ジープ・レネゲード トレイルホーク(4WD/9AT)
いまどきのJeep事情 2016.04.18 試乗記 アーバンサイズ。アドベンチャークラス。がテーマの最新ジープ、「レネゲード トレイルホーク」の出来栄えは? 標準装着タイヤ「グッドイヤー・ベクター4シーズンズ」の印象と合わせてリポートする。どうせ買うなら……
節約志向が続くご時世とはいえ、ことクルマに関しては理性的な買い物ができないのは、筆者の場合、身軽な独身時代から変わっていない。「どうせ買うなら……」「せっかくだから……」と、ついつい見積額が増えてしまうのはいつものことだ。
だから、コンパクトSUVを選ぶなら、価格が手ごろで低燃費のFFでも自分の生活には十分とわかっていながら、FFを買って「やっぱり4WDにしておけばよかったかなぁ」とずっともやもやするくらいなら、多少無理をしてでもすっきりするほうがいい。その結果、「どうせ買うなら4WD」ということになる。
だから、ジープブランド初のコンパクトSUV、レネゲードから1台選ぶとしたら、迷うことなく4WDのトレイルホークを指名するだろう。
ご存じのとおり、このレネゲードは同じグループのフィアットから発売された「500X」の兄弟車で、プラットフォームやパワートレインなど共通の部分が多い。一方、エクステリアデザインはそれぞれ個性的で、バッジがなくてもどこのブランドのクルマなのかひと目でわかる。
さらに、クロスオーバーとSUVというすみ分けもあって、500Xとレネゲードとで迷う人は少ないに違いない。4WDに限れば、搭載されるエンジンが異なるが、たぶん私は直感でレネゲードを選んでしまうと思う。
9ATには気になるところも
500Xが全車に1.4リッター直列4気筒ターボを採用するのに対し、レネゲードでは4WDのトレイルホークだけに2.4リッターの自然吸気ユニットが搭載されている。9段オートマチックとオンデマンド4WDが組み合わされるのは「500Xクロスプラス」と共通である。
さっそく、レネゲード トレイルホークの運転席に陣取ると、エクステリア同様、そのインテリアを見ているだけで楽しい気持ちになれるのがいい。黒を基調とした内装だから、レッドのステッチやパネルがすぐに目に飛び込んでくる。メーターやシートの表皮などにも遊び心があり、それでいて、オモチャっぽさや安っぽさとは無縁なのもうれしいところだ。
さらにこのクルマの印象を良くするのがその走り。想像以上にエンジンに余裕があり、挙動にも落ち着きがあるからだ。自然吸気の2.4リッターエンジンは、低回転から十分なトルクがあり、街中を走らせるのはお手のもの。一方、高速道路では法定速度内でも9速に入り、100km/hならわずか1500rpmで巡航が可能。追い越しなどの場面では、最大トルクを発生する3900rpmを超えてもなお加速が衰えないから、躊躇(ちゅうちょ)せずに追い越しレーンに車線変更ができる。
低速でアクセルペダルを踏み込んだときに多少ギクシャクするのが気になるものの、9段のシフトに煩雑さはなく、デュアルクラッチギアボックスに比べて緩い感じもSUVにはお似合いだ。
安心をプラスするアイテム
いまどきのSUVらしく、オンロードの挙動にもそつがない。乗り心地はソフトすぎず、ハードすぎずと、良い意味でSUVらしくない。高速では、フラット感はまずまずで、スタビリティーも申し分ないから、乗用車と変わらぬ感覚で運転することが可能だ。
ところで、このレネゲード トレイルホークには、グッドイヤーのオールシーズンタイヤ「ベクター4シーズンズ」が標準装着されている。サマータイヤとしての性能に加えて、「M+S」(マッド&スノー)にも対応できるのが特徴だ。
舗装路では、路面とのコンタクトが多少ザラッとしているが、剛性感は高く、乗用車用のサマータイヤとさほど変わらぬ印象。また、ロードノイズが目立つということもなかった。土砂降りのなかでも、安心してステアリングを握ることができるのもベクター4シーズンズの見どころのひとつで、ウエットが苦手のスタッドレスタイヤとは大きく異なるところだ。
残念ながら今回は泥濘(でいねい)路を試すことはできなかったが、4WDのレネゲード トレイルホークとの組み合わせなら、アウトドアシーンでの安心感は高まるはずだ。
では、冬用タイヤとしてはどれほどの実力を持つのだろう?
雪道もOK!
ベクター4シーズンズは、高速道路で冬用タイヤ規制となったときでも通行が可能で、全車チェーン規制にならないかぎりは、足止めを食らう心配がない。
レネゲード トレイルホークではないが、別のクルマとの組み合わせで雪道を走ってみると、スタッドレスタイヤに比べてグリップ感や安定性の面で多少不満はあるものの、サマータイヤでは到底走行できないような圧雪路でも、「走る」「曲がる」「止まる」の性能は十分に合格点を与えられるレベル。一方、凍結路のグリップはスタッドレスタイヤには一歩及ばず、慎重な運転が求められる。
それでも、突然の雪に見舞われても慌てずにすむし、ときどきスキー場に行く程度ならこの性能で十分だろう。少なくとも非降雪地域に住む人にとっては、このベクター4シーズンズはスタッドレスタイヤに代わる選択肢になる。しかも、春になって雪の心配がなくなっても、そのまま安心して履き続けられるので、面倒な交換も不要であり、スタッドレスタイヤの保管場所で頭を悩ませることもない。
4WDとオールシーズンタイヤにより安心感が高まり、行動範囲も広がるレネゲード トレイルホーク。私のように、「SUVをどうせ買うなら、見た目だけでなく、安心も手に入れたい」と思うタイプには、このパッケージは実に魅力的である。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ジープ・レネゲード トレイルホーク
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1725mm
ホイールベース:2570mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 SOHC 16バルブ
トランスミッション:9段AT
最高出力:175ps(129kW)/6400rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/3900rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96V M+S/(後)215/60R17 96V M+S(グッドイヤー・ベクター4シーズンズ)
燃費:10.4km/リッター(JC08モード)
価格:345万6000円/テスト車=378万9288円
オプション装備:My Skyオープンエアルーフ(16万2000円)/カーナビゲーションシステム(11万8800円)/エクステリアガーニッシュセット(1万8144円)/ETC車載器(1万584円)/フロアマット(2万3760円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1万5122km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:359.3km
使用燃料:41.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:8.6km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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