第1回:武蔵野にヤツがやって来た
2016.11.04 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
東京の片隅でつつましやかに暮らすwebCG編集部員ほったが、何を血迷ったか排気量8リッターのアメリカンマッスルカーを購入! 清水の舞台からダイブしたその身に降りかかる“あれやこれや”を赤裸々に語る、笑いと涙(?)の実体験リポート、いざ開幕。
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なんだか奥歯がむずむずする
区画の奥まった位置にあるわが賃貸アパートから、のそのそと表の路地に出る。そこから右を向くと五日市街道、左を向くと、旧中島飛行機の工場跡地を利用した、公園の並木が見える。
ついでに、駐車場に鎮座する黒いクルマの鼻先も。
みょーにペッタンコで、何を考えているんだかイマイチ分からない表情をしたヤツである。
「朝起きてカーテンを開けて、駐車場にスポーツカーがあったらそれだけでうれしいでしょう?」
そんなことを話していたのは、たしか「S660」の開発を担ったホンダの椋本さんだったか。その言葉、今ならわかります。わかりますが、私の場合、単にうれしいだけではないのですよ。なんと申しますか、『未来少年コナン』(宮崎 駿監督の古い長編アニメ)のダイス風に言うところの、「俺は、とんでもない事をしちまったんじゃないかな!」的な思いがわいてきて、奥歯がかゆくなるのです。
半年前まで、愛くるしい「ローバー・ミニ」がつつましやかに暮らしていた駐車場にデーンと居座るヤツの名は、「ダッジ・バイパー」。ビッグ3の端くれの、クライスラーが造っていた2座のスポーツカーである。日本ではマイナーな“アメ車”というジャンルのなかでも、特にマイナーなダッジのクルマなわけで、読者諸兄姉の中には「何それ?」という方もおられるかもしれない。そんな皆さまにも、以下の事実を伝えればバイパーのキャラクターを理解していただけることだろう。
このクルマね、排気量が8リッターあるんすよ。
お買い得なのか、高いのか
乗車定員2名、排気量8リッターという額面だけ見たら、「トラックですか?」と間違われること請け合いのバイパーだが、なんとこのクルマ、ダイムラー・クライスラー日本の時代にわが国でも正規販売されたことがあるのだとか。中古車情報サイト『Goo-net』の車種紹介ページを見ると、当時の公称スペックは最高出力450ps、最大トルク67.7kgmとある。
同時期のよそさまのモデルを検索すると、ポルシェの「911 GT2」が462psの63.2kgm、フェラーリの「550マラネロ」が485psの57.0kgm。スーパーカーだとかエキゾチックカーだとかの定義は人それぞれにございましょうが、取りあえずはバイパーも、そうしたお歴々とともに“スゴいクルマ道場”の名札掛けに名を連ねていたことは間違いない。気になるお値段は、「シボレー・コルベットZ51」が650万~729万円だった時代に1100万円。けっこうな高級車だのだなあ。バイパーよ。
……と、かように書けば書くほど、先述の「やばいもの買っちゃったんじゃないの」感が強まっていく。ああ、なんだかわき腹が痛い。痛い。いたたたた。
ちなみに、本稿を執筆する武蔵野の小市民は、これを398万円で購入した。諸費用込みだと429万6810円。16年落ちのアメ車と思うと、高いのだか安いのだか。
先述のポルシェ911 GT2が4ケタ万円で取引されているご時勢に、こんなことでもんもんとしている辺り、クルマのスケールに不釣り合いな筆者の小市民ぶりがうかがえるというものである。
だって惚れちゃったんだもの
それにしても、今回の購入劇を報告した皆々さまから投げかけられるのは、「なんでそんなクルマ買っちゃったの!?」という質問としっ責である。
それはそうでありませう。同じ輸入スポーツカーでも、同程度の予算で買えるまっとうな銘柄はほかにいくらでもあるし、よりによってこんなどマイナーで、苦労すること請け合いで、リセールだって見込めないようなクルマに手を出すなんて、はたから見たら狂気のさたである。
でもね、しょうがないじゃない。欲しくなっちゃったんだもの。
それとワタクシ常々思うのですけど、このご時勢に“スポーツカー”なんてアナーキーなものを買おうって人が、よそさまの意見を参考にして、リセールを気にして、失敗しないクルマ選びを心がけるって、なんか違いません? もっとはっきり言わせていただきますと、それって格好悪くないか? アンタ、スポーツカーを買うんでしょうが! 趣味の一台ぐらい、後先考えないで自分の好きなものを買おうや。
それとね、健全な既婚青年諸君には分からないことであろうが、30代も半ばまで“男やもめ”をやっていると、なぜかぽっぽに小金がたまる。そして四畳一間の真ん中で思うのだ。「これ、使うなら今しかねえな」と。
そんな動機と経緯によって、私が借りている隣のアパートの駐車場には今、ダッジ・バイパーが停まっているのである。
これからこやつに、一体いくらのお金を吸われることになるのやら。8リッターの肺活量でチューっと一気にやられたら、わが家の国庫はたちまち枯渇するだろう。
取りあえずは、お布団が干せそうなくらいに長大なボンネットをたたいて、新しいマイカーにごあいさつ。
「ようこそ武蔵野へ」
それからすぐに、武蔵野の小市民は付け加えさせていただいた。
「どうか、お手柔らかにお願いします」
(webCG ほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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