BMWアルピナB7ビターボ リムジン ロング(FR/8AT)
知る人ぞ知る専門店 2017.01.13 試乗記 BMWアルピナのフラッグシップモデル「B7ビターボ リムジン ロング」に試乗。608psの4.4リッターV8ツインターボエンジンを搭載するスーパーリムジンの実力を全方位で探った。独立独歩で半世紀
他人から尋ねられても、簡単なキャッチフレーズでは説明するのが難しい車の筆頭がアルピナである。昨年創立50周年を迎えたとはいえ、よほどの車好きでなければその実情を知らず、登山用品のブランドか何かと思っている人もいる。何しろ生産台数が限られているため、実際に見て乗った経験のある人は少なく、また普通の自動車メーカーのようにCMなどで声高に自己主張しないので、いまだにしょせんBMWのチューニングカーだろう、というような不正確な捉え方をしている人も少なくない。そんないい加減な発言に対しても、あまり表立った反論をしないのがアルピナの流儀である。どうも分かる人にだけ分かればそれで十分、と考えているふしがある。
あらためて要点を挙げると、創業者の名前を冠した「アルピナ・ブルクハルト・ボーフェンジーペンKG」の歴史は、「BMW 1500」用のキャブレターを開発した50年前に始まり、歴代のBMW各車をベースにきわめて端正で高品質、そしてもちろん高性能なセダンとクーペを作り続けてきた(今ではSUVもあるが)。チューニングショップどころか、れっきとしたマニュファクチュアラーとして認められているうえに、しかも今ではメルセデス・ベンツのブランドのひとつとしてグループ企業となっているAMGとは対照的に、現在に至るまでアルピナはBMW本体との資本関係を持たない。それでいながらBMWとの深い協力関係を維持しているという実に珍しいポジションを守り続けているメーカーなのである。今なお生産能力は年間最大1700台というから、あのフェラーリの半分にも満たない。
猛烈だがエレガント
B7ビターボは、カーボン・コア・ボディーと最新の電子制御システムを特徴とした現行G11型「BMW 7シリーズ」をベースとしたアルピナの最新作である。4.4リッターV8ツインターボエンジンは、Vバンクの中に収められた2基のツインスクロール・ターボチャージャーやピストンをはじめ、インタークーラーなどの吸気系や排気系、冷却系までも専用コンポーネントに変更された結果、608ps(447kW)/5750-6250rpmの最高出力と、81.6kgm(800Nm)/3000-5000rpmの最大トルクを発生する。「750i/750Li」に搭載されているスタンダードユニットでも450ps(330kW)/5500rpm、66.3kgm(650Nm)/1800-4500rpmという強力さだが、アルピナB7ビターボはまさしくけた違い、これは「M760Li」用6.6リッターV12ツインターボのスペックと事実上同じである。トランスミッションは「アルピナ・スウィッチ・トロニック」と称する8段ATだが、強大なトルクに対応すべくZFと共同開発したもので、従来通りステアリングのスポークの裏側にマニュアルシフト用のボタンが仕込まれている。
BMWの標準エンジンでも十分以上にパワフルなのだから当たり前だが、B7ビターボは普段はただただ圧倒的に滑らかで、いざ必要な時には大きな波に乗るように加速する。低いギアでコーナーを立ち上がると、コンフォートモードでさえ、ちょっと深く踏んだだけで295/35ZR20という巨大なリアタイヤが瞬間的にグリップを失うほどの猛烈さだが、荒々しさは微塵(みじん)も感じさせないのがアルピナらしい。ちなみにランフラットタイヤを嫌うアルピナがエレガントな20インチホイールに履くのは、ミシュラン・パイロット スーパースポーツである。ロングボディーで全長5.3m近いサルーンの車重は2.1tを超えるが、0-100km/h加速は4.2秒、アルピナ流の最高“巡航”速度は330km/hという。
目立つためではなく
スタンダードの「BMW 750Li」より700万円ほども高いのに、自己主張の強い車を見慣れた目には地味にさえ感じるかもしれないが、押し出し感や派手さは極力抑えるのがアルピナの流儀である。控えめだが細部に凝ったインテリアは例によってクラシックなウッドパネルと最上級のレザー仕立てだ。フルデジタルメーター化されてはアルピナのこだわりを見せる場所も限られるはずだが、B7ビターボではメーターのカラーリングが工夫されていた。コンフォートからスポーツモードに切り替えると、スタンダードの750iでは赤地になるメーターがブルーとグリーンのアルピナカラーに変化するのだ。ラヴァリナレザーという手のひらに吸いつくような柔らかな革が使用されているステアリングホイールも、リム内側の上半分はブルー、下半分はグリーンの糸でステッチが入っている芸の細かさである。
