第396回:トヨタが18年ぶりにカムバック!
2017年のWRC開幕戦ラリー・モンテカルロを現地リポート
2017.01.26
エディターから一言
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18年ぶりの世界ラリー選手権(WRC)で大健闘。復帰第1戦となったラリー・モンテカルロを、トヨタはどう戦ったのか? WRCのファンは彼らをどう迎えたのか? 2017年の開幕戦の様子を、現地からリポートする。
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注目は新しいレギュレーションとトヨタの復帰
2017年のWRCの開幕戦、ラリー・モンテカルロが、1月19日から22日まで開催された。今シーズンのWRCは、トップカテゴリーである「ワールドラリーカー」(WRカー)のレギュレーションが大きく変わったとともに、18年ぶりにトヨタが「ヤリスWRC」で戦線に復帰したことが大きな話題となっている。今回はそのトヨタの戦いに焦点をあてて、開幕戦を報告してみたい。
フィンランドのヘルシンキから北へ約300kmに位置するユバスキュラを本拠地とする、「トミ・マキネン・レーシング」とのジョイントでスタートしたトヨタのWRCプロジェクト。一時はマシン開発の遅れがささやかれていたが、2016年末にフォルクスワーゲン(VW)のワークスドライバーを務めたヤリ-マティ・ラトバラがチームに加入すると、開発が加速した。
チーム代表のトミ・マキネン氏は、「今年は開発の年」と位置づけている。事実、絶対王者のVWが撤退したとはいえ、そのVWを常勝チームに押し上げたセバスチャン・オジェを獲得したMスポーツ、2016年の参戦を休止してまで新たなマシン「C3 WRC」の開発に専念したシトロエン、かつてトヨタ、プジョー、スズキのマシン開発に携わったミシェル・ナンダンが作りあげた「i20クーペWRC」を擁するヒュンダイなどを相手に、18年のブランクを持つトヨタがポディウムの頂点に立つことは容易ではない。
それでもトヨタの復帰には大いに注目が集まっており、モナコ公国のカジノ・スクエアで行われたスタートセレモニーでは、ヤリ-マティ・ラトバラ/ミッカ・アンティラ組と、ユホ・ハンニネン/カイ・リンドストローム組の2台のヤリスWRCは、詰め掛けたギャラリーからの大きな声援に送り出された。
サービスパークもWRCの見どころ
モナコをスタートしたラリー・モンテカルロは、サービスパークが設置されたフランスのギャップへと北上する形で2本のスペシャルステージ(SS)を走り、深夜にサービスパークへ到着する。
ちなみに、モナコからギャップまでは高速道路で約4時間の距離。選手はもちろん、チーム関係者やわれわれメディアもモナコ~ギャップ間を何度か往復することになり、ボディーブローのように疲労がたまっていく。金曜、土曜はギャップ周辺にステージが設定され、土曜夜に再びモナコへと戻り、日曜はモナコ、ニース周辺にステージが設定される。実際に地図を見てもらえれば、その位置関係がよくわかるはず。昔に比べて開催地がコンパクトにまとめられたWRCだが、伝統のモンテカルロだけはとにかく広いのだ。
ギャップに設置されたサービスパークのトヨタブースには、常に大勢のギャラリーが詰め掛けていた。マシンのサービスを行う作業エリアの横に関係者向けのホスピタリティースペースがあるのは他のワークスチームと同じだが、トヨタはギャラリー向けのホスピタリティースペースも設置していた。暖房が効いた室内からマシンのサービス風景を見学することができたのだ。聞けば、これはマキネン氏の強い希望で設置したとのこと。ステージから戻ったマシンを限られた時間内でメンテナンスし、時には修復作業も行うサービスは、メカニックが主役となるラリーのもうひとつの魅力だ。
予想外の善戦に高まる期待
初日に実施されたのは、ナイトステージのSS1とSS2。このうち、SS1はギャラリーを巻き込むクラッシュが発生してキャンセルとなり、SS2が実質のオープニングステージとなった。このSS2でハンニネンがヌービル(ヒュンダイ)、オジェ(Mスポーツ)に続いて3番手のタイムをたたき出す。ここ数年、実戦から離れていたハンニネンだが、開発ドライバーとしてヤリスをドライブし続けた経験がリザルトに反映された。
明けて金曜日、そのハンニネンがSS5で凍結した路面に足をすくわれてクラッシュ。マシンはサービスで修復されて翌日以降も出走することが可能となったものの、戦線からは離脱してしまう。これに対してラトバラは安定した走りを見せ、DAY2を4位で終えた。
DAY2でのアクシデントはあったものの、その後はコンスタントに走り続ける2台のヤリス。周囲はもちろん、ラトバラ本人も予想外の善戦に驚きを隠せない。しかし、順調に見えるラトバラのヤリスは電装系に問題を抱えていた。
また、雪、氷、ドライと、めまぐるしく変化する路面状況に、各ステージは“道の上にいる”だけでも大変な事態に。地理的には南フランスに位置するギャップだが、気温は低く、降雪もある。この冬はヨーロッパを寒波が襲い、ここギャップも例年よりも雪が多かったのだ。
DAY3を3番手で終え、夜のモナコへ戻ったラトバラ。後は最終日の4本のスペシャルステージ、距離にして約50kmを残すのみで、ポディウム獲得の期待が周囲に広がる。一方、ハンニネンはDAY3の最終ステージでパンクを喫し、順位を大きく落としてしまった。
トヨタにとって2位入賞よりも大切なもの
最終日のDAY4は、有名なチュリニ峠が舞台となる。ギャップでは好天に恵まれていたラリー・モンテカルロだが、この日のモナコ周辺は厚い雲に覆われ、今にも雨が降りそうな空模様での出走となった。案の定、ステージの中でも標高の高い地点では雪が降り出し、残雪や凍結した路面が選手たちを苦しめることに。また4本あるステージのうち、ギャラリー管理の問題で1本がキャンセルとなってしまった。
この日、最初のステージでラトバラは2番手のタイムをたたき出す。一方、総合2位につけていたオット・タナックの「フォード・フィエスタWRC」は、エンジンにトラブルが発生。SS15でタナックをかわしたラトバラが総合2位に上がり、このままフィニッシュ。トヨタはなんと、復帰初戦で2位表彰台を獲得した。
優勝したオジェとの差は2分15秒。これをたった2分15秒と見るか、2分15秒もの差と見るか。冷静に考えるとこのタイム差は大きく、ラトバラの2位は周囲が自滅して獲得した順位ともいえる。しかし、ラリーはまず完走することが前提。ましてやブランクを経て復帰したトヨタにとっては、完走することによってデータを得ることが重要なのだ。
今回のラリー・モンテカルロでは、関係者駐車場からサービスパークに入って一番手前に位置していたのがトヨタのサービスだった。そして、そこに多くのギャラリーが詰め掛ける様子を最初に目にして、久しぶりにWRCの舞台に戻ってきた日本のメーカーを、多くのファンが温かく迎えてくれたことを知った。一報道関係者という立場を越え、それがとてもうれしく思えた。
(文と写真=山本佳吾)

山本 佳吾
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