メルセデスAMG E63 S 4MATIC+(4WD/9AT)
しなやかな史上最強サルーン 2017.01.07 試乗記 新型「メルセデス・ベンツEクラス」のラインナップに加わった最強モデル「メルセデスAMG E63 S 4MATIC+」に試乗。Eクラス史上最強の612psを誇るスーパーサルーンの走りをポルトガルの公道とサーキットでチェックした。後輪駆動を廃し全車4WDへ
近年は悲願のスーパースポーツを開発、それを武器にFIA-GT3カテゴリーでのプレゼンスを高めているAMGだが、さりとてお笑いネタにもなったそのブランドネームに古くから親しんできた日本のクルマ好きにとって、それはメルセデスの衣を借りたスーパーサルーンというイメージが強い。
とりわけ多くの人気を得たのが、Eクラスのそれだ。近年はモデルバリエーションも飛躍的に増えており、とりわけCクラスの販売台数は相当なものだが、W210~W211の世代では大半といっても過言ではない数が上陸したはずである。大きすぎず小さすぎずのサイズ感に比例してのスポーティネスとラグジュアリーの適切なバランス感はそれをオーナードライバーズカーとして求める向きにとってお誂(あつら)えだった。そこに加えて、価格や性能を秘めたるものとする悪目立ちのなさも人気を博した理由だったように思う。
新型Eクラスの登場から1年を置かずしてデビューしたピュアAMG、E63シリーズ。その性能面での最大の特徴は、後輪駆動を廃し全車4WD化されたことだろう。理由は有り余るパワーを吸収し、期待されるスタビリティーを得る上でFRには限界があること、そしてAMGにとっての最大市場である米国の動向も照らしての判断だろう。現に先代にあたるW212系においてはE63シリーズ、販売の過半数が4WDだったという。
612psの4リッターV8ツインターボ搭載
4MATIC+(4マチックプラス)と名付けられた新しい4WDシステムは、前型4MATICの前後駆動配分が33:67の固定であったのに対して、同じフルタイム4WDでありながら電子制御デフを採用することで0:100~50:50のバリアブル型となっている。これにより走行状況に応じてのリニアな駆動配分だけでなく、レースモード+ESPカットオフ+Mモードと条件がそろえば0:100で駆動配分が固定される「ドリフトモード」に設定することも可能だ。恐らくは非常に限定的だろう、確信犯でそれを用いるFR信仰者に向けたAMGの回答がここに隠されているわけである。
新しいE63シリーズに搭載されるパワーユニットはM177型の4リッター直噴V8。バンク間にツインスクロール・ツインターボを搭載するそれは循環方式がウエットサンプながらも「AMG GT」のM178型の系統となるもので、「C63」「G63」に次いでの採用となる。そして、その最高出力は両車をものともしないどころか登場したばかりの「AMG GT R」をも上回る612ps/850Nm。これはスポーツグレードにあたるE63 Sの数値だが、標準グレードの「E63」でも571ps/750Nmと強烈な火力がもたらされている。
トランスミッションには両グレードで9Gトロニックをベースにトルコン部を湿式クラッチに置き換えたスピードシフトMCTを採用。タイヤサイズはE63が19インチ、E63 Sが20インチとなり、オプションでカーボンセラミックのブレーキシステムが選択できる辺りは先代と同様だ。
ちなみに4WD用のドライブシャフトの取り回しスペースの関係で、先代までは四駆モデルで右ハンドルの選択肢はなかったが、新型ではその生産が可能となったこともあり、日本仕様でも基本は右ハンドルで供給されることになるはずだ。
スムーズでしなやか
試乗に供されたのはスポーツグレードであるE63 Sのみ。4リッターのキャパシティーで600psオーバーと、スーパーカーのパワーユニットにも匹敵するハイチューンゆえ、低回転域でのトルク不足からなる扱いにくさもあるかと想像していたが、9段ならではのワイドレンジも手伝ってか、タウンスピードでの取り回しにもかったるさはみじんも感じさせない。加えて湿式クラッチを用いるMCTゆえの滑らかなリンケージもあって、減速や停止寸前から再加速など、駆動変化の大きな場面でもスムーズな走りがかなえられている。MCTはAMGならではの技術だが、快適性とダイレクト感とを高次元で両立してほしいという顧客のニーズをしっかり賄うベストなソリューションといえるだろう。
基準車にも用いられるマルチチャンバー式のエアスプリングをベースに、独自のチューニングが加えられたサスペンションは、低速域からきれいに路面の凹凸をいなし、目地段差などの鋭利な入力もしっかり丸め込んで乗員に不快な印象を抱かせない。一方で大入力の収束にもお釣りのような揺り戻しも感じさせず、特に伸び側の上屋の収まりは見事にメルセデス的なライドフィールを踏襲している。
1~2世代前のAMGはアシが締められていても見事なホッピング特性で視点の上下動が少ないことが長距離移動の疲れの少なさにつながっていたが、新しいE63はアタリそのものが柔らかく速度を問わず良好な快適性を確保している。細かな凹凸のいなしはランフラットでなくラジアルタイヤを採用するがゆえの縦バネ性能も加味すべきところだが、強烈なパワーを支えるアシの味付けとしては見事な模範といえるだろう。
自然なハンドリング
高速領域でのダイナミクスは主にサーキットで試すこととなったが、懸念される四駆化によるアンダーステアの増加、もしくは人工的な曲がり込みといった癖のようなものはほとんど見受けられなかった。駆動配分をつぶさに追う術(すべ)はないが、前輪側への駆動配分は操舵感や挙動変化に極力影響が出ないようにしつけられているとみえて、実際のマス感を抹殺しない程度にきっちりニュートラルにコーナーのインを突いていく。E63がクラシックな機械式LSDを用いるのに対してE63 Sは電子制御LSDで左右輪の回転差をリニアにコントロールしているが、このシステムが本性をあらわにするのは先述のドリフトモードくらいだろう。
持てる技術を自然につなげることは以前からAMGの是とされてきたが、E63 Sは世界最速サルーンのスペックを持ちながら、その全てが自然で優しい。アクセルを踏み込んでの速さたるや説明するまでもないが、それを日常域での上質感とシームレスにつなぐ術にこそ、AMGの核心がみてとれる。そのダイナミックレンジの広さは、他社にはなかなかまねできるものではない。だからこそ、彼らの手がけるサルーンは強力な支持を得られるのだろう。
(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
メルセデスAMG E63 S 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4993×1907×1460mm
ホイールベース:2939mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:612ps(450kW)/5750-6500rpm
最大トルク:86.7kgm(850Nm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)265/35R20/(後)295/30R20
燃費:8.8リッター/100km(約11.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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