第377回:日常運転の楽しさをサーキットで学ぶ
マツダ主催の「Be a driver.体験試乗取材会」に参加した
2016.11.09
エディターから一言
「クルマを通じて人生を楽しんでもらう」とキャッチフレーズを掲げるマツダが、プレス向けのイベント「Be a driver.体験試乗取材会」を開催。ジムカーナコースでのオートテスト、Gボウルを使用したGのつながり体感、「マツダ・ロードスター」でのサーキット走行の模様を、サーキット初体験のwebCG編集部員がリポートする。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
F1も日常走行も同じ
モータースポーツと日常の運転のイメージが乖離(かいり)しているのではないか。マツダ社内でのこんな疑問から今回のイベントの企画が持ち上がったという。確かに、僕がF1ドライバーに抱くイメージは、特別な運転技術を駆使して、とんでもないパワーのクルマをとんでもない速度で走らせる――といったもの。読者の皆さんも似たような印象をお持ちではないかと思う。しかし、クルマを思うように走らせて停止させるという行動の中で、ドライバーが触れる装置はアクセル、ハンドル、ブレーキの3つだけ。つまり、例えば週末にイオンに向かう僕たちも、ライバルと100分の1秒を競うF1ドライバーも、アクセル、ハンドル、ブレーキを操作してクルマを動かしているのである。モータースポーツも日常走行も丁寧な操作が大切。マツダの訴えたかったのはたぶんこういうことだと思う。
午前8時。雨の降りしきる常磐道をひた走り、われわれ取材班は筑波サーキットに到着した。試乗を前に注意事項や開催概要の説明が行われ、マツダ国内広報部の町田 晃マネージャーは「マツダでは、スポーツ走行の延長線上にモータースポーツがあると考えています。それで、サーキットで日常走行に近いところから体験していただき、最後は思いっきりスポーツ走行を楽しんでください」と話した。
試乗は3種類用意されており、1つ目はジムカーナ場での「オートテスト」。オートテストとは、イギリスを起源とする自動車競技で、広場に複数のパイロンを並べ、それに沿って決められた区間をスラロームで走ったり、バックで指定された場所にクルマを入れたりして、運転のテクニックを競うというもの。速すぎても遅すぎてもダメで、あらかじめ設定された基準タイムに近い走りをしなければならないのだ。ちなみにパイロンに接触したり、コースを間違えたりするとタイムにペナルティーが加算される。このテストを通じて、日常の運転の中にも楽しみを見いだすことができるという。
2つ目はGボウルという器具を使用しての「Gのつながり体感」。Gボウルとは、浅いお皿の上にピンポン玉が乗ったような装置で、ダッシュボードの上に設置される。荒い運転をして0.4G以上かかると玉がボウルから落ちてしまうので、これを落とさないようにコースをグルグルと回って速さを競うのだ。玉を落とすとペナルティータイムが加算されてしまう。街なかを走行中、急な飛び出しの際にかける急ブレーキがだいたい0.4Gなので、玉を落とさないように走ることができれば、日常の運転でGがかかりすぎることはないという。つまり、同乗者にも優しい運転ができるようになるというわけ。
最後はマツダ・ロードスターの北米版「マツダMX-5」のカップ仕様車と、ロードスターのパーティーレース仕様での「サーキット走行」である。MX-5のカップ仕様車は、世界同一仕様によるワンメイクレース「グローバルMX-5カップ」に参戦できる車両で、北米仕様の2リッターエンジン車をベースに、数々の専用部品で性能強化が図られたモデル。公道は走行できないが、788万4000円で市販されている。ただ、今回これを運転するには国内A級ライセンスが必要ということで、普通自動車第一種運転免許しか取得していない僕は、プロレーサーの運転に同乗することになる。一方、パーティーレース仕様はロードスターの競技用ベース車両である「NR-A」に5点式シートベルトやけん引フックを装着したもの。動力性能などは普通のロードスターと変わらない。こちらはヘルメットと長袖、長ズボンを着用すればサーキットを走ることができる。
カギはリバースギアにあり
