プジョー208GTi(FF/6MT)
家族で使えるホットハッチ 2016.01.28 試乗記 エンジンの出力向上や、機能・装備の強化、エクステリアデザインの変更など、多岐にわたる改良を受けた「プジョー208GTi」に試乗。その進化の度合いを確かめた。“3ペダル”もセリングポイント
208きってのホットモデルがGTiである。30年前、日本でも人気の高かった「205GTi」の血をひくホットハッチプジョーの最新作だ。
2012年デビューの208は、大がかりなフェイスリフトを受けて、昨秋、新シリーズに切り替わった。日本仕様の目玉は、量販モデルのパワーユニットが直噴の新型3気筒1.2リッターターボ+6段ATに換装されたこと。
それに比べるとGTiの変更は控えめだが、直噴1.6リッター4気筒ターボの最高出力は200psから208psへ、最大トルクは28.0kgmから30.6kgmへと向上した。その一方、アイドリングストップ機構やアクティブシティーブレーキを標準装備するなど、環境対策や安全性能もアップデートされている。
2015年、プジョーは日本で5906台を販売し、外国メーカー車の登録ランキングで10位につけた。続く11位はルノー(5082台)。日本でもフランスのビッグ2が激しい(?)争いを繰り広げているわけだが、208GTiのガチンコライバルも、ルノーの「ルーテシア ルノースポール」だろう。
大きな違いは、3ペダルの208GTiに対して、ルーテシアが2ペダルであること。ルノーは現行世代のルーテシア ルノースポールにデュアルクラッチ自動MTを搭載し、クラッチペダル付きのMTをやめてしまった。つまり、208GTiの売りのひとつは、コンベンショナルなMTであるということにある。
エンジンもトランスミッションも気持ちいい
208GTiの前身は156psだった「GT」である。BMWとの共同開発による直噴1.6リッターターボをチップチューンと過給圧コントロールでスープアップしたのがGTiであり、この最新型も1200kgという車重はGTのころと同一である。それでプラス52psものパワーアップを果たしているのだから、速いのは当然だ。
それよりもむしろ感心させられるのは、これだけパワーを絞り出しても、なめらかさを失っていないことだ。レブリミットは6600rpmと高くはないが、引っ張れば実に気持ちよく車速が伸びる。常用域でははじけるようにレスポンシブで、ターボっぽさを感じさせない。排気音も含めて、エンジンは無闇(むやみ)にうるさくない。非常に気持ちのいいテンロクターボである。
アルミシフトノブの6段MTも文句なしだ。シフトタッチは軽くて、柔らかい。クラッチペダルの軽さも200ps時代と変わっていない。
ギア比はユニークで、100km/h時に2100rpmまで回転を下げてくれるトップギアを持つ一方、2速はレブリミットまで回すと5リッター級のスーパーカー並みに114km/hまで伸びる。このセカンドギアの加速が痛快きわまる。
峠道を走りたくなる
パリッとした座り心地のシートはナッパレザーとファブリックの混成。垂直方向につぶされた楕円(だえん)の小径革巻きステアリングホイールには、12時の位置にセンターマークが入る。GTiの専用装備が盛り込まれたタイトなコックピットは、208のなかでも一番の走り屋系だ。
電動パワーステアリングもGTiの美点のひとつである。据え切りや低速域では軽く、高速道路では知らぬ間に重くなっている。直進安定性もすばらしい。地の果てまで走りたくなるスタビリティーの高さは、フレンチFF車の伝統だ。
でも、箱根で撮影を終えてからは中央道を使わず、山沿いの一般道で帰った。208GTiはいつもより余計に峠を越えたくなるクルマである。
足まわりの印象は以前と変わらない。オーバー200psを受け止めるサスペンションはもちろん硬めだが、硬過ぎない。ワインディングロードで大入力を加えると、むしろしなやかだ。
新デザインの17インチホイールに履くタイヤは、ドイツ製の「ミシュラン・パイロット エグザルト」。このタイヤも乗り心地のよさに貢献していると思われた。タイヤといえば、フルサイズのスペアタイヤを装備することも208GTiの評価点に加えたい。
課題はインフォテインメントシステム
300kmあまりを走って、新型は208GTiの完成形だと感じた。
これだけのパワー・トゥ・ウェイトレシオを誇っても、レーシングライクなたけだけしさはない。肩を怒らせたところがない。依然としてクルマ全体のなめらかさに感心する。
なめらかだから、ゴリゴリ飛ばさなくたって楽しいし、心地いい。フツーにファミリーカーとして使えるホットハッチであるところが、208GTiの芸風である。
ひとつ改善を望みたいのは、ダッシュボード中央にあるタッチスクリーン式のインフォテインメントシステムだ。売り物のオリジナルAVシステムなのだが、使いやすいとは言えない。
カーナビとの協調がうまくいっていないのか、ナビの音声案内が流れるたびに、ミュート音量ながらいちいちラジオがついてしまう。同じシステムを搭載するシトロエンもそうである。世界14カ国語に対応していながら、日本語表示がないというのがそもそも困る。「206」のころは年間1万台を超えたというかつてのプジョー人気を取り戻すためにも、インポーターの努力に期待したい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
プジョー208GTi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3975×1740×1470mm
ホイールベース:2540mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:208ps(153kW)/6000rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(ミシュラン・パイロット エグザルトPE2)
燃費:15.6km/リッター(JC08モード)
価格:322万円/テスト車=346万2460円
オプション装備:メタリックペイント(4万8600円)/208専用SDカードナビゲーション(18万3600円)/ETC車載器(1万260円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:885km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:367.0km
使用燃料:33.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.9km/リッター(満タン法)/11.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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