新しい鍛造ホイールにしても20本スポークを持つそのデザインはこれまでのアルピナ・クラシックホイールとほとんど変わらないように見える。せっかく新型ホイールを採用するなら、デザインも一新してアピールするのが普通のやり方に思えるが、アルピナの場合は、一見しただけでは見分けがつかないような意匠をあえて選択している。従来のホイールはスポーク内部にエアチャンネルが設けられ、エアバルブはセンターキャップの内側に隠されていた。つまりリム側には出っ張りがないシンプルで繊細なデザインである。さすがに鍛造タイプではそうもいかなかったようだが、その簡潔なデザインをできるだけ踏襲したらしい。
万人向けではないが
BMW 7シリーズにはアダプティブダンパーを備えたエアサスペンションが採用されているが、アルピナにとってもB7ビターボは初のエアサスペンション・サルーンだという。加えてアダプティブスタビライザーやリアステアなど電子制御を満載した乗り心地はひとことで言ってラグジュアリーである。従来ももちろん硬派一辺倒ではなかったが、滑らかさの奥に硬い芯がある乗り心地が特徴だった。それに比べると最新のB7ビターボは、どこまでもソフトにフラットに受け止めてくれる感じがする。スポーツ・プラス・モードを選ぶか、230km/h以上になると車高が20mm下がるというから(低速では20mm車高を高くすることも可能)、おそらくはそのぐらいの超高速域になって初めて、ビシッと引き締まった乗り心地に変化すると思われる。さすがに山道ではボディーサイズをすっかり忘れるというわけにはいかないが、ハンドリングはリニアでノーズは水平移動するように軽快に向きを変える。
凝りに凝ってはいるけれど、一見目立たない高品質、高性能のためにエクストラを払うということに満足できる人は、かなり高度なエンスージアストと言えるだろう。アルピナは依然そのような目利き向けである。敷居は確かに高いかもしれないが、他人の評価やネットでの格付けなどよりも自分の趣味を大切にしたい人なら、いつかは経験しておくべき本当の名店なのである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
BMWアルピナB7ビターボ リムジン ロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5250×1900×1505mm
ホイールベース:3210mm
車重:2130kg
駆動方式:FR
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:608ps(447kW)/5750-6250rpm
最大トルク:81.6kgm(800Nm)/3000-5000rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20 101Y/(後)295/35ZR20 105Y(ミシュラン・パイロット スーパースポーツ)
燃費:7.9km/リッター(JC08モード)
価格:2395万円/テスト車=2551万8000円
オプション装備:ボディーカラー(アルピナ・ブルー)(58万円)/クライメート・コンフォート・ガラス(16万2000円)/パノラマ・サンルーフ(19万8000円)/ノンスモーカー・パッケージ(0円)/リアシート・ベンチレーション(19万8000円)/セラミックス・フィニッシュ(9万8000円)/BMWタッチ・コマンド(8万2000円)/ハイグロス・シャドーライン(6万2000円)/ルーフライニング・アルカンタラ・アンソラジット(18万8000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4147km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:222.3km
使用燃料:38.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.9km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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