最初に挑戦したのはジムカーナ場でのオートテスト。気がつけば雨はほとんど上がっている。使用するクルマはマニュアルトランスミッションを搭載する「マツダ・デミオ15MB」。僕にとっては初めてハンドルを握るクルマで少し心細いけど、コンパクトな車体に精悍(せいかん)な顔つきが頼もしい。コースは50m四方ほどのスペースにパイロンが30本くらい並べてあり、その中央付近のパイロンで囲んであるところが駐車スペースだ。まずは外周をぐるっと回り、パイロンを1カ所だけ巻いて走って駐車スペースにバックで停車。それから来たルートを戻り、色の違うパイロンの横を通過してゴールとなる。
実際の走行はテスト走行が2回と、タイム計測が1回。基準タイムは50秒に設定された。最初のテスト走行に挑んだ僕は、快調なペースで走りつつ駐車スペースへ。そしてバックで駐車となったところで、あれ、ギアがリバースに入らない!? あれ!? デミオを運転するのが初めてだったから、同行した“バイパーほった”こと堀田先輩に操作方法を聞いておいたのに。「デミオのリバースは押してから入れるんすよ」。この(聞き取りづらい)声が頭の中をループするが、どんなに押しても入らない。しばらく立ち往生した揚げ句、コース上のスタッフに助けてもらうことに。死ぬまで忘れません、「デミオのリバースは“下に”押し込んでから入れる」ということを。横に押し込んでもゴツゴツとシフトゲートの壁に当たるだけである。すごく恥ずかしかったけれど、「あんなやつも参加しているんだ」と、僕が会場のハードルを一気に下げたのは間違いないでしょう。当然ながら、その後リバースギアに入らないかのようにモタモタするクルマは1台もいなかった。
他の参加者の走りを見て感じたのは、50秒というのは意外に速いタイムだということ。コーナーでタイヤが鳴くような積極的な走りをした人でも全然50秒を切れなかったりしている。駐車の際に一旦停止するので、途中がいかに速くてもここでスムーズさを欠くと、あっという間に時間が経過してしまうのだ。ギアが入らないなどは論外なのだ。
そしていよいよタイム計測へ。スタートも決まったし、コーナーもスムーズに回れた。バックでの駐車もソツなくできた。タイム表示板を見ると……1分14秒●●!! すぐに表示が消えてしまったので正確には確認できなかったけど、1分14秒までは確かに見えた。他の参加者の中には、49秒5のニアピンを出す人がいたりして、僕はすっかり意気消沈したのであった。
ボールを回転させろ
第2ラウンドでは「マツダ・アクセラ1.5XD」のAT車にGボウルを装着してコース1000を周回し、Gのつながりを体感する。玉を落とさないようにGボウルの動きに注意しなければいけないのだが、玉ばかり見ていると危ない。本当に危ない。過去には玉ばかり見ていて、気がついたらコースアウトして芝生の上にいたなんて人もいたらしい。まずは前方を見ること。
コースはそんなに難しくないのだが、中盤で半径30mほどの円を1周半回るポイントがあり、ここが難しかった。大回りでなるべく旋回Gをかけないように回ると、結局ハンドルの切り増しが必要になり、そこで玉がお皿のギリギリにきたりする。デミオのときに続いて、スムーズな運転の大切さを痛感する。試乗の概要を説明したマツダ国内広報部の板垣友成氏によると、コーナー入り口から出口にかけて減速G→旋回G→加速Gをうまくつなげると、お皿の上で玉が回転するらしい。目指すべきはそこだ。
2度の練習走行を経てタイム計測に挑む。練習では玉を落としていない。ちなみに、玉を落とすとペナルティータイムで+10秒、2度落としたら失格という厳しいルールが設定される。とはいえ、ずっと慎重な運転のままだとまるでタイムが短縮できないので、スムーズにアクセルを踏み込んで加速してやる必要がある。こうすれば高速でも玉は危ない挙動を見せない。それで、タイム計測の結果は、1分34秒5。他の参加者の速い人でも1分20秒くらいだったので、まあ善戦というところでしょうか。玉も落ちなかったし。回転はさせられなかったけど。
最初から全開でお願いします
