第469回:数字は語る! いまイタリアで売れているのはこのクルマ
2016.09.30 マッキナ あらモーダ!イタリアも夏はクルマが売れない!?
イタリアのほとんどの学校では、9月15日から新年度がスタートした。6月中旬から始まった3カ月近い夏休みの終わりである。それを機会に、お父さんやお母さんたちの生活リズムも、通常モードへと切り変わりつつある。
日本で「ニッパチ」という言葉があるように、イタリアでも8月は一般的にクルマが売れない月である。
参考までに数値を示すと、2016年6月の新車登録台数は16万5208台だったのに対し、同年8月は7万1576台にとどまった(以下、データはUNRAE調べ)。
消費者は、マインドがお休みモードにスイッチしてしまうのと同時に、遊びの予算もとっておく必要がある。「クルマを買おうかな」などという気分には到底ならないのである。
しかし2016年8月は、前年比でみると、なんと20.1%ものプラスとなった。本稿執筆を機会に、イタリアでドイツ系プレミアムブランドを扱う熟練セールスマンに話を聞くと、「その理由としては、一時期よりもイタリア人が、仕事の確保と安定継続に安堵(あんど)感を得たことがある」と即座に答えてくれた。またFCA系ディーラーの若手セールスマンは、「カンパニーカー市場の成長と、その入れ替えも市場をけん引している」と話す。
11年目の「プント」健闘! ダチアも人気急上昇
2016年8月のイタリア国内におけるセールストップ2は、
1位 フィアット・パンダ(セグメントA):4641台
2位 ランチア・イプシロン(セグメントB):2569台
と、人気の2車種が不動の地位を占めた。
一方、3位を見ると、2015年12月に発売されたトルコ工場製のセグメントCカー「フィアット・ティーポ」が、早くも3位(2169台)にランクインしている。前述の若手セールスマンは、国内市場におけるFCAのすぐれた業績について触れ、「ティーポと『アルファ・ロメオ・ジュリア』の好調が貢献している」と明かした。
別の意味で面白いのは、デビュー11年になる「フィアット・プント」が6位にランクしていることだ。売れ筋を常時20~30台単位で大量仕入れするのを得意としているあるディーラーでは、先日ボクが訪れてみたときは、スタンダードな白のプントが5台並んで売られていた。
3代目となる現行のプントが「グランデプント」として発売された当初は、「やっぱり前のがいい」という市場の声を受けて、2代目モデルがしばらく継続販売されていたものだ。だが時は流れて、今や3代目が定番商品となっている。
一方、ブランド別統計でイタリアのメディアを驚かせたのは、ルノーのサブブランドであるダチアだ。その登録台数2504台。フィアットの1万4692台には遠く及ばないものの、前年比でなんと84.7%のプラスだ。総登録台数ではトヨタに肉薄し、すでにランチアを上回っている。
市場投入時からダチアブランドを動向ウオッチングしてきた筆者がみるに、「クルマは趣味の対象ではなく、移動手段」というユーザーが増えたことと、ダチア自体の商品性が向上したことが背景にあるに違いない。
ハイブリッドはトヨタの独壇場
統計資料の詳細に目を通していくと、さらに面白いイタリア事情が見えてくる。
ディーゼル車に限った場合のトップ3は、以下の通り。
1位 フィアット500L:1569台
2位 フィアット500X:1542台
2位 ジープ・レネゲード:1542台
やはり、MPV/SUV系は、燃費重視のユーザーが多いことがわかる。
燃費といえば、ハイブリッド車である。そこはトヨタ/レクサスの独壇場だ。ただし、その1位は「プリウス」かと思いきや、「ヤリス」(日本名「ヴィッツ」)の640台である。やはり、イタリアではよりコンパクトなクルマが人々の心をつかみやすい。
以下、
2位 トヨタ・オーリス:298台
3位 トヨタRAV4:107台
が名を連ね、同じく3位に「レクサスNX」(107台)、さらにプリウス(39台)と続く。
一方で、長年イタリア式のエコカーであったガス仕様車は、ハイブリッド車に取って代わられる日も近いかもしれない。LPG車1位である「オペル・コルサ」は461台、天然ガス車の1位のフィアット・パンダも367台にとどまる。
ヨーロッパ随一の充填(じゅうてん)所数を背景に隆盛を誇ったイタリアのLPG車/天然ガス車だが、やはり普通のガソリンスタンドを手軽に利用でき、車載ガスタンクの定期点検も必要ないハイブリッド車にはかなわない。
ちなみに電気自動車の部は、
1位 テスラ・モデルS:18台
2位 日産リーフ:9台
3位 BMW i3:8台
であった。
気になる高級車の一番人気は……
「夏でもクルマが売れるようになった背景には、人々が仕事の確保や安定継続により安堵感を得たことがある」と前述したものの、ボディータイプに“遊び”を求めるユーザーは、まだ少ない。
代表例がカブリオレだ。
1位 スマート・フォーツーカブリオ:78台
2位 フィアット124スパイダー:57台
3位 マツダMX-5(ロードスター):28台
と、いずれもふた桁台である。
その一方で興味深いのは、ラグジュアリー系を多く含むFセグメントの部である。
2016年8月は、「マセラティ・ギブリ」が45台を記録し、「ポルシェ911」(34台)や「メルセデス・ベンツSクラス」(21台)を引き離している。このカテゴリーは、ここ10年以上にわたりドイツ系が圧倒的な勢力を誇っていただけに、ちょっとした地殻変動といえる。たしかに、アウトストラーダで――毎日とはいわないが――ギブリを見かけるようになったのはたしかだ。
日本ではなじみのないブランドも地道に頑張っている。インドのマヒンドラは10台、中国奇瑞汽車製モデルをイタリア南部モリーゼでノックダウン生産し、イタリア製として販売しているdrモーターは34台。さらに、同じ中国の長城汽車(グレートウォール)に至っては54台も登録されている。
かつてイタリアでは、旧ソビエト製の「ラーダ・ニーヴァ」やUAZ、ルーマニアのAROといったオフロードカーは、価格の安さとスパルタンさを求める農村部の住民やアウトドア派ユーザーに根強い人気があった。それらが経年による劣化や、強化される排ガス規制で乗りにくくなった今日、代わりに新興国製のモデルがユーザーをうまく取り込んでいる。
おっと、大切なイタリアンブランドを忘れていた。フェラーリは31台、ランボルギーニは1台であった。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、FCA、ルノー)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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