命を担うことになった。トヨタが進めようとしている次世代車開発の取り組み「Toyota New Global Architecture(TNGA)」が採用される最初のモデルなのだ。新型プリウスには将来のトヨタの姿が映しだされていることになる。主査の豊島浩二氏は、このプロジェクトにどう立ち向かっていったのか。
プリウスのDNAは燃費です。そこは、絶対に負けられない。そして、敵はハイブリッドだけということではまったくなくて、ダウンサイジングターボやクリーンディーゼルとも戦っていく必要があります。そのために、基本性能を高めていく。燃費だけではなくほかの競技も頑張らないと、総合優勝はできないんです。鉄棒だけずばぬけた能力を持っていれば鉄棒の金メダルは取れますが、プリウスは総合で勝ちたいんです。内村航平くんのようになりたい(笑)。
――燃費は今日の試乗ではわかりませんが、操縦性能は確かに見違えるほど変わりました。サーキットでもよく走りますね。
運転が好きな人は、そういう場所で楽しめますね。ただ、目指したのはスポーツカーではない。プリウスのお客さんは、安心・安全・快適を求めます。基本性能を上げると事故が減ります。予防安全だけでは、事故を防げません。クルマの基本性能を上げた上で予防安全があると、事故ゼロを目指すことができます。今度のプリウスは、普通のお客さんがより安全に運転できるように仕立てたつもりです。数字ではなく、乗ってみて安心できるかどうかを基準にしました。
「改善後」は「改善前」
「TNGAは、これが完成ではないんです。もっといいクルマ、そう言っている限り、永遠に進化させなきゃいけない」
これは「TNGA、46のこと」というサイトで佐藤浩市が演じる大西 将TNGAプロジェクトリーダーが語っていた言葉だ。豊島さんも同じようなことを話す。
――TNGAの全体像の中で、プリウスが担う役割はどういったものなんでしょう。
TNGAとプリウスの開発は同時進行です。TNGAのカバーレンジの中で、プリウスはど真ん中にいます。大きさでも価格帯でも、ちょうど真ん中なんですね。だから、精いっぱい背伸びをしました。ど真ん中の性能をできるだけ上げておきたかった。そうすれば、将来これをベースにみんなが変えていってくれることになります。
――先のことはまだ決まっていない?
TNGAが目指すのは、社長の言う「もっといいクルマづくり」ですから。「改善後」は「改善前」なんです。「もっと」の意味はそれです。だから、今回はあくまで1号車で、完成形ではありません。今回はTNGAの走りではなくて、プリウスの走りです。TNGAというのは、もっと大きな枠です。あと10年、20年たってから、TNGAのプラットフォームは完成するんです。
――プリウスは世界中で販売されますが、いろいろなマーケットを意識していますか?
プリウスは、例えば「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の乗り味とは違いますよね。いってみれば日本料理のようなもので、ヨーロッパの料理を作ろうとはしていません。アメリカにもヨーロッパにも、日本料理が好きな人がいるかもしれないですから。
――道路環境も地域によって異なります。
すべてに合わせようとすると、全部どっちつかずになってしまう可能性もあります。日本独自のパワートレインを搭載したプリウスのこういう走りはどうですか、と提案しているわけです。ハイブリッドのメリットというのは、駆けだしがスムーズで軽やかなこと。ステアリングがマシンのようにクイックなのではなくて、すっすっと軽やかにしなやかに曲がるという感性の中でずっとやってました。カチンカチンという硬い感触は、プリウスには合わないと思います。日常でラクに運転できることを求められるクルマなんです。
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すべてのクルマがベンチマーク
――資料に「これまでのプリウスの弱みは走りの楽しさと乗り心地」だと書いてあったのには驚きました。
ええ、弱みです。現行型はフッとハンドルを切った時に変な動きをする。それをなくさなければいけません。弱点を克服していくうちに、クルマとともに自分も成長していきました。もうちょっと安心に運転したいなとか、もうちょっと快適に運転したいなとか、欲が出てきます。
――具体的にベンチマークにしたクルマはありますか?
いろいろありますよ。ゴルフはもちろん、「フォード・フォーカス」も調べました。マツダさんのクルマも研究しましたよ。すべてのクルマがベンチマークなんです。それでこのクルマのここに勝とうということで努力して、勝ったところもあれば追いついたところもあります。ここはちょっと負けているかなというところもありますが、総合的にプリウスらしさを出せるかどうかを議論しました。何かを極端にするのではなくて、バランスを考える。その結果としての内村航平なんです。
――もうひとつの弱みは、スタイリングと書いてありました。新型のリアスタイルはかなり斬新ですね。
そうですか? ずっと見ていて慣れてしまったのでそういう感じがしなくなりました。確かにリアにはセクシーさがあって、前に回った瞬間のバランスがまさしくハイブリッドなんです。クルマを欲しいと思うには、まずパッと見て心に響くかどうかが大切です。そして、ドアを開けて閉めた時の静的な質感に触れ、初めて運転したいなと思う。まずは外見でハッと思わせることが大切です。人によっては、顔の嫌いなところもあると思うんですよ。でも、運転してワクワクドキドキしていれば、長く持っているうちにそういうところもかわいく思えてくるんじゃないかな。
――インテリアもかなり変わりました。
難しかったのは、外観よりインテリアですね。奇抜にしすぎると使いにくくなるし、長いこと乗っているとオモチャのように感じられてしまいます。人に優しく感じられて、でも古めかしくはない。センターコンソールの形状からは、開放感を感じてもらえると思います。大胆な外観と人に優しい内装はセットになっていて、これもハイブリッドなんです。
ハイブリッド技術の底上げをする役割
――今回からリチウム電池も採用していますが、乗り比べても違いはよくわかりませんでした。
性能自体は一緒なんですよ。信頼性や耐久性も含めて一緒です。ただ、リチウムのほうが15kgほど軽いんですね。上のほうのグレードには装備がいっぱいついて重くなります。その分をリチウムの軽さで補えば、燃費を同じにできます。それから、法人や個人タクシーなどのお客さんで、燃費を超重視する方が1割くらいいらっしゃいます。そういうお客さんのためにもリチウム電池を使ったグレードを用意しています。
――ニッケル水素電池はまだ使い続けるんですか?
まだまだニッケル水素の時代は続くと思います。まだ枯れた技術ではなくて、17年の歴史がありますから。基本は熟成されたニッケル水素電池で、これも技術開発をどんどんしていかなければいけません。リチウムはこれからの電池で、これも手の内化します。2つを並行してやっていくのが、プリウスのトヨタの中での役割だと思っています。ハイブリッド技術の底上げをしていくという目的がありますからね。
――4WDを採用したのも、プリウスとしては初めてですね。
安心安全というのは、雪国の人でも一緒であるべきですよね。環境車のプリウスをこれまで買えなかった人にも買ってほしいという考えから4WDを追加しました。リアには誘導モーターを使っています。普通は永久磁石を使いますが、磁石の中で鉄心を回すと抵抗となって燃費が悪くなる。電気を流さないと磁石にならない誘導モーターを使えば、使わない時は重りが回っているだけという状態になります。それで新規開発してもらいました。
――弱みのないクルマになりましたか?
見て欲しいと思ってもらって、乗ってみてやっぱり欲しいと思ってもらって、買っていただいてずっと乗っていて、最後にガソリンを入れる時に「あ、これプリウスだったんだ」と思ってもらえればいい。それを目指したんです。次のステージはどこまで行くんだろう、と思っています。
「僕自身、これからのトヨタに期待してます。これはただのプレッシャーです(笑)。ここまでやったんだから、驚くようなクルマ、作っていきたいです。まずは、プリウスからですね」
そう語ったのは、大西 将=佐藤浩市。男前度では少しだけ及ばないが、考えていることは豊島さんも同じだ。
(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=峰 昌宏、トヨタ自動車、webCG)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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