続いてプロレーサーの運転するマツダMX-5のカップ仕様車に乗せてもらう。慣れないヘルメットを装着しているため、乗り込もうとすると頭がゴツゴツとロールケージに何度も当たる。ああ、ヘルメットのおかげで痛くないなとかトンチンカンなことを考えたりした。ドライバーから「ペースはどうしましょうか。 最初は流します? それともずっと全開で大丈夫ですか?」という質問が。もちろん「最初から全開でお願いします!」と苦笑いで答えました。「気分が悪くなったら言ってくださいね」との言葉に少しあせる。同乗走行の感想は、とにかくギアチェンジが速い。本当にシュシュッで完了なので、コーナーとコーナーの間の短い直線でも適切なギア選択でどんどん加速していく。気持ち悪くなるどころか、むしろ心地いい。加速、減速、コーナリングに不自然なところがまるでなくて、すべてが一連の動きに感じる。運転がうまいという意味を再認識したのであった。
そして最後は自分でハンドルを握ってのサーキット走行。マツダのスタッフからも「ここまで我慢の多い試乗が多かったと思いますが、お待たせいたしました。皆さん頑張ってください」と煽(あお)りが入る。筆者の相棒はロードスターのパーティーレース仕様車である。これが楽しい。スコッと決まるシフト感覚が気持ちいい。そしてよく曲がる。有頂天で周回を重ねていると、前のクルマにずいぶんと接近していることに気づいた。「これは、もしや、抜ける?」 確か注意事項の説明で追い抜いてもいいと言っていたし。そう考えてペースを上げ、前のクルマを追い回しているうちにいつしかチェッカードフラッグが。「もうちょっとで抜けたのに。あそこでシフトミスしたのが痛かったな」などと考えつつも、僕は充実感にあふれたまま、降車したのだった。
堀田先輩に「すごく面白かったです。もうちょっとで前のクルマを抜けたんですよ」と報告すると、「抜けるわけないでしょ。あれは先導車ですよ」と驚愕(きょうがく)の返事が。先導車のドライバー、後ろから目の色を変えて追いかけてくる変なやつに、笑いをこらえていただろうか。こうして、たくさんの教訓を得た代わりに、たくさんの恥をまき散らして僕のサーキット初体験は幕を閉じた。
(文=webCG 藤沢/写真=向後一宏)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
-
第876回:“ヨコハマ史上最高”が目白押し SUV向けスタッドレスタイヤの新製品「アイスガード8 SUV」を試す 2026.10.2 2026年9月1日に販売が開始された横浜ゴムのSUV用スタッドレスタイヤ「アイスガード8 SUV」。従来製品との比較で氷上性能を14%、雪上性能を4%、耐摩耗性能を11%アップさせたというその実力を、一足先に冬のテストコースで確かめた。
-
第875回:キモは氷上性能! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」を試す 2026.7.1 違いは氷の上で表れる! ダンロップの新しいスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX ICE-Pro(ウインターマックス アイスプロ)」に、冬の北海道で試乗。氷上性能を徹底的に追求したという新製品の、パフォーマンスの一端に触れた。
-
第874回:自動運転からワイパーまで! 自動車を支えるメガサプライヤー ボッシュのあくなき挑戦 2026.6.27 世界屈指のメガサプライヤー、ボッシュが開発中の新技術を披露! 市街地での高度な運転支援技術に、日本の方言にも対応した対話型AI、サーキット走行のノウハウを教えてくれるコーチング機能等々……興味深いその中身をリポートする。
-
第873回:ウエット路面に強み ミシュランの新タイヤ「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」を試す 2026.6.19 2026年1月29日に導入が発表されたミシュランの新製品「パイロットスポーツ5エナジー」と「プライマシー5エナジー」。これまでの特徴に加え、低燃費性能や耐摩耗性、ウエットグリップ性能のアップをうたう両モデルの走りを、クローズドコースで確かめた。
-
第872回:「フォレスター」がJNCAPで最高評価を獲得! “安全”に対するスバルの不断の取り組みに迫る 2026.6.6 相対速度100km/hの衝突後でも、普通にドアが開く!? 人気のSUV「スバル・フォレスター」が、日本の自動車アセスメントで最高評価を獲得した。安全なクルマづくりを第一とするスバルの取り組みを、群馬製作所で行われた衝突試験デモの様子とともにリポートする。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。