インフィニティQ30プレミアム(FF/7AT)/Q30スポーツ(FF/7AT)
協業が生んだ新しい個性 2015.12.16 試乗記 日産が海外で展開するプレミアムブランド、インフィニティの最新モデル「Q30」。メルセデスとの協業で生まれた、新しいCセグメントハッチバックモデルの実力を試す。日産やホンダが抱える悩み
日産のホームページで「スカイライン」や「フーガ」の車種別情報に飛んでみると、「GT-R」や「シーマ」のそれとはデザインが異なっていることに気づかれるだろう。具体的にはページ左上にある赤地が敷かれたエンブレムが見当たらず、黒帯に英文字で事務的にNISSAN MOTOR CORPORATIONと書かれている。ちなみにこれらの両車の鼻先に据えられるのは、ご存じの通りインフィニティのエンブレムだ。もしかして可能な限り日産臭を消そうとしてる? とうがった見方をするのは僕だけではないだろう。
世界の50カ国で展開するインフィニティブランド。そのモデルを日本市場でどう扱うか。日産にとってこれは無視できない課題だ。訪日外国人の数は増える一方ということは、彼らが同じ商品に2つの名前が存在する矛盾を目の当たりにする機会もそれだけ増えるということになる。いや、これほど情報が広く瞬時に行き渡る世の中であれば、日本に来ずともこんな状況が広く知られているかもしれない。
もちろん、これから日本にインフィニティブランドを導入するにしても、レクサスのような独立店舗展開のリスクは背負えないだろう。かといって現状の曖昧な状態を続けることが正しいとはいえない。同種の問題は、アキュラの「NSX」や「RLX(日本名:レジェンド)」を日本で販売するホンダも抱えるわけだが、人や物や情報の移動が劇的にフラット&スピーディーになったことで、図らずも今まで先送りにしてきたことの影響が大きくなってしまった格好だ。
メルセデスとの提携のたまもの
それゆえか、インフィニティの最新モデルであるこのQ30も、現状では日本導入の予定は定まっていないという。一方で、日産の国内販売のラインナップを見れば、こういうストレートなCセグメント系のモデルは「リーフ」しか見当たらない。例えばリタイア層の拡大や生活のミニマライズ化、女性のクルマに対する素養の向上や要求の高度化など、巷間(こうかん)言われるトレンドに対して、日産の商品群は脆弱(ぜいじゃく)である一方、Q30はそこをバシッと埋める存在に映る。
その思いは、実際に試乗してみるとさらに深まることになるわけだが、その前にQ30の成り立ちについて記しておこう。
Q30のメカニカルなパートに深く関係しているのはメルセデス・ベンツ……と聞いて、ピンとくる方も多いことだろう。ルノー日産とダイムラーとは幅広い業務提携関係にあり、「ルノー・カングー」と「メルセデス・ベンツ・シタン」のようなわかりやすいバッジエンジニアリングのみならず、パワートレインの相互供給やメキシコの新工場での共同生産など、その内容もより深いものとなっている。両社にとって初の共同開発となる「スマート・フォーフォー」と「ルノー・トゥインゴ」は、ここ日本でも間もなく両車が出そろうことになるはずだ。
その一連の提携内容の中で日産は、インフィニティブランドのラインナップモデルの一部アーキテクチャーを、メルセデスと共有するという方針を採っている。既に「Q50」=スカイラインの2リッターモデルにはメルセデスの直4直噴ターボが搭載されているが、Q30はそこより一歩踏み込んで、MFAプラットフォームを軸とする「Aクラス」系の横置きFF系アーキテクチャーを採用。搭載するエンジンもメルセデス製となっている。ちなみにQ30のホイールベースは「GLAクラス」と同じ2700mm。くだんの新工場の立地が北米至近であることを鑑みれば、そこで生産される車両はインフィニティがこのQ30と先日発表されたクロスオーバーの「QX30」、メルセデス側が北米市場で人気の「CLAクラス」とGLAクラスではと推される。ちなみに現在Q30を作っているのは、リーフなども生産するイギリスのサンダーランド工場だ。
日本的な美観や「おもてなし」を表現
Q30に搭載されるエンジンはガソリンが1.6リッターと2リッターの4気筒直噴ターボ、ディーゼルが1.5リッターと2.2リッターの同じく4気筒直噴ターボとなる。いずれも最新のAクラスなどに搭載されるメルセデスのユニットで、組み合わせられるトランスミッションも6段MTもしくは7段DCTだ。最もパワフルなガソリンの2リッターモデルには、別立てのフロントアクスルと15mmダウンのスポーツサスペンションが採用されるほか、一部モデルにはマルチプレートカップリングを電子制御するフルタイム4WDが用意されるなど、この辺りもメルセデスのエンジニアリングに準拠する。つまるところ、日産側が主に手がけたのはキャリブレーションではないかとツッコまれると、返す言葉がないのが正直なところだろう。
その代わり、スケールメリットを生かした競争力はまず静的品質に表れている。Q30の内外装のクオリティーは相当に高く、その道のリーダーであるアウディと比しても恐らく見劣りするものではなさそうだ。
エクステリアではインバースが幾面も折り重なる造形の張りが美しく、そして結果的にできた全体形状からは「和」も感じられる。展示されていた車両の表面を他国の記者たちが無意識のうちになでていく光景に何度も出くわしたのは、彼らも同様の思いを抱いたからだと思う。
スイッチ類やメーター類などに“元ネタ”との関連性はうかがえるが、インテリアのしつらえもメルセデス以上に細かなところまで技巧を凝らしている。シートやパッドのクッション材は表層のストロークは柔らかく、沈み込むほどにコシが持たされたタッチで、その感触は欧州系ブランドではなく、どことなくレクサスを思い起こさせるものだ。勝手に推すれば、恐らくインフィニティの目指す上質感の種別はレクサスと同じようなところにあり、その背景には日本的な美観やもてなしの具現という共通の思いがあるのではないだろうか。
ドイツ車のような、フランス車のような
試乗がかなったのは主に2リッターターボと2.2リッターディーゼルのモデルだったが、個性という点で際立っていたのは標準的な足まわりの2.2リッターディーゼルの側だった。
周囲の流れに合わせて普通に乗る限り、そのドライブフィールは総じてゆったりしていて、特に微小な操作に対する応答感は拍子抜けするほどおおらかだ。そして脚の動きもスムーズで、ロール量は気持ち多めながら四肢が路面と濃密にコンタクトしていることがしっかり伝わってくる。乗り心地やロードノイズなど、快適面での仕上げも丁寧で、そのライド感はこれまでの日産車とも、あるいは元ネタともいえるメルセデスとも雰囲気が異なる。強いて言えばフランス車のタッチに近いとも思えるが、しかるべき場面で飛ばしてみると、高いスタビリティーやフラットなボディーコントロールはやはりドイツ車の側に寄っている。その乗り味は実に微妙なはざまを探りながらも、結果的にはゴリゴリのダイナミクスからは一線を画す、インフィニティの優しさを具現しているといえるだろう。対すればスポーツサスで固められた2リッターターボの乗り味は、素早い応答性や確度の高さがうんと際立てられる反面、よくあるスポーツモデルといった風情で個性には乏しい。
もはやプラットフォームの共有は差別化の妨げにはならない。今までにもそんな例をいくつかは目にしてきた。が、それが個性の表現にまで及ぶと、完璧とはいかない事例も多い。Q30は結果的に他車とは違う、そして自らに見合う個性、つまりデザインのキーワードとして掲げられてきた「艶(あで)やか」さを形でも走りでも上手に表現できている。現実として、プレミアムブランドの価値は物の良しあしのみで測れるものではない。が、インフィニティがこれほど成熟したプロダクトを用意できているという実態を知るにつけ、それに触れる機会がない日本市場の現況を、実にもったいないとは思う。
(文=渡辺敏史/写真=日産自動車)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
インフィニティQ30プレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1805×1495mm
ホイールベース:2700mm
車重:1522kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:170ps(125kW)/3400-4000rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1400-3400rpm
タイヤ:(前)235/50R18/(後)235/50R18
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
インフィニティQ30スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1805×1475mm
ホイールベース:2700mm
車重:1477kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)235/45R19/(後)235/45R19
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
NEW
OEM車で自社製品らしさを出すために、多田さんだったら何をする?
2026.8.25あの多田哲哉のクルマQ&A他メーカーが開発したクルマを、自社製品として別の名前でユーザーに供給するOEM車。エンジニアの工夫次第で、オリジナルとは異なる独自の個性を出すことはできるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.8.25試乗記BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】
2026.8.25試乗記カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。 -
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2026.8.24試乗記スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。 -
デビュー4年でどう変わる? 最新型「トヨタ・クラウン クロスオーバー」の詳細を予測する
2026.8.24デイリーコラム2022年7月のデビューから4年がたち、仕様変更が予告された「トヨタ・クラウン クロスオーバー」。では、どこがどう変わるのか? 最新型の発売を前に、さまざまな角度からポイントを予測してみよう